●11日目 02 夜『嵐と闇夜と侵入者1』
夜の10時過ぎになって猛烈な土砂降りが学校を襲った。強風と大きな雷も続き、生徒会室内でも小声では会話が通じないほどになっている。
沙希は今日の各担当責任者たちの報告書の精査をしていた。近くでは理瀬と光沢がそれぞれ椅子に座って寝息を立てている。この嵐でも眠れるんだから二人とも大した図太さだ。ちなみに高阪は普段は三年生のいる教室で寝泊まりしている。
『暴動が起きているT県周辺では待機が不安定な状態が続き、強風や大雨、落雷が続いています。気象庁は竜巻注意報を発令して住民には注意を促していますが、T県内で現在活動している職員がいないため、具体的な対応はできていないとしています。この雨は明日の未明まで続くとしており、しばらくは避難所や自宅から出ないように呼びかけています』
『T県内の各地に設置されている避難所の様子ですが、政府の発表では一部では無事を確認しているものの、悪天候により連絡が取れない場所も出てきており、完全な状況の把握はできていないとコメントを出しました。これに対して野党からは――』
いつもは垂れ流しだったラジオだが、二人の睡眠を邪魔するわけにも行かないので、イヤホンで天気の情報を聞いていた。思ったよりも
――と。
「…………」
沙希は何か気配を感じ生徒会室の扉の方を見る。すきま風がたまにカタカタと音を立てているぐらいで誰もいない。すぐにまた書類に目を戻すが、やっぱり自然とそちらの方に向いてしまう。
そんな沙希を察知した梶原は扉を開けて廊下を覗くが、
「大丈夫だ。何もいねぇよ」
その答えにほっとして作業に戻った。が、そのわずか数十秒後突然扉が開き、沙希は思わず小さい悲鳴を上げてしまった。
「凄い雨だよ。雷も激しいから校庭側の巡回が難しくなってきた――どうかしたの?」
濡れたレインコートを抱えた八幡が現れた。沙希は活発になってしまった心臓を抑えつつ、何が誰もいないだと口には出さずに目だけで梶原に抗議したが、当の本人はそっぽを向いてしまって無視していた。
とりあえず気を取り直し、
「巡回は未だ続けているの?」
「生徒会長の指示がある限りは続けているよ。ただ落雷も激しくなってきたしこれ以上は難しいとは言っておきたいね」
沙希は窓から学校敷地外を眺めると、
「変質者たちの様子は?」
「ほとんど見かけないかな。嵐を避けて家に篭っているんだと思う」
「そんなに知能があるのか?」
梶原も外を眺める。しかし、外は真っ暗で電灯もないので変質者たちの様子をうかがうことは出来なかった。
「まともに巡回ができないんじゃ、危険なだけでやるだけ無駄か……とりあえずもう一回りしたら撤収させて。代わりに校内から周辺の監視をする体制を」
「わかった」
指示内容に八幡も頷く。さすがにこの嵐じゃ連中も動けないだろう――
「……うっわ!?」
突然だった。雷鳴に混じって唸るような地鳴りが聞こえたかと思った途端、教室の備品が一斉に激しく揺れ始めた。それはさらに強くなり机もがたがたと動き始め、校舎のきしむ音が鳴り響いた。
地震だ。それもかなり大きくて長い。
これにはさすがの理瀬と光沢も飛び起き、なんだなんだと辺りを見回す。沙希はさっさと机の下に隠れていたが、ほどなくして揺れも収まり、雨風の音だけの生徒会室に戻る。
「うっひゃー、ひさしぶりにでっかい地震を感じたよっ」
理瀬はそう言いながらラジオからイヤホンを引っこ抜いて周囲に垂れ流す。
すぐに地震速報が流れ、この周辺では震度5弱の地震だったことが発表された。震源地はT県北部。たびたび小から中規模程度の地震が起きることで有名な地域で、地震の巣なんて言われているが、これだけ揺れるのは珍しい。
沙希は落ちた物を拾いながら、
「地震・雷と続いて今度はなんだ? 火事かおやじか」
「ピストルお化けでは?」
睡眠中に叩き起こされてもいつもの胡散臭い笑みのままな光沢がよくわからないことを言う。
天変地異のダブルパンチに沙希がブツブツ愚痴っていると、息を切らせた男子生徒が生徒会室に入ってくる。災害発生時に状況確認と各クラスへの伝達をするという役割を持っている雑務担当の責任者である。
「震度5弱。県内の被害状況はまだわからないけど規模自体はたいしたことはないわ。各クラスには心配する必要なしと伝えて。あと、念のためけが人とかが出ていないかも確認。些細な負傷でも必ずチェックすること。医療担当とも連携して」
「はい」
沙希の指示を受けて雑務担当統括者がまた走っていった。本来は校舎外で破損したりした場所がないか治安担当チームが調査する取り決めになっているが、この嵐ではそれは難しいだろう。
「八幡、雨が止んだらフェンスとか強化した場所の点検よろしく」
「了解」
八幡は立って外の様子を眺めながら頷いた。
嵐と地震が重なる不運に見舞われたが、さしあたり問題はなくてよかったと安堵する沙希だったが……
それは長い夜の始まりの合図でしかなかった。
また廊下に足音が鳴り生徒会室に今度はトランシーバーを持った治安担当の一人が入ってきた。そして、八幡になにやら話すとすぐにそれを受け取り、
「どうしたの? いや落ち着いて――冷静に起きたことをゆっくり言ってくれればいいよ」
トランシーバーの向こう側はパニック気味だったようで、八幡はしばらく落ち着かせていたが、やがて彼も言葉を失い表情が固まる。
「……すぐに治安担当の人を全て呼び出して。寝ている人も。昇降口に集合だよ」
「はい」
また治安担当の男子が走って出ていく。
八幡もすぐに見に付けた装備を確認しつつ、
「生徒会長。侵入者が確認されたみたい」
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