任務7 3DシミュレーションRPG「人生」

 人助け研究所本部である駄菓子屋奥の和室。金髪リーゼントのかつらを被り、ボタンを全て外して学ランを羽織るように着た冴子は、店で買った棒の付いた飴をタバコを吸うように頬張りながら、ヤンキー座りで鋭い睨みを利かせていた。

「んでよぉ、その一年のみっつんがよぉ、ちーっと俺っちとウハウハ語り合っただけでいじめの対象になっちまってよぉ。いじめてる側も俺っちの可愛い子猫ちゃんなんだが、いじめちゃ駄目だぞ☆と注意しても陰でチクチク忍び寄る蚊の如く、吸血口をみっつんに突き立てているらしい。困ったもんだぜ。」

「それは冴子君の説得の仕方にも問題がありそうですが…。」

マスターは、器用に雑巾を繕いながら、冴子の悩みを聞いていた。奥さんほどではないが、マスターの裁縫技術は、中学・高校で習う家庭科程度には優れているのだ。マスターに指摘されて、冴子が飴を舌で舐め回しながらぶつぶつと説得の言葉を考えていると、店の方から所長が中に入ってきた。手に持ったビニール袋を円卓において自分の席に腰を下ろすと、袋からカードと温泉饅頭を取り出した。会社の社員旅行の帰りに本部に立ち寄ったのだ。

「北海道旅行は、いかがでしたか?」

「ハードスケジュールだったけど、楽しかったよ。登別の温泉は気持ちよかったし、石狩汁は鮭の風味が出ていて美味しかったし。あっ、後で荷物が届いたら、夕張メロンと二人へのお土産、持って来るね。」

「あざっす!それはさておき…」

冴子は、饅頭を一つ取り出してから、一緒に置かれていたカードを裏返した。皆大好き、コマッター情報カードである。

「中学生の少年がコマッターですか。」

「いじめからの救済がミッションとは、なんとタイムリーな。」

「え?冴子君、いじめられてるの?」

「いや、いじめられっこはみっつんだ。」

「誰?」

所長は頭にハテナを浮かべながらも気を取り直して、マスターが用意した古いカレンダーの裏側に、出動できそうな会員の名前を書き連ねた。一通り名前が挙がると、三人は精査するように名前をまじまじと眺めていく。

「いじめ問題は、その対応の困難さから、長い年月が経った今日でも的確な対処法が見つかっていない、高難易度の問題だ。裁量を間違えれば、いじめられっこを救った後に、今度はいじめっこたちがいじめられ兼ねない事態に陥るから、慎重に事を運ぶ必要がある。」

「一度いじめに手を染めた子は、二度と同じ過ちを繰り返さないように死で以って償え、なんて野蛮な考えの方も世間にはいますからね。再発防止も含めて、いじめっこ、いじめられっこ、双方が平和な日常に戻れるようにアフターケアも大切でしょうかね。」

「いじめられっこも、一難去って環境が変わりまた一難、なんてことがあるみたいだから、彼らが悲しい思いをしないような世渡り術の指南やら気軽に相談できる周囲の環境づくりやらも大切だね。」

「つまり、いじめっこの撃退やコマッターの隔離といった一時的な救済措置ではなく、持続的に双方が青春溢れる学生生活を送れるような解決策が必要だな。」

「そうなると…」

三人は片っ端から書かれた名前にバツ印を施していく。そして、最後に残った名前を一斉に指差した。

「いじめの解決故、長期的な任務遂行が必要になる。」

「地道な作業が得意な彼だからこそ、適任ですね。」

「G廃人、君に決まりだ!」


 くくく町にある残念だったな中学校。1年1組の教室で、夜目やめ 陽郎ひろうは、登校してすぐに自分の机を見て溜息を吐いた。死ね、クズ、ザコ…そこにはマジックで所狭しと暴言が殴り書きされていた。陽郎はいつものようにベランダから自分の雑巾を持って、水道で軽く濯いでから、教室に戻り机の上を綺麗に拭き始めた。その様子を遠目で見ていた3人組の男子グループが、陽郎のもとに近付いてくる。通称、いじめっこのトン、チン、カンである。リーダー格のトンは、一見人の良さそうな優しい顔つきの少年で、成績も中の上、普段の素行にも問題点はない普通の良い子ちゃんを演じているが、裏では陽郎他数名を標的としていじめを繰り返している卑劣極まりない外道なのだ。チンは、長いものに巻かれるタイプで、猫を被ったトンにとりあえず乗っかっておけば中学生活安泰でしょ、と言わんばかりにトンの右腕を自称する金魚の糞なのだ。カンは、頭の出来が良くないため、トンの口車に乗せられていいように利用されている力自慢のネギを背負ったカモである。陽郎の机に毎日飽きもせずにこっそり落書きをしていたのは、このトンチンカンブラザーズなのだ。トンはわざとらしく陽郎の顔を覗き込みながら、にっこりと笑顔を向けた。

「夜目君、朝から机を磨いて精が出るね。学校のものを大切にするのは良い事だよ。」

「ぶはは、そうそう!ついでに俺達の机も磨いてくれるとありがたいけどな!」

「磨け!磨け!」

3人の言葉に雑巾を握り締める力を強める陽郎だったが、3人相手に、それも何の証拠も無しに彼らに突っかかっても太刀打ちできないと内心諦めていたため、黙って彼らの言葉を聞き流した。黙々と陽郎が机を磨いていると、トンは陽郎の机の中を勝手に漁り始め、国語の教科書を取り出した。

「夜目君、国語苦手だったよね。せっかくだから俺が試験に出そうな場所に線を引いてあげるよ。」

机に落書きしたものをしまっていなかったのか、トンは胸ポケットからマジックを取り出すと、今授業で進めているページを開き、文字が読めなくなるように黒く塗りつぶした。横目でその様子を見ていた陽郎だったが、湧き上がる怒りを噛み殺すことしかできなかった。陽郎が机の落書きを消し終えたところでチャイムが鳴り、ブラザーズは各々の席に戻っていく。悪魔たちが去り、安堵の溜息を吐くと、陽郎は雑巾をベランダに戻して授業の準備をした。

 昼休み、陽郎は屋上で隠れるように時間を潰していた。トンチンカンに見つかれば、休息もままならない状態になるからである。親しく話しかけてくれるクラスメートにブラザーズの火の粉が降りかからないためにも、一人で過ごすことは陽郎にとっても都合が良かった。図書室で借りた本を開き、読書を始めようとすると、陽郎の体を覆うように影が被さってきた。陽郎は体を震わせながら、ゆっくりと目の前に立つ人物の顔を見上げる。が、そこにあったのは見知らぬ私服の男だった。男は、金髪の髪にフードを被り、ゴーグルを装着して、携帯ゲーム機で遊んでいた。彼こそがG廃人。一つのゲームをとことん極めるまでやめない、生粋の廃人ゲーマーなのだ。G廃人は、ゲーム機の画面を見ながら忙しなく指を動かし、その状態のまま陽郎の隣に腰を下ろした。陽郎は突然現れた異様な人物にただただ視線を送っていた。

「君、夜目 陽郎、だよな?」

「え?そ、そうですけど…。」

「君を、そしてあの三馬鹿を救いに来た。」

「へ?」

G廃人の言わんとする事が理解できずに裏返った声で聞き返す陽郎。彼の様子を気にすることもなく、G廃人は指を動かしながら言葉を続ける。

「いじめ、やめさせたいだろ?終わらせる攻略チャート、構築してやった。」

G廃人は、ゲーム機を片手で持ち、空いた手でズボンのポケットから一枚の畳まれた紙を取り出し、陽郎に手渡した。受け取った紙を広げてみると、そこには明日からの行動計画が事細かに記されていた。

「これは…。」

「さすがに今すぐ、ってのは無理だろう?何事も心の準備は必要だ。俺を信じて明日からその通りに行動すれば、時間は掛かるがいじめはなくなる。最短で一ヶ月。このまま何も動かずに三年間過ごすよりは試す価値があると思うが?」

「一ヶ月…。」

紙をじっくりと眺める陽郎。ふと、その紙に書かれている計画が三年間分続いていることに気付いた。

「あの、この計画書、一ヶ月以上分ありますが…?」

G廃人は片手でゲームを進めながら、人差し指を立ててみせる。

「最初にも言ったが、鹿を救いに来た。一ヶ月で救われるのは君。その後、長期的な計画で救われるのが奴ら、おっけー?」

G廃人の言葉に陽郎は表情を曇らせて俯く。横目で彼の様子を見て感情を察したのか、G廃人は、ポーズボタンを押してゲームを中断した。

「君の気持ちは分かるよ。散々冗談では済まされないようなことをしてきた相手を救うとか、馬鹿馬鹿しいにも程があるよな。勇者が世界を滅ぼそうとする魔王を救うようなもんだ。でもな、あいつらは悪党だが悪の権化である魔王じゃない。君と同じ心を持った人間だ。君が救われた後、間違いなくあいつらに牙を剥く連中が現れる。これまでの報いだ、制裁だ、私刑だ、と言わんばかりにな。そうして標的が奴らに代わり、新たないじめが始まる。負の連鎖だ。君が今感じている辛い気持ちを、今度はあいつらが味わう。助けて欲しい、苦しい、いっそ死んでしまいたい…。」

「…。」

「それを見て君がいい気味だと思うのは被害者感情としては当たり前だ。でもな、報いとはいえ君が受けたような酷い仕打ちを、君や他の被害者の為という理由で同じように振るっていいものだろうか?今度は三馬鹿の関係者がいじめを止めるために動き、いじめを行なったものに制裁を与える。更に今度は新たな被害者の関係者が被害者を救うために三馬鹿関係者に制裁を加える。それから更に…」

「負の、連鎖…。」

G廃人は陽郎の肩を叩き、再びボタンを押してゲームを再開した。陽郎はG廃人の言葉を頭の中で巡らせながら、計画書をまじまじと見つめる。

「俺が話したことは、全て起こり得る可能性の話だが、可能性だからこそ潰せるものは潰しておきたい。TRUEエンドを目指して他のエンドルートへのフラグに注意するのは結末分岐ゲームの基本だ。BAD、NORMALエンドに到達しないように負の連鎖を断つためにも、三馬鹿のせいで無垢な人間が加害者に変貌しないようにするためにも、三馬鹿に向けられた刃を止めることができる説得力のある人間が必要なんだ。被害者である君の力が、ね。」

一通り話を終えたところでG廃人は立ち上がり、入り口の方へと歩き出した。入り口の手前で一度止まり、手を動かしながら陽郎に顔を向ける。

「一ヵ月後、経過を見に君の所にまた行くから。あっ、君がどんな道を選択しても、俺は責めたりしないから安心してくれ。このゲームの主人公プレイヤーは、あくまで君なんだから。」

最後の言葉を伝えると、G廃人は今度こそ屋上から去っていった。一人残された陽郎は、再び計画書を見つめ、大きく頷いた。

 翌日早朝、閑散としたくくく町をスポーツウェアで一人走り抜ける少年の姿があった。陽郎である。彼はG廃人の立てた計画書に沿って行動を開始したのだ。慣れないランニングにすぐに息を切らせては休みを繰り返しながら、一日の目標である5kmの指定コースを走り抜いた。家に帰ると、出勤前の父親が驚いた様子で陽郎と鉢合わせた。

「なんだ陽郎、お前、トレーニングを始めたのか?」

「ちょ、ちょっと体力つけようと思って、ね。父さん、いってらっしゃい。」

「ああ、行ってくる。お前も学校、気をつけてな。」

弁当を作って持ってきた母と共に父を見送り、陽郎は風呂で軽くシャワーを浴びて部屋に戻った。登校の準備をしながら、机の上に広げた計画書を覗く。

「RPGにおいてレベル上げ、SLGにおいて友好度上げは基本…。」

必要なものをリュックに詰めて、陽郎は部屋を後にした。

 学校に到着すると、陽郎は上履きを手に取り、その中を確認する。予想通り、いつものように画鋲が敷き詰められていた。陽郎は画鋲を手に取り、何かをためらっていたが、計画書を思い出し、意を決した。

「あはは!誰だよこんなところに画鋲入れちゃったどじっこちゃんは!画鋲は画鋲入れに入れないと!」

ぎこちなく明るい声で笑ってみせると、登校してきた他の生徒達の視線を受けた。恥ずかしさで顔を赤くしながら、陽郎は足早に教室に向かった。教室に入った陽郎は、時々話しかけてくれるクラスメートに近付き、彼の肩を手で叩いて挨拶した。普段ならば行なわない動作である。

「友田君、おはよっす!」

声を掛けられた友田は、いつもよりも積極的な陽郎に驚いた様子で目を向けるが、すぐにいつもの調子で返事をしてくれた。

「おはよう、夜目君。今日はご機嫌だね。」

「あはは、機嫌がいいって訳じゃないけど、いつもジメジメ暗くしていると周りにキノコが生えちゃうかもって思ってね!」

「ははは、キノコは生えないでしょキノコは!」

しばらく軽い雑談を交わして、陽郎は席に戻った。陽郎のいつもとは違う様子に困惑しながらも、トンチンカンたちは、席に着いた陽郎を遠くから見ながらニタニタ笑った。が、その嘲笑う表情もすぐに色を失った。陽郎は恒例の落書きに目を向けると、オーバーリアクションを取って椅子から転げ落ちた。教室内のクラスメートたちが彼に目を向けると、あちこちから笑い声が聞こえてきた。陽郎は頭を掻いて机を見ながら、恥ずかしさに堪えて声を上げた。

「うわぁ!びっくりしたなぁ!死ねとかゴミとかいっぱい書かれてるけど、僕の机は国語の練習帳じゃないよ!全く、どこの小学生が書いたんだよ!字が下手くそすぎて腰を抜かしちゃったよ!というか馬鹿ぐらい漢字で書きなよ!バカだと馬力と勘違いしちゃうよ!ヒヒーン!」

陽郎の大きな独り言に、クラスのあちこちで笑い声が大きくなった。陽郎のノリに笑いの波を感じたお調子者の男子が、陽郎の机に近付き、文字を覗き込む。

「ぶっはー!ほんとだ!すっげー汚ねー字!ここの死ねって字とか、ヒの縦棒が上に飛び出しちゃってるじゃん!洒落た書き方しちゃって、有名人のサインかよ!つーか夜目、お前これいじめじゃねーか!」

「いやいや!同じ中学生がこんな、言葉を覚えたての子供の喧嘩みたいな悪口は書かないでしょ!やっぱり小学生が校舎に潜入して、こっそり字の練習を…」

「悪口で字の練習とか、どんだけ心に闇を負ってんだよ、その小学生!」

今まで大して話をしたこともなかったクラスメートとバカ騒ぎで盛り上がりながら、彼の手伝いもあって、いつもよりも早く机の落書きを綺麗にすることができた。明るい笑顔でお調子者と話す陽郎にトンチンカンたちは、不機嫌そうに舌打ちをして、その様子を見ていることしかできなかった。

 その後も陽郎は、計画書の通りにイレギュラーな行動を起こして、トンチンカンたちのペースを乱していった。昼休みは校庭に出て校内をランニングして体力作りをし、放課後の彼が属する卓球部の活動では、今までと違い積極的に先輩や先生に指導を請い、練習に熱を入れた。帰り道に待ち伏せていたトンチンカンたちにも、明るい声で彼らの肩を叩きながら雑談を一方的に話し、何かをされる前に足早に家に帰った。背中にトンチンカンたちの罵声が聞こえてきたが、陽郎は不思議と今までのように苦痛を感じることはなかった。

 新しい取り組みを始めて2週間が経過すると、お調子者や友田との仲が深まり、友達として認識されるようになった。登下校を共にするようになったことで、机への落書きや上履きへの画鋲に対する対応が早まり、トンチンカンたちからの嫌がらせの回数も少なくなった。部活動では、卓球の技術を少しずつ上達させていき、本気で部活に打ち込む姿に惹かれた同級生部員や先輩達との良好な関係を築き上げた。

 更に4週間後、G廃人との出会いから一ヶ月が経った約束の時には、友田やお調子者、部活の仲間たちの繋がりもあって、クラスのほとんどの男女と友達となり、陽郎はいつしかクラスの人気者に変わっていた。登校すると、隣のクラスの人にも声を掛けられ、友田と教室に入ると、待っていましたと言わんばかりに、彼の席には人だかりができた。クラスのほとんどを味方にしたこともあってか、トンチンカン達は下手に手を出す事ができなくなり、苦虫を潰したような顔で、別のクラスの標的のもとへと向かった。この頃になると、陽郎の人気に目移りしたチンは、トリオをあっさり脱会して、陽郎の取り巻きの一人に変わっていた。これには最初こそ呆れた様子だった陽郎だが、G廃人の負の連鎖の話を思い出し、快く彼を仲間に受け入れた。

 昼休み、用事があるからと皆に嘘を吐いて屋上へと向かう陽郎。貯水槽に寄りかかりながらゲームをするG廃人を見つけると、彼の横に腰を下ろして空を見上げた。

「お久しぶりです。G廃人さん、でいいんですかね?」

「そうだ。久しぶりだね、陽郎君。元気そうで何よりだ。」

G廃人は陽郎の顔を見ずに素早い指捌きでボタンを弾きながら、陽郎からの報告を受けた。彼のチャート通りに進めたことで、陽郎はいじめから抜け出すことができたのである。報告を聞いて満足そうに小さく頬を緩めると、G廃人はその場に立ち上がり、片手でスマホを操作して本部に連絡を入れた。本部への報告の後、再びその場に座り、ゲーム画面を凝視しながら陽郎に言葉を送る。

「第一目標、自分を救うというクエストはクリアだ。三馬鹿の一人がこちら側につくタイミングが思ったより早かったのは想定外だが、タイムアタックでこうした予期せぬ出来事が起こるのもゲームの醍醐味。早くにこちら側についたということは、それだけイベント進行も早まる。正念場はこれからだ。第二部、いじめっこ救済編の始まり。最短で2ヶ月、長くても半年の見積もりだ。慌てず、慎重にな。」

「はい!僕、彼らとも友達になってみます!」

陽郎は自信を持った表情でG廃人に握手を求めると、G廃人はゲームにポーズをかけて、その手を固く握り返した。

 陽郎たちの戦いは、これからも続く。誰もが笑顔で中学生活を送れるようにするために。悲しみや苦しみを乗り越えた先にある、TRUEエンドを目指して…。



「ひとまず一人のコマッターは救われたわけだが、完全な任務完了には、あと2年3年待つ必要があるのか。」

「いじめっこを友に迎えて、根本からいじめをなくすわけですから、時間が掛かるのでしょうね。」

人助け研究所本部の和室にて、丸刈り頭のかつらにボタンを全てつけた学ラン姿の冴子は、G廃人が陽郎に渡した計画書のコピーを見ながら、今回の報告内容を聞いていた。マスターは靴下の綻びを取りながら、受けた報告を二人に伝えていた。所長は鮭を咥えた木彫りの熊を撫でながら、今回の任務に思いを馳せる。

「それにしてもいじめか…子供だけじゃなく、大人だって職場でその脅威にさらされるわけだから、他人事じゃないんだよね…。」

「所長も会社でいじめに遭われるのですか?」

「僕じゃないけど、最近入った子が、前の会社で陰湿な酷いことをされたって…。人の世は病んでますよほんと。」

木彫りの熊の彫り目に指を這わせながら、所長は大きく溜息を吐いた。冴子は所長の肩を叩きながら、彼の憂いを励ました。

「そういえば、冴子君の学校のいじめはどうなったんだい?」

「ああ、みっつんのいじめならすっかり解消されたぞ。いじめっこグループの頬に冴子キッスをかましてやったら、彼女達は骨抜きになりいじめをやめた。愛の力が、嫉妬や憎悪に勝利した瞬間である。」

「さすがは冴子君。フィクションだからこそなせる荒業に、現代社会の闇も打つ手無しといったところだね。」


           「ははははははははは!!!」


 現代社会に蔓延る暗黒時事問題四天王の一人、いじめ問題と激闘を繰り広げた人助け研究所。奇しくも勝利を手にした一行だったが、戦いはこれで終わりではない。彼らはまさに、終わりの見えない戦いの第一歩を踏み出したに過ぎないのだ。悲しきコマッターたちの涙を拭うために、

戦え、人助け研究所 負けるな、人助け研究所

人々の自由と平和を取り戻せるのは、君たちだけなのだ。


                                     終





☆認めてやるよ、これは次回予告ではないと…☆

 山に響くおぞましい雄叫び。その声を聞いたものは、山から生きて帰れないと云われている。民俗学者の幸雄は、伝承を確かめようと山に足を運ぶのだが、轟く雄叫びと共に、彼の前に巨大な青い猛獣が現れて…


次回、救え!人助け研究所 任務8 怪異!ヒラヤマ山脈のブルービースト

次回も、トイレを済ませてからご視聴下さい。

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