変化
誕生会を終えた朝帰りの今日、仕事は休みで。
だけどさすがに、ふったその日に2人っきりは気まずくて…
今回の事務所掃除は中止を告げた。
そして部屋でゴロゴロしながら…
一生の事を思い返す。
いつから…?
隼太を想う私に、どんな気持ちでいたのかな…
胸がキュッとなる。
ー「俺が中毒的に好きになっても?」ー
今になって、ちょっと勿体なかったかな…
なんて思ったりも。
だってせっかく、求めてた中毒愛が手に入ったかもしれないのに。
いつもすぐに飽きられて来た私にとって…
なかなか手に入らないそれは、魅力的で。
なのになんで隼太なんだろう!
隼太のどこが好きなんだろう?
きっと好きに理由なんかなくて…
だけど隼太は、中毒愛と同じくらい手に入らない存在で…
それでも、諦められない。
ふと、気づいた…
"手に入らないそれは、魅力的で"
手に入らないから、諦められない?
ー「ラクなゲームほど飽きんだよ」ー
不意に過ぎった、奏曲の言葉。
何でも簡単に相手の手中に収まった私は…
確かに、いつもすぐに飽きられてた。
きっと、思い通り簡単に手に入ったものには魅力を感じなくて。
もしかして人は…
手に入らないから憧れて、追い求めるのかもしれない!
隼太と付き合ってても、1度も手に入れた気がしなかった。
余裕たっぷりで、どこか相手にされてないみたいで…
だからちゃんと手に入れたくて、追い求める気持ちが膨らんだのかも。
そしてその残酷な過去を知って、
ほんとは余裕たっぷりなんかじゃないって解って…
私でも何か役に立てそうな気がしたから…!
僅かでも、やっと手に入りそうなその糸口に取り憑かれて…
別れた今も、諦められないのかも。
隼太の事が好きなのに…
急に自分の気持ちが解らなくなってきた。
とはいえ、その週末も飲み会参加。
やっぱり隼太には会いたいし…
なにより!
今日参加しなかったら、一生を避けてるようで気まずい!
だけど、参加するのも気まずくて。
ぎこちなさ全開の私と…
至って普段通りの一生。
不意に、掴まれた腕が引かれて…
至近距離になった一生が、耳打ちする。
「俺に気遣うくらいなら、付き合ってよ。
それが出来ないなら…
ちゃんと今まで通りでいろよな?」
と 、最後は笑いで締めくくる。
その吐息がくすぐったくて…
その変わらない優しさは、心までくすぐって…
ぎゅっとする。
「ちょ、一生さんっ!
ヌケガケしないで下さいよっ!
リアさんもっ!
なに嬉しそーにしてんすか!」
「しっ、してないよ!してない!
全然っ!するワケないじゃん!」
いきなり私にまで振ってきたカツくんのツッコミに、やたら焦る。
「莉愛それ、傷付く…」
さらに一生の最もなツッコミに…
「違っ…!
そーじゃなくてっ…
あぁ、もう!ごめんなさいっ!」
なんだか混乱して、もう収拾つかない。
「アヤシ〜…
一生さん、尋問っす。
なにがあったんすかァ?正〜直に白状して下さい!」
「あれ、聞く覚悟あるんだ?」
とそこから、この2人には珍しくジャレ合いが始まる。
ふと。
今日は大人しい奏曲が気になって…
その隣に座った。
「どしたの?…またなんか拗ねてる?」
そう聞くと、いつものスキンシップ…
頬が優しく掴まれる。
「拗ねてねーよっ」
「っ!
だからっ、やめてってばっ!」
動揺する自分に慌てて、掴む手を解こうとしたら…
「…
ドキドキ、すんのかよ…?」
眉をひそめて、意味深に見つめる瞳。
一生といい、奏曲といい…!
「したらなんなのっ!?」
ヤケクソのように、なぜか切ない困惑をぶつけると。
「…っ、別に!」
ビッ!と弾かれるように、その手から解放された。
なんなのよこの男わっ!!
あまりの扱いに、怒りの拳を握るも。
次の瞬間。
「つか、ありがとな…
キャップ、あれ限定もんだろ?
スゲぇカッケかったし…
コーラ、ガチで嬉しかった」
ピンクのリボンを付けたコーラ。
それには、黒の油性マジックを使って…
"Happy Birthday 奏曲 いつもありがとね"に、ハートマークを飾りでつけたメッセージを書き込んでて。
飲んだら見えるってゆう、ちょっとしたサプライズを仕込んでた。
日頃の感謝と、軽いイタズラ心で実行したんだけど。
照れくささと戦ってる様子で、真剣に伝えて来た奏曲からは、言葉以上の感謝が伝わって来て…
私まで嬉しくなる。
「うん…
書きにくかったんだけど文字ちゃんと読めた?」
「ぜんぜんよゆー。
つか、これで俺もオマエとは1コ違いだからな」
「…
何と張り合ってる感じ?
てゆっか3カ月限定だけどね…」
「ああっ!目ぇ離したら、今度は奏曲さんっすかァ!?」
そこで、尋問が終わったのか…
カツくんくんが割り込んで来て。
今度は奏曲と、意味なくジャレ合い始める。
そんな楽しい時間はひとときで、
すぐにみんな呼ばれてしまったけど。
私は隼太を見つめながら…
自分の気持ちを見つめ直してた。
翌日。
今日から11月で、
今月は売上ノルマ2割増だから…
稼ぎ時の日曜につき、接客にも力が入る!
しかも急に、女性客急増で!
って、奮い起つテンションに重言するほど。
見事に、今口説いてたカップル様をレジに進めて…
感謝と共に見送った、途端。
「町田さん、町田さんっ!
見て下さいっ、ヤバーイ!!
神レベルのイケメンですよっ!?
あ、来たっ!」
そう騒ぐバイトちゃんの視線先に目を向けると…
「っ!奏曲っ!」
瞬時に、女性客急増の事態を納得した。
「えええっ!!知り合いですかァーっ!?」
隣から驚嘆の声を浴びながら。
「どしたの!?1人っ?
…何しに来たの?」
「買いに来ちゃいけねーのかよっ!」
照れくさそうに拗ねる態度が返される。
や、全然いーんだけど、
しかも可愛いんだけど。
でもっ、そのプレゼントしたキャップを被って来るのはやめてぇ〜!
だって…
「なになに?
莉愛ちゃんの知り合いなの!?
もしかして…新しい彼氏っ!?」
「違いますっ!!友達です!
店長まで何なんですか!
ほらっ、仕事して下さいよっ」
慌てて、退けようとするも。
「ああっ!そのキャップ!
なるほど、莉愛ちゃんが売上ノルマを課してまで欲しがったワケね…」
うわあ、余計な事言わないで〜!!
しかも恐れていた事態通りな上に…
私がこのイケメンを狙ってるって、勘違いしてません!?
「えー、じゃあ彼女いるんですかー?
てか、何歳なんですかー?」
その隙にすかさず、バイトちゃんが質問攻め。
「こらっ!
絡まない!いろいろ聞かない!仕事する!」
そう制しながら…
奏曲を隠すようにその背中を押して、レジ前からの移動を促す。
「なんだよ…
それヤキモチ、か?」
「違うっ!!」
まったく、こっちの気も知らないで!
ー「ずっとTPOとかプライバシーとかお構いなしで騒がれて来て、いつもシンドイ思いしてたからさ」ー
頭の中では、一生の言葉が巡ってた。
「で、どんなの探してるの?」
プレゼントしたばっかだとゆーのに…
「あー、妹ももーすぐ誕生日でさ。
それ用になんか…」
そーいえば妹が居るって、一生が言ってたね。
優しいお兄ちゃんなんだ…
「じゃあ私が一緒に見立ててあげるから、ゆっくり選びなよ。
妹さん、どんな系統?」
すると奏曲は何かに気付いた様子で、
切なげな憂い顔をするから…
その艶っぽさに、周りが余計騒いでるでしょーが!
ともあれ。
選んだニット帽に、「助かったよ」って言ってくれたから…
いつも助けてくれる人の役に立てて、嬉しかったし。
奏曲効果で店に入ってくれた女のコ達も、チラホラ買ってくれたりしたから…
また私も助かった!
それに…
奏曲と選んでた時間は楽しかった。
数日後。
今日は店長が法事休みだから…
閉店後に行われたフロアミーティングには、私が参加した。
週末のイルミネーション点灯式に併せて、クリスマス&年末戦線に向けた対策を講じたあと…
団結を図って親睦&激励会へと流れる。
スタートが遅かったから、帰りは当然深夜で。
みんなにタクシーを譲ってたら自分だけ溢れて…
仕方なく、側にある繁華街の公園で後続車を待つ事に。
「うっわ!可愛いっ!相変わらずい〜ねえ!」
ふいに掛けられたその声に…
ふと、隼太と出会った日が甦る。
「うわ!リアさんっ!
偶然会えるなんて運命じゃないすか!?」
続いたカツくんの声にハッとすると。
ケンくん他、幹部2人の姿も。
「またタクシー待ちか〜い!
よしっ!俺様が送ってってやろう!」
「え、ほんとっ!?」
一瞬、知り合いだしタクシー代浮くし!と喜んだけど…
「…って、飲んでるでしょ!?」
「おめでとお!キミはラッキーだ!
今日は別件で来てっから、みんなシラフなのでえす!」
別件…
それは売人の仕事かと、少し怯む。
「あれ!心配〜!?
まあ!4人も居たら怖いよねえ!
んじゃコイツら別車で、俺だけで送ってあげるねえ!
ゆっくり隼太の相談でも聞いてやろう!」
「っ、ほんとにっ!?」
最後の言葉に思わず食いつく。
「ダメですよ!リアさんっ」
すかさずカツくんが、必死の制止。
「な〜に言っちゃってるかな?カツく〜ん!
悔しかったらキミも早く免許取りなさ〜い!」
と凄む、ケンくん流のジャレ合い?
戸惑う私に…
「はあい!信頼の証!
本日は俺様が、安全運転を務めさせていただきま〜す!
しばしお待ちを〜!」
そう言って自分の免許証を手渡して来たケンくんは…
すぐさまみんなを引き連れて駐車場に消えた。
呆気に取られながら…
思えば最初の奏曲もこの前の一生も、そして今ケンくんも…
ヘビヴォの送りは強引だね、と振り返る。
「はい。
ここまでしなくていーから」
宣言通り単独で迎えに来たケンくんに、
乗り込んですぐ免許証を返すと。
「あれ!帰るまで持ってて良かったのにい!
リアちゃんイイコだねえ!
で、ど〜よ!?隼太とは!」
ほんとに相談役を買って出てくれた。
「あれ以来ずっとシカトだよ…
ねぇ、私の行動って逆効果なのかな?」
「いんじゃないの〜!?
アイツがキスマークとか!
あの一生や奏曲に気に入られてんのが、よっぽど刺激的だったんじゃな〜い!?
だからこのまま、ヤキモチ効果狙っちゃえばァ!?」
まだ効果あるのっ!?
てゆっか、それでキスマーク!?
勝手に特別感抱いてただけに…
落ち込む。
「さっそくそれに協力してあげよう!」
そこでそう続いた言葉に。
キョトンとした弾み、ふと周りに意識を巡らせると…
家とは全然違う方向!
そー言えばまだ住所伝えてなかった!
「ごめん!ケンくん、私の家C町なの!」
「あァ〜俺!
ちっちゃい胸好きだから、全っ然OK!」
意味不明に返されて…
得体の知れない不安感に襲われる。
ー「だからこのまま、ヤキモチ効果狙っちゃえばァ!?
さっそくそれに協力してあげよう!
あァ〜俺!
ちっちゃい胸好きだから、全っ然OK!」ー
一連のケンくんの言葉が、頭の中で繰り返されて…
更にこの方向は、情事のホテル街。
「…ねぇっ、ヘンな事考えてない!?
私っ、そんな事しないって言ったよね!?」
「そ〜だ!リアちゃ〜ん!
ひとつ教えといてあげるねえ?
たてつく相手は考えなきゃだよ〜?
世間知らずにケンカ売っちゃってたらァ!
イっタイ目あっちゃうよ〜?」
通じない会話と…
ケンくんのゾクリとするような重い瞳を思い出して…
何も言えなくなった。
「そおそお!俺、斫り屋サンだからねえ!
後で見せてあげるけどムッキムキだよ〜!?
だから!ムダな抵抗するより楽しも〜ねい!」
どうしよう…!
胸が焦燥感で膨らんで、
迫り上がってくるようで、
肺まで圧迫して息が詰まって…
落ち着け、落ち着け…!
どーしたら…
誰かに助けを求めても…
深夜のこんなひと気無い道じゃ、怒らせるだけの逆効果かもしれないし…
電話する隙なんか、あるわけない。
信号で停まった時に逃げれるかな?
や、ロック外す動作に反応して、すぐに掴まっちゃうかも…
ああぁ…
何やってるんだろ、私…!
考えてる間に、ホテル街は目前に…
ふと、手前に古い民家を捉える。
ここに逃げ込めないかな…?
ケンくんは早く事に移したいだろうし…
この1番近くのホテルに入ってくれれば!
更には車を頭から駐車してくれれば!
それに、到着したならロックを外しても不自然じゃないし、念のため…
「そのかわり…
隼太の事、協力してね…?」
油断させる為に、合意の言葉。
狙いは的中して!
車は頭から突っ込んで、停止する間際…
すかさず!
ロック解除と共にドアから飛び出した私は…
すぐさま、側の民家に走り出した。
すぐに追いつかれるかも!
後ろに焦りながらも…
この状況に戸惑ったのか、
方向転換に手間取ったのか、
意外とすんなり民家の庭にたどり着けた。
不法進入だけど、この際仕方ない!
もしもの時は助けてもらおうと、玄関まで進んだところで…
敷地前にケンくんの車が到着。
「ゴメン、ゴメ〜ン!
つっか、そんな嫌なんか〜い!
ま!怖がらせたお詫びに、今度こそちゃんと送ってあげよう!」
車の窓から、平然と声掛ける。
そんなの信用出来るはずなく、無言で首を横に振ると…
「リアちゃ〜ん!ココんちの人に通報されちゃうよ〜!?
ほおら!おいっで!」
ニヤニヤしながら、車から降りてきた!
「近寄らないでっ!
来たら警察に電話する…」
困り顔で睨み続けて、ケータイを胸の前で握り締める。
お願い!帰って…!
今後の絡みとか、隼太の事とか考えると…
出来れば警察沙汰にしたくない。
「い〜ねえ!根比べか〜い!」
それでもノンキに、帰る気配はない。
そんな私達の声で…
夜中に進入しといてだけど、起こしたくないとは思いつつ。
でも、起きて来て欲しいとも思いつつ。
なのに、この家の人は無反応。
もしかして住んでないとか…?
それが確定したら、ケンくんは心置き無く動けるから…
警察に電話しようとしても喚いても、もう遅い。
身の危険を感じて、咄嗟に奏曲に電話を掛けるも…
当然寝てるのか、繋がらない!
「あのねえ!リアちゃん!
俺もうと〜っくに萎えちゃったからァ!
誰か呼ばなくても、責任持って送りますって!」
「いーから、帰って!」
その瞬間。
ケンくんがあの、ゾクリとするような重い瞳に変わった!
そして、ジリッと1歩近付いて来たところで…
バイクの音が聞こえて、すぐ。
SRがケンくんの車の前に滑り込む。
恐怖の緊張感と、いきなりな状況に…
2重のドキドキで支配されてると。
「ケンさんっ、すいません!
コイツ、ガチで俺のダチなんでっ…
頼むからこの場は譲って下さいっ!」
血相を変えた奏曲が、間に入って頭を下げる。
「ふう〜ん…
わかった!い〜よお!
じゃっ!明日ガレージ19時ねい!」
奏曲が頷くと。
頭まで下げられたからか、アッサリ引き上げるケンくん。
それを見届けて…
ほっと、肩の力が一気に抜ける。
「…
奏曲っ…なんで…っ?」
「カツから連絡来た」
「でもっ、ここがどーやって…?」
「だいたいココだからっ!」
それはきっと、ケンくんはいつもココのホテル街を利用してるって事で…
奏曲は向かってた手前で、ケンくんの車に気付いてくれたんだ…?
ピリピリしてる様子に…
続けて、迷惑かけた事を謝ろうとした途端。
「つか、なにやってンだよっ!!」
思いっきり怒鳴られる。
「っ…、ごめん…
だって、仲間だからっ…油断して…」
「仲間?
俺らはボランティアチームじゃねンだよ!
ヤクザ絡みの不良チームなんだよ!
ヘビヴォのヤツは簡単に信用すんなっつっただろ!!」
「っっ…
でもっ、免許証だって預けてくれたしっ…」
「 それがなんだよっ!?
そんなもん何の意味もねんだよ!
いくら相手がお偉いサンでも、身元が割れてても!
犯られて撮られて脅されたら、何も出来ねぇだろ!
オマエ真面目だから知らな過ぎなんだよ…!」
「っっ!
ごめんっ…なさい…」
悲しそうにキレてた奏曲が、大きく息を吐き零す。
「ヘーキか…?」
今度は優しく切なげに覗き込む瞳に…
言葉が詰まって、ただ頷きを返した。
だけど、私を送り届けたくれた後。
「…飲み会にはもう来んな。
つか…
俺らにも関わんな」
一方的に言い残して。
こっちを見向きもせずに去って行った。
ー「バーカ!だからガキなんだよっ!
簡単に信用してんなよ、特にヘビヴォのヤツは」ー
今回の事で、今更思い出す…
出会った頃の奏曲の言葉。
歳なんか関係なく、自分は本当にガキだと痛感する。
そして奏曲は…
次の日も仕事なはずなのに、あんな深夜に助けに来てくれて。
私の為に、頭まで下げてくれて。
本気で心配して、怒ってくれた。
ごめんね、奏曲…!
ほんとにありがとう。
だけどもう、嫌われちゃったかな…
ー「飲み会にはもう来んな。
つか…俺らにも関わんな」ー
言い付け通り…
それからの飲み会も、事務所掃除も参加せず。
2週間以上が過ぎた。
みんなに、会いたいな…
一生、心配してないかな?
カツくんにも、ちゃんとお礼言いたいし。
隼太は、元気してるかな?
奏曲は…
ふと、帽子屋での楽しかった時間を思い出す。
*
*
「これ、男女兼用だからゆったりめだよ?
あ、奏曲も被ってみる?
:
似合うっ!
てゆっか、めちゃくちゃ可愛いっ!!」
「…っ、可愛いは余計だっつの」
「だって可愛いんだもん!」
「うっせ、可愛いのはオマエだろ?」
「…っ、
はあ!?今褒めたっ!?」
「バっ…
チョーシこいてンじゃねぇよ!」
「自分が言ったんでしょ!」
*
*
どーしよう、胸がこんなにも…
切ない。
てゆっか!
このまま関わらなかったら、隼太とのリベンジが出来ないじゃん!
そーだよ奏曲、そこ忘れてない!?
確かにケンくんは怖いけど…
このまま終わりたくないし…
リベンジの為なら仕方ないよね!?
それを言い訳に、その週末の飲み会は参加する事に決めた。
当日、恐る恐るガレージ内に入ると…
「リアさんっ!
もうヘーキなんすかっ!?」
入口付近に居たカツくんが駆け寄って来た。
その"平気"はメンタルの事なのか、
奏曲の言い付けの事なのか…
「うん…、多分?
それより、お礼が遅くなってごめん…
あの時 奏曲に連絡してくれて、ありがとね」
「っ、俺は…
すいません!ちゃんと守れなくてっ!」
「えっ、全然だよっ!
カツくんはちゃんと制止してくれたのに、私が聞かなかっただけで…!
それに結果的には、カツくんのおかげで助かったワケだし」
「…っ、リアさんっ…!
俺、今度こそ守れるよーに権力つけますっ!」
申し訳無さそうなカツくんの、その心意気は有難いけど…
今度を迎えるつもりは無いので、笑顔で誤魔化す。
「ところで、何で奏曲に連絡したの?」
「ヤ、連絡ってか…
どーしたらいーか相談したんす。
それが一生さんだと、事が大きくなってケンさんに恨まれそーだったし…
ま、結局バレちゃったんすけどね」
バレたって、誰に?
それで事は大きくなったの!?
気になる所で…
「続きはあっちで話そっか?」
不意に割り込んで来た、一生!
それから、奏曲の所に連れて行かれて…
驚きの目がぶつけられる。
「…っ、
来んなっつっただろ!」
その言葉に、気まずくなりながらも…
ー「もう来んなっつったろ」ー
前にも言われた事を思い出す。
そして、綺麗な顔には傷痕があって…
「…どうしたのっ?…大丈夫?」
思わずそれに、そっと触れた。
瞬間。
ビクッとしたように、動揺を浮かべて…
「っ、触んな!」
バシッ!と触れた手が弾かれる。
まさか痛かった!?
すぐに謝ろうと思ったけど…
それともそんな嫌…?
あまりのショックに、何も言えなくなる。
てゆっか、そっちはいつも触ってたクセに…
傷ついてる所で。
「莉愛の事なら、もう大丈夫だよ」
発した一生に、3人の視線が集まる。
「お前、ケガの事なんも答えねぇしさ…
莉愛は縁切らせたとかゆーしさ。
だからカツも含めて関わった奴の口割らせて、勝手に調べた。
で、隼兄に報告したら…
ケンくんにストップがかかった。
ウチの専属整備士に手ぇ出すな、って」
一生の話に…
奏曲が、意外そうな目で驚いた。
続く話をまとめると。
私に手を出したら奏曲が動いて、
奏曲に手を出したら隼太が動く。
とゆう流れが出来たから、ケンくんは面倒くさがって今後は関わって来ないとの事。
それを根拠付けるのが…
ヤクザ気質のケンくんは、しっかり落とし前をつけた件は深追いしないとゆう事。
そして、隼太の影響力は絶大だとゆう事。
更に告げ口を疑われない為に…
隼太のストップはケンくんだけじゃなく、幹部全員を脅迫したもので。
今回の件とは無関係に、奏曲のケガで車屋に支障が出たからとゆう理由になっていて。
関係者の口止めも、一生が完璧に手を回したらしい。
私の為じゃないのが切ないけど…
正しく絶対王者な隼太さま。
と、それを受け継いでるような一生。
「莉愛が戻って来たら、話そうと思ってたんだ。
つぅか、俺にバレても事が大きくなってないだろ?」
さっきの話が聞こえてたようで…
そう不敵な笑みを向けられたカツくんは、バツが悪そうな笑顔で誤魔化す。
「…オマエには敵わねぇよ」
奏曲は情けなさそうに苦笑して。
「お前が体張って守ったから、出来た事だろ?」
一生は少し羨ましそうに瞳を細めた。
そして私は…
「ちょっと待って…
今の話からして、奏曲の傷…
私の所為なの…?
ケンくんの邪魔して、私を助けたから…
その落とし前、って事?」
「…っ、タバコ買って来る」
すかさず逃げる奏曲。
それは認めたも同然で…
慌てて呼び止めるも、知らんぷり。
「…奏曲のケガ、酷かったの?」
"しっかり"落とし前をつけたとか…
ヒロ曰く武闘派で、自称ムキムキのケンくんに…
不安が加速する。
「…まぁでも、アイツもヤンチャしてきてケンカ強かったから、上手く受け身取ったみたいで、そんなには…」
濁されたような答えに…
ますます不安が増大する。
「ちょっと行ってくる!」
居ても立ってもいられなくなって、奏曲を追いかけようとして…
ハッとする!
「一生っ!
色々と立ち回ってくれてっ…
ほんとにいつも助けてくれて、ありがとう!」
振り向いてそう告げると…
柔らかい笑顔が返ってきた。
コンビニの方に向かってる、その後ろ姿を追いかけながら…
あの日の事が頭に浮かぶ。
ー「明日ガレージ19時ねい!」ー
それはきっと落とし前の宣告で…
アッサリ引き上げたのは、奏曲が頷いたからで。
そんなのも解ってて、助けてくれたんだよね…
胸が苦しくなる。
怒るのも、嫌われるのも、当然だよね…
だけど。
「待って!奏曲っ!」
私を映して、焦った様子で不快を示す。
「ついて来んなよ!っぜぇな…」
嫌われてる状況の"うざい"に、思わず怯む。
「……お願いっ、行かないでっ!」
「っ…、あァ!?
タバコ買い行くだけだろ!」
「そーじゃなくて!かわさないでよっ…
ごめんっ、ごめんね…っっ!
守ってくれて、ありがとうっ…
なのに本当に…ごめんなさい…っ!」
申し訳なくて、だけど嫌われたくなくて…
涙が滲む。
すると奏曲は踵を返して、私に歩み寄る。
「泣かすために守ったんじゃねぇよ…
オマエは笑顔で居ろよ」
その言葉は、私の涙を追い討ちして…!
もっと泣けてきた…
「言ったそばから泣くなよっ」
困ったような声と同時。
クシャリと頭を撫でられて…
「あ〜も、面倒くせぇオンナだな…」
そのまま抱き寄せるようにして、トンと胸を貸してくれた。
心が、ジンジン…
グラグラ…
警音を奏でる。
だけどこれ以上、…ムリだよ。
「戻るぞ?」
私を宥めた後。
煙草と一緒に買って来た肉まんを、その声かけと同時に差し出す。
「…っ、これからも、関わっていいの…?」
「…
ん。一生に感謝しろよ?
あと、2度と油断すんな」
「わかってる…!
ほんと…ごめんね……」
「…っ、気にしすぎなんだよ!
つか、守れてよかったし…
あん時オマエ、俺に電話したろ?
もしもン時はまた…俺に頼れよ?」
その言葉に…
嫌われてないんだと、一気に感情が高ぶって!
瞳を潤ます衝動を誤魔化すように、肉まんにかぶりつく。
「奏曲ぁ…!おいしいっ…」
「なんだよその返し!さっそく催促かァ!?
ま、いーけど、とにかく何でも遠慮すんなよ!
ただ、送りはしばらく出来ねぇからな?」
そんなの全然いーよ!
と思いながら、コンビニに戻る奏曲を映して…
「ええっ!催促じゃないよっ」
だけど。
つくづく優しい奏曲と、追加の肉まんが…
心と身体を、あったかさで満たしてく。
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