●32日目 03 午後『最後の戦い3』
息を切らせながら沙希は、ポケットに入れて置いた部室の鍵を使って、部室棟の中に入った。その中には枕を抱えて縮こまっている高阪の姿がある。
「脱出するわよ」
そう告げるが、高阪は何も答えない。沙希は近づき彼女の手を取り、
「もうここにも奴らが押し寄せているから早くして」
だが高阪は首を振って、
「ここに残ろうと思うの。私は私のために命を落とした人たちに対して責任を取らなきゃいけない。ここから逃げ出して生き延びる資格なんて――」
「馬鹿げたこと言うなっ!」
沙希は高阪の胸ぐらをつかみ上げると、
「責任を取るだって? あんた、責任の取り方知っているの!? はっきり言うけどあたしは責任を負ったけどその取り方なんて今でもわからないわよ!」
「で、でも――」
「――取り方もわからないくせして、勝手に責任とった気分になって自己完結すんなっ! それを探し出してから死ぬなり生きるなり好きにすればいいっ……!」
つばを飛ばして高阪を怒鳴りつける。
その指摘に彼女ははっと目を見開き、しばらく硬直した。が、やはり首をさっきより強く振り、
「私はあなたみたいに割り切れないし、強くもない! こんな思い背負っていくなんてとても無理よっ」
駄々をこねる。あの温厚で優しい笑みを絶えず浮かべていたとは思えない高阪に、そんな印象を受けた。
沙希はここで切り札を出す。八幡から託されたものが入っているバッグだ。
「これ、何が入っているかわかる?」
「な、なに?」
「この馬鹿げた騒動に巻き込まれた日にあたしたちが食べた給食の残りよ」
これを聞いた途端、高阪の目がはっと見開いた。
街中が変質者によって支配されたあの日、沙希たちだけは変質者にはならなかった。教師たちまで変質者となったことを考えると、もうあの日の給食に何かが仕込まれていた以外考えられない。
「これを政府に届ける。あるいはマスコミに暴露する。そうすれば重要な証拠としてこの騒動を起こした犯人への道標になるわ。幸いこの国の警察はそれなりに優秀だし、きっと逮捕される。これだけのことをやらかしたんだから、世界中から追求を受けることになるでしょうしね」
ここで沙希はふっと笑みを浮かべ、
「もうあたしたちが背負う必要なんて無いのよ。元はといえば、全部悪いのは犯人なんだから。この証拠を持って行って後は犯人に全部押し付けてやればいい。この学校で死んだ人も、この街にいた人たちを変質者にされたことも」
「で、でも犯人が見つかるとは……」
「そんときゃあたしが見つけ出してタコ殴りにしてやるわよ。ああ、でも、一人じゃ厳しいからあんたも手伝ってよね」
沙希の言葉に、高阪はすっと視線を落とした。その表情は影になり読み取れない。
そんなことをやっている内に変質者が部室の中に侵入し始めた。
「くっそ!」
この狭い部屋の中じゃやり過ごす事なんて不可能だった。沙希はすぐさま部室の中にあった細い鉄棒をつかむと戦うべく構える。
だが、先に動いたのは高阪だった。彼女は俯いたまますっとその脇を通り過ぎると、変質者の一人の胸板に強烈な前蹴りを見舞った。ひるんだ隙にさらに三発下腹部に蹴りを入れ、その場に崩れて動かなくなる。寝たきりが続いていたのにその強さに衰えはなさそうだった。
そして、すっと沙希の方を振り返り、
「今度こそ覚悟決められたと思ったのに、また迷っちゃったじゃない。ちゃんと責任とってもらうからね」
「そういう言い方されるとなんか嫌なんだけど」
「なんて」
高阪の口ぐせを聞くとどこか安心させられた。
二人は部室を飛び出し、そのまま高阪を着陸しているヘリの元に送り届ける。
「あなたはどうするの!?」
「あたしは車両に乗って脱出するから心配しないで。また後で!」
そう告げると、ヘリから離れる。ほどなくして定員いっぱいになった三機のヘリが飛び立っていった。
沙希は息を切らせながら校舎近くに止まっている車列の元に走った。そこでは梶原が待っていて、
「ほらお前にお届け物だ」
集められた名簿を渡してきた。高阪のところに走っていた後、これを渡されてチェックさせられたために追って来られなかったらしい。
沙希はそれをひたすらめくる。全てチェックは埋まっている。本当か? もうこの学校には誰も残ってないのか?
治安担当チームの生徒たちが早くしろと叫び手を振っている。
梶原は車列の一台であるトラックに飛び乗ると、沙希を引き上げるために手を差し出した。しかし、沙希はその場で立ち止まり考えてしまう。やり残したことはないのか、本当にもう誰もいないのか――
「お前はもうよくやったんだ! 十分なんだよ!」
その梶原の叫び声で決意を固めて、その手を取ってトラックに飛び乗った。ほどなくして車列が動き始め、変質者だらけだった正門ではなく、裏門を破壊して学校から脱出していく。
しばらくは車列を追ってくる変質者たちの姿がたくさん見えていたが、やがてその姿も減っていった。トラックから少しだけ顔を出してだんだん離れていく校舎を見て実感する。
ついに脱出したんだ。
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