●22日目 07 昼『耐えられない重み』
「仕方がなかったの。他に手段もなかったし、こうするしか……」
八幡が運転する軽ワゴンの中で高阪はずっと自分に対して言い訳を続けている。
車内には他に八幡、沙希と治安担当の二人がいた。できるだけ急いで爆破されたスーパーマーケットに向かいたかったが、家の中にいた変質者たちが爆発の音を聞きつけて外に出てきているため、できるだけ数の少ないルートを慎重に選びつつ進むしかなく、なかなか爆破された場所へ近づくことが出来なかった。
ただそのおかげで、沙希は久しぶりに外の様子を見ることができた。建物などの様子は変わらずたまに家の中から引きずり出された家具が路上に散乱しているのも目につく程度だ。ただ、変質者たちは前に比べて飢えつつあるのか少しやせているように感じた。
八幡は重苦しい表情で運転を続け、高阪はずっと俯いてブツブツつぶやいているため車内の雰囲気は最悪だった。特に重症な高阪には何か声をかけてやりたかったが、良い慰め言葉が思いつかず、そんなこんなのうちについにスーパーマーケット近くにたどり着く。
「……ひでぇな」
助手席に座っていた梶原がこぼす。立派だったスーパーマーケットは完全にがれきの山とかし、辺りにはコンクリートやガラスの破片が散乱していた。ガスか何かを使ったのだろうか。大規模な爆発だったのは素人目にもわかった。
「参ったたわね。これじゃもう使い物にならない」
沙希は苦々しくつぶやく。瓦礫に埋もれた食料は探せば見つかるかもしれないが、大した量ではないだろう。
行方不明になっていた治安担当の生徒たちの姿も見当たらなかった。周囲を見渡してみるが、目につくのは変質者たちばかりだ。
「店内に置き去りにされたまま爆破されたかも……でもそうなるとこの変質者たちの数じゃ確認しようが……」
ぽつりと八幡が言う。その可能性は十分にある。一人ひとり始末するよりは、まとめて消し飛ばした方が、効率がいい――腹立たしい言い方だが。
ふと、軽ワゴンの後ろからドンドンと音が響く。振り返ってみれば変質者二人が開けろと言わんばかりに叩いていた。
「おい数が増えてきたぞ。これ以上ここに長居するとやばそうだ」
「……そうだね」
梶原の指摘に、八幡は軽ワゴンを移動させ始めた。治安担当チームの生存者は発見できず、遺体の確認すらできない。すっきりしない状態に沙希は胃がきりきり痛む。一方の高阪は顔を上げることなくじっと俯いて聞き取れない何かをつぶやいていただけだった。
ふと気がつく。このあたりに群がる変質者たちの数の違和感だ。略奪者にはなぜか変質者が集まらなかったのでスーパーの周りにはあまりいなかったはずなのに、今は周辺に集まってきている。物音を聞きつけて集まってきたのかもしれないが、すぐに散開していないのが気になる。
変質者が集まってくる理由があるのか? 沙希がそう思った時だった。
路地の奥に変質者たちがひときわ多く集まっている場所があるのに気がついた。同時に、それが何なのか直感で理解した。とてつもなく恐ろしいものが。それは今の沙希の疑問を確信に変えるには十分すぎるものが。
沙希はいっそ見つからない方がマシだったと思った。なぜ見つけてしまったのか、目に止まらなければよかったのにと激しく後悔した。
だが見つけてしまった以上、言わないわけにはいかない。
「止めて」
「……どうしたの?」
八幡は一旦停車し、沙希の方に振り返る。彼女は見つけた「それ」の方を指さした。高阪以外の視線が一斉にそちらに向かった。
「何が――え」
最初はそれが何なのかわからなかったが、やがて理解して顔面蒼白になる。梶原も「それ」に気がつき、
「くそがっ!」
梶原はドアを思いっきり叩いた。後ろにいた治安担当の二人に至ってはあまりの光景に口を押さえて嘔吐感を押さえ込むことになった。
「どうかしたの……?」
高阪が身を乗り出してきた。沙希は一瞬止めようという思いが出たが、すぐにやめる。洞察力が高い彼女がその非道の証拠に気がつかないわけがない。
そして、すぐにそこにあったものがなんなのか理解したのだろう、目を見開き完全に身体が固まってしまった。
スーパーマーケットの近くの路地にあったもの。それは帰ってこなかった十人の治安担当チームだった。しかも山のように積み上げられている。それだけならまだよかった。問題なのはそれに変質者数十人が群がってむさぼり食っていることだ。
一体何のためにこんなことをしたのか。沙希は混乱気味に頭を悩ませる。
もし略奪者が変質者ではない別の生存者たちなら、捕まえた治安担当を周囲の変質者を集める囮に使ったのかもしれない。だがこの行いを平然とできるものか? こんな異常な状況が何年も続いていてモラルが完全に崩壊しているのならありえるかもしれないが、異常事態になってからまだ1ヶ月も経ってないのだ。
ならやはり略奪者は頭のいい変質者たちだったのだろうか。だが、それなら囮に使う理由がない。やるなら嫌がらせか見せしめかそんな理由しか思いつかないが、そこまで知能がある変質者ならもうただの凶悪な人間でしか無い。
わからないことが多すぎる。そして、自分たちの力では解決しようがない問題がありすぎる。
だがそんな混乱も次の瞬間に全て消し飛んだ。
惨劇を見てしまった高阪から発せされる悲鳴。今まで聞いたことのない絶叫が車内に乱反射した。悲しみ、後悔、絶望、失望……ありとあらゆる負の感情が混ざった叫びは、えぐるように沙希の脳を掻き回す。
沙希は即座にそんな高阪の頭を抱きかかえてやると、運転席を蹴飛ばし叫ぶ。
「八幡! どこでもいいからここじゃない場所にさっさと移動しろ! 今すぐだ!」
八幡は涙を流しながら言葉にならない叫びを上げて軽ワゴンを発進させた。
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