●23日目 01 昼『続く反旗』
「我々は生徒会長の選挙を行うことを要求します!」
「は?」
高阪のクーデターの翌日、食料の新しい確保先について具体案を治安担当の八幡と食料担当の栗松で話し合っているときだった。今日の調査ではまだホームセンターの方は略奪されておらず、インスタント食品や避難用の食料、水、最悪ペットフードもあるということでしばらくは持ちこたえられそうだという結論が出たところで、突然メガネでいかにもな神経質な優等生っぽい男子とその背後に数名の男女がついて生徒会室に乗り込んできたのだ。
いきなりわけのわからないことを言われて、沙希はしばらく額に手を当てて考えていたが、メガネ男を指差し周囲に、
「こいつ誰?」
真っ先に浮かんだ疑問を訪ねてみた。
この扱いに怒ったのかメガネ男は顔を真っ赤にして、
「ランクBの雑務担当をやっていた尾崎です! 何度か顔を合わせているはずですよ!」
「あー! 本当にやらかしてる!」
ここで息を切らせて生徒会室に駆け込んできたのは雑務担当の責任者だった。騒ぎを起こしているのが雑務担当の一人だと聞いて血相変えて走ってきたんだろう。
すぐさま尾崎とかいうメガネ男を捕まえると、
「すんません、こいつたまによくわからないことを言い出す奴でして。すぐ連れて帰りますから」
「ちょ、ちょっと! やめろよ!」
責任者が首根っこ掴んで連れて帰ろうとするが、尾崎は振りほどき、
「これ以上、生徒会長には任せておけません! この状況をどうするつもりですか?」
「それならまだ二日分の食料の余裕はあるから、その間に確保先を探して確保するわよ。でないとみんな餓死するし」
「でもまた3日分しか確保しないんでしょう?」
「水道が止まっているから水に関しては無制限に溜め込む。食料は今までと変わらず3日先まで確保」
「それじゃもう駄目でしょう!」
尾崎はどんと足を踏み出して
「助けは来そうにないし、いい加減ここに長期間残る体制を作るべきなんです! 例えば学校内に畑を作るとか、街から徐々に変質者を駆逐するとか! 街全部を確保すれば川から魚をとることもできますし、物資もそのあたりの家からいくらでも得られます! 一人一人の家まで提供できるんです! そのためにはもっと学校の戦力を増やして――」
「……高阪を変なことを吹き込んだのはあんたか?」
沙希は尾崎の言い方にピンときて睨みつけた。その視線に尾崎は一瞬言葉が詰まったが、
「そ、そうです! 生徒会長のやり方には問題があったのでどうすれば改善できるのかいろいろ話をしました。そうしたら同調してくれたので副会長が生徒会長になってその方法を採用するって言ってくれたんです」
「また余計なことを……」
沙希はため息を付いてしまう。
「言っておきますが、この案は他の生徒にも聞いて賞賛されていますからね! 今のやり方に不満があると思っているのは僕だけじゃありませんよ!」
キャンキャン吠える尾崎に沙希は頭痛がしてきて頭を押さえる。あまりにも言い方が小物すぎるし、非現実な妄言のオンパレードだ。恐らく高坂も似たような構想は持っていたものの、こんなバカが先に生徒会長の座を狙ったら自分の考えまで巻き込まれると判断して、自分が頂点に立とうと決意したのかもしれない。
しかし、他の生徒たちにも同意を得ていると言っていたので確認する。
「で、何人ぐらいあんたの案に賛同したの? 後ろにくっついている連中も多分そうよね?」
そう言って尾崎の後ろ――ただし生徒会室には入らずに廊下から中をうかがっている――にいた男女数名の生徒に視線を向けた。が、特に睨んだつもりもないのに一目散にその連中が去っていってしまう。人望のかけらもないと沙希は呆れ返るしか無い。
しかし尾崎は自信満々に生徒の名前が載ったリストを差し出し、
「これが賛同者です!」
「……10人しか載ってないんだけど」
署名と書かれたリストには男子6人女子4人で実名が書かれている。しかし、今学校内にいる生徒は200人ぐらいだ。とてもじゃないが生徒たちの賛同を得たとは言い難い。
念のため、
「栗松はどう思う?」
「えええっ?」
唐突に振られて困ったように顔を慌てて、
「いやちょっと話が壮大過ぎてよくわからないよー。街を征服して王国でも作るって話? 無理だと思う」
「これで一人脱落。次、八幡は?」
話を振られた八幡は幼気な表情でやや困って見せてから、
「そうだね……昨日あれだけの事が起きたんだ。そんな直後で街全部から変質者を駆逐するなんて話は――」
ここで視線を強めて、
「他の治安担当の生徒にする勇気はないね」
「ほら」
当然だと沙希が言うものの、尾崎は顔を真赤にして、
「ここにいるのは生徒会長のシンパだからでしょう! そもそもこういう活動を表立ってやれば即座に反逆行為として捕まって穴掘りさせられるっていうじゃないですか! そんな状況でまともな意見を募るなんて無理に決まっているんですよ!」
「あーうるさいうるさい」
喚き散らしまくる尾崎に沙希はいい加減うんざりしてきた。今までの学校生活で本当に中学生離れした生徒たちに助けられてきたものだが、こんな究極的なバカが今まで現れなかったのが奇跡だったのかもしれない。
「で、こいつをどうすりゃいいんだ。つまみ出せばいいのか、ここで締め上げるのかどっちなんだ」
いきなり背後に立って凄みを利かせた梶原に、尾崎は素早い動きで離れると、
「ほっほら見ろ! こうやって脅すから生徒たちはみんな言いたいことも言えないんですよ!」
「で、それで何をしたいわけ? ってああ、だから生徒会長選挙ってことか」
ようやく話が繋がった。つまり尾崎は生徒会長が強権的な支配をしているから生徒たちが本音を言えない。だからきちんと認められた形で生徒会長選挙をやってどっちの意見が受け入れられるか勝負しようといいたいのだろう。
沙希は特大のため息を付いて頭を掻く。尾崎というこのメガネ男子、相当なバカだが行動力だけはかなりありそうだ。このまま放置して余計に足を引っ張られても困る。それに……
「わかったわよ。やってみましょうか。生徒会長選挙」
「……え、本当に?」
あっさり受け入れられたのが意外だったのか一瞬きょとんとする尾崎。沙希はパタパタと手を振り、
「どうせ明日の夕方に全校集会をやるつもりだったからそのときについでならいいわよ。でも長々とやるつもりはないから一度切りで10分以内に終わらせること」
「よっしゃああああああ! じゃあ明日の夕方の全校集会までは選挙活動しますからね! あと結果が出て負けても翻したりしないでくださいよ!」
「うるさいなぁ……」
小躍りしながら出ていった尾崎に心底呆れるしか無い。一緒にいた雑務担当の責任者も申し訳なさそうに一礼してからその後を追う。
この様子を黙ってみていた光沢だったが、いつもの胡散臭いスマイルで、
「いいじゃないですか。昨日あれだけの惨事があったのにああいう風に振る舞える人は貴重ですよ。ハートが強くて羨ましい限りです」
「浮かれて面倒事を起こしやすいだけにしかみえないっての」
やれやれと沙希はうるさいのがいなくなって気が楽になる。梶原はまた背後に立つと、
「いいのかよ?」
「まあちょうどいいたいこともあったし、昨日の高阪の件で校内がグラついている感がまだ残っているし、いい機会だから言いたいことを言わせてもらうわよ」
ここで沙希はニヤリとあくどい笑みを浮かべる。
「もっとも生徒会長の席を誰かに譲る気はないわよ。どんな結果になったとしてもね」
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