●3日目 03 朝『背負った命』

「…………」


 沙希は治安担当チームの様子を伺いに出入り口を設置した第二校舎二階に駆けつけたが、戻ってきた彼らを見て絶句する。身体的・精神的疲労のひどさが顔からあふれ出て、中には錯乱寸前のように肩をふるわせている者もいる。どれほどの恐怖を味わったのか聞くまでもなかった。


「生徒会長の不安は取り越し苦労だった……といったところでしょうか」


 苦々しくつぶやいたのは背後にいた光沢だった。始まる前に治安担当チームによって食料が独占されるかも知れないと危惧していた沙希だったが、治安担当の全員を見ればとてもそんな状態ではないのが一目でわかる。そんな危惧をしていた事自体、自分自身の甘さを痛感するばかりだった。


「……周りの方もそんな気分じゃなさそうだぜ」


 不安・悲しみ・哀れみ・悲観……負の感情を浮かべる生徒たち。そんな周囲の様子を伺いながら梶原がつぶやく。沙希は作戦開始前に飢えた一部の生徒たちによる略奪が起きるという可能性も考えていたが、こんな治安担当チームを見てそんな考えを思いつくのは状況も理解できないただの大馬鹿だ。


 沙希は自分が引き起こしたことの大きさに茫然自失としてしまったが、それでも頭を奮って気丈に背筋を伸ばし、廊下の隅でなにやら準備をしていた八幡のところへ向かった。


「報告を」


 その言葉に八幡は途中だった荷物の整理を終えてから、


「犠牲者4人確認したよ。あと陽動で出ていった2人が行方不明。目的だった食料はリヤカー二台に満載したけど一部時間がなくてリスト通りには出来なかった。ごめん――」


 ここで八幡は一旦口をつぐむ。そして、


「申し訳ありません。生徒会長」


 そう言い直した。正直、彼がとった行動に沙希は一瞬目を丸くしそうになったが、グッと堪える。この学校の生徒会長――つまり現状における最高責任者を八幡は立てようとしているのだろう。


 沙希は自分の中の動揺を抑えこんでから、


「問題ない。最初の作戦だったしこれだけの食料が手に入れば二日は持たせられる。十分よ」


 そうできるだけ声に張りを持たせて返した。この様子を周りの治安担当も見ているのだ。責任者らしく毅然としなければならない。


 八幡はまた一礼してからさっきから続けている自分の身につけている装備の確認を再開した。


「……何を?」

「まだ外に仲間がいるからね」


 仲間。それが帰還できなかった2人のことだろう。つまり今からまたあの人喰い変質者たちが暴れまわっている街に出ていくつもりなのだ。


「本気なの? あの状況下ではとても生存している可能性は考えられないわ」

「遺体が見つかる、あるいは変質者の仲間入りした姿が見つかってもいい。行方不明じゃすっきりしないし、仲間の生死をはっきりさせるのも僕の役目だと思っているよ。それに――」


 ここで八幡は沙希の瞳をじっと見つめ、


「生きているのか死んでいるのかわからない状況だと責任が宙ぶらりんになる。生徒会長だって責任者としてそんなのは嫌なんじゃないかな?」

「おい」


 そんな彼に梶原がドスを効かせた声で詰め寄るが、沙希はそれを腕で静止する。反抗的な態度だと思ったのだろうがそうではない。

 八幡は構わずに続けて、


「とことん責任を取ってもらうよ。だからこそ、僕は今後あなたに絶対についていくと決めたんだから」


 その言葉はひどく重く威圧的だった。だが一方で八幡の絶対の信頼と支持も感じ取れる。どうやらこの作戦で完全に覚悟を決めたらしい。

 これは生徒会長の地位が今までより盤石になった証拠でもあった。


 沙希は軽くため息を付いてから、


「あたしはこの学校の生徒会長。だからどんな責任だって負ってやる。代わりに命令には従ってもらう。だから絶対に絶対に帰ってこい。あんたはこの学校で代わりのいない人材。勝手にいなくなるのは許さない。これは生徒会長としての絶対命令よ」


 これに八幡は力強く頷く。


「当然。もう僕の帰る場所はここしかないからね」



 八幡が数時間後に帰還し、最終的に行方不明者の全員死亡が確認された。

 死者6名。これが生徒会長としての背負った命の数だった。

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