第682話 ダブルデート(予定)で九尾なのじゃ
「マスター例のものを」
「のじゃ」
カウンターの中で、しゃかりしゃかりとシェイカーを混ぜ始める加代さん。
あのシェイカーの中身が、あぶりゃーげの汁である確率を俺は嫌というほど知っているし、まともなカクテルが出てくる気もしない。だから、いつものオチをというノリで、加代さんにいつものと頼んだのだけれど――まぁそりゃさておき。
ここは阪内一の繁華街にある夜の街。
おねーちゃん達がしのぎを削る、眠らない街からちょっと離れた場所に在る、男たちのオアシス。
スナックとはまた違い、男たち同士で静かに語らうタイプの場にしてバー。
カクテルバー「ナイトフォックス」である。
雇われ店長は加代さん。
なんかもう、ベテランの風格を出しているが、例によって本日が初出勤日。
初店長である。
それでも、これだけそれっぽい空気を出すことができるのだから流石だ。
まぁ、カクテルの中身はあぶりゃーあげなのだが。
あるいはどん兵衛のダシ。
そんなバーのカウンターに列をなしているのは男三人。
一人は俺、もう一人はダイコン、そして最後はなぜか前野。
野郎三人、集まれば文殊の知恵――。
だったらよかったのになぁ。
「女やもめの三人がおったら、合コン開けるでしかし!!」
「ぐへへ、ダイコンさん、さぞオモテになるんでしょう。俺にも紹介してくださいよ、セレブうらぶれロリ人妻とか、セレブバツイチロリお嬢様とか、セレブ女スポーツ選手ロリウィリアム人妻とか」
「ちょいちょいマニアックな要求を織り交ぜてくるな前野。お前、そういうキャラだったっけ」
浮かんでくるのはろくでもない話ばかり。
おい、誰だこいつらを集めたのは。
バカなんじゃないのかと言ってやりたくなる。
いや、普通に飲み会なんだけれどもね。
同じような性格をしている者同士、ダイコンと前野はファーストコンタクトこそ最悪だったが、割とその後はすんなりと意気投合した。
かたや阪内でも名の知られたホールディングスの社長、かたやあまり名前の知られていないソフトウェアハウス平社員。決して仲良くなることなどあり得ないと思われた二人だが、意外や意外、通じ合う部分が彼らには少しだけあったのだ。
「いやぁ、しかし、うさ〇んの新連載」
「マ〇ちゃんもよかったけれど、あれもなかなか不条理でいい感じやなぁ」
「ふむ、超マニアックな雑誌の巻末漫画で盛り上がることのできる人間が、まさか身内にいようとは思わなかった。CEOと呼ばせていただいても?」
「ROを付けたらあかんのよ、LOでもあかんのよ」
「何を言うとるのだお前らは」
完全に出来上がった二人がケタケタと笑う。
そう、もう完全によっぱらい状態であった。
二人は泥酔であった。
そんでもってちょっとマニアックな漫画雑誌を嗜む仲であった。
それについてどうこう言うつもりはないが、こんなおおっぴらにアダルトな場所で話すことではないだろう。
そして、人のツレがバーテンしている前で、するような会話ではないだろう。
まったく、どうかしてやがるぜ。
そんでもってこいつら、更にどうかしていることを言いだす。
「いやはや、やはりね、ファンタジーの中だけの存在だと思っていたんですよ」
「けどね違ったんです。居るんですよ、やはり世の中にはね。合で、法な、ロリが」
「人間かっていう話は置いといてな」
じっと二人の気味悪い視線が加代に飛ぶ。
のじゃぁと疲れたため息を吐きだすも、シェイクする手は止めない。そこは加代さん、華麗なる手さばきというものである。
しゃかりしゃかりとシェイクしてカクテルを作る。
そして、いかにもお洒落なバーでござい、じょうごのようなグラスにひょいと入れて、俺の前へと差し出す。
薄いオレンジ色をしたそれは、ほのかに出汁の香りがした。
「いなり汁になります。お揚げをお好みで添えてお召し上がりください」
「ネギも入れてくれるかい」
「かしこまりました」
うぅん、とんちき。
カウンターの前を向いてもトンチキ。
横を向いてもトンチキ。
トンチキオブトンチキン。
正直、どうなっとるのだと叫びたい気分だが、それで何がどうなる訳でもない。
ここはこういう事には慣れている、客あしらいの達人である加代さんにお任せしてみるとしよう。なぁに、彼女なら、きっといい感じにこの困ったおおきなおともだちをなんとかしてくれるに違いないさ。
「思えば長かった。理想のロリを求めて、レンタルショップをはしごする日々」
「パッケージに騙されて、出てくるのはどう見てもアラサーのおばさん」
「いや、そりゃ本物が出ていたら問題なんだけれど。それでも、もうちょっと夢のあるような展開があってもよかったんじゃないのという日々」
「そして、今回もそうなのだろうなと思いつつ見てしまうウワキツ映像」
うっうっとむせび泣くダイコンと前野。
どうやらここが泣くシーンらしい。
だが、すまんことにまったくもって泣き所が分からん。
なに、いったい何が悲しいというの。
何も悲しいことなんてないじゃない。
むしろ、そのちょっと無理している感がいいんじゃない。
そういうのを楽しむモノでしょ、アレって。
俺がおかしいのかなと加代さんに目を向ける。いつも俺にいろいろと付き合って、ウワきついことをしてくれる彼女は、何も言わずに目を伏せるのだった。
「という訳でや、加代やん。こうして前野くんもおる訳や」
「合コンちぅのは無理にしても、ダブルデートの設定くらいはできるやろ。なんかいい子紹介してくれや」
調子にのったよっぱらいほど性質の悪いものはない。
いいぞ加代、もう、好きにやってやれ。
久しぶりに九尾大回転でも俺は怒らないぞ。
そんな視線を送ってやると、彼女はカウンターの下から一升瓶を取り出す。
瓶のラベルは美少年。
うぅん。
「「そっちはいけない口なんだなぁ」」
「お前らは、もうちょっと、ちゃんと現実を見るのじゃァ!!」
フルスイング、一升瓶スラッシュがアホ二人に決まった。
なお、ツッコみように、一升瓶は成分が脆くなっております。
読者の方は、決して――そう、決して真似しないようにしてください。
そして、ダイコンと前野のアホのことも、決して真似しないでください。
こっちは普通に捕まりますので。
「なんでや!!」
「ロリに人権はないんか!!」
「いや、あるけれども、お前らのような拗らせたのには割とない」
「「そんな殺生なやでー!!」」
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