第706話 お年玉で九尾なのじゃ(4)

 お年玉ネタでよくここまで引っ張るなと思いつつ――。


「ハローリーダー!! ア、ハッピー、ニューイヤーネ!! 今年もよろしくお願いプリーズヨ!!」


 コヨーテちゃんが満を持して登場である。

 どういうこと、どういうこと。何故だか彼女は、仕事始めの我がダイコンホールディングスWEB技術開発課に顔を出してきたのだった。


 ほんと、これはいったいどういうこと。普通に仕事中ですよワシら。


 すると困った顔をして後ろから社長こと――ダイコンタロウが顔を出した。


 なんだか知らんがげっそりとやつれてまぁ。

 たった一日会っていないだけで、どうしてそこまで疲れられるのだろうか、ちょっと不思議になるくらいのやつれぶりであった。


 きっと陸奥さんにいろいろと付き合わされたんだろうな。

 そこに来て、コヨーテちゃんになんか無理言われたんだろうな。


 ダイコン――南無三。


 そりゃともかく今はコヨーテちゃんだ。


「のじゃぁ、コヨーテ。今、わらわは仕事中なのじゃ。そういうのは仕事が終わってから」


「ノー!! リーダー寂しいことノットセイ!! せっかく会いに来たのに!!」


「のじゃ。相変わらず人の話を聞かないのじゃ」


「……加代さんがそれ言います?」


 冷徹に俺は突っ込んだ。


 そういう所だぞ加代之進。

 自分のことを棚上げしてそういうこと言わない。


 そりゃともかく、なんだか人恋しそうに加代にすりつくコヨーテちゃん。ダイコンも苦笑いしている辺り、やっぱり何か事情がありそうだ。


 そう言えば、よく考えれば彼女は正月に一度も連絡をよこさなかったな。

 まさか。


「ニューイヤースリーデーは、稼ぎ時だったのでゆっくりできなかったデース。なので、新年の挨拶がディレイしてしまってベリーソーリー。シャッチョサンに無理を言って、会社に連れてきてもらったデース」


「という訳なんや。うちのメイドだけやのうて、郵便配達やら誘導のバイトやらなんやらしとったらしくてのう」


 コヨーテちゃんェ。


 お正月も返上して働いている人たちがいる。

 そういう人たちがいるからこそ、俺たちの世界が回っている。


 それは、うすうすと感じながらも、こう、触れないでいる部分である。

 世の中にはお金を必要としている人が居て、そして仕事の需要があるのだから文句は言わない。そういうもんだと織り込んでいる部分である。


 しかし、身内にそういう人がいるとなると話は別になってくる。


 正月そうそうに忙しかったのだなと思うと涙が自然と湧いてくる。コヨーテちゃんの献身に、俺たちはすっかり言葉を失った。


 こいつは正月からめでたくねえ。

 辛い話もあったもんだぜ。


「コヨーテ。お主、大変なのじゃのう」


「ノープロブレム!! 私がこっちでファイティングすることで、故郷の皆がリッチになるならオールウェイよ!!」


「ほんとダイコン、お前ほんまにこの娘ちゃんと面倒みてやれよ。お前が呼んだんだからな」


「分かっとるがな。せやからちゃんと住居も仕事も用意したってんやないか」


 加代さんも加代さんだが、コヨーテちゃんもコヨーテちゃんだ。

 なまじ三千年生きてしたたかな加代さんは、いくらクビになってのじゃーしても、笑って済ませるところがある。


 けれどコヨーテちゃんはまだまだ若い女の子。


 守りたいその笑顔。

 俺たち大人の三人は、彼女が今年一年無事に生きていけるように、影ながらサポートすることを、目線を合わせて固く誓い合ったのだった。


「まぁ、ソレは、ソレと、しテ」


「それと?」


「して?」


 ひょいと両手を広げて加代さんの前に差し出すコヨーテちゃん。ちょうどお手の格好となった彼女が、何かを期待する目でリーダーを見ている。


 その視線に俺たちは心当たりがあった。

 そう、いやというほどここ数週間、経験していた。


「プリーズ、ギブミー、オトシダマァー」


「……のじゃぁ」


「いい歳して、なんの臆面もなくお年玉をねだる度胸!! しかも他人に!!」


「ワイもそこそこあげてんねんけど、それでもやっぱり貰えるもんは貰うて。ほんま頑固やでコヨーテちゃん」


 新年のあいさつももちろんだが、そこにはやはり打算もあるのだろう。

 どこぞのオキツネと違ってしっかりしているなぁと、俺は褐色の米国産クビになる娘に、そっと夏目を差し出したのだった。


 これでどうか、勘弁してフォックス。


 とほほ、ほんと正月はいい大人には厳しい季節だぜ。

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