第672話 出前と言うか出落ちで九尾なのじゃ
「桜やん、残業おつかれさんやでー。まだやってくんかいな」
「……うっせぼけ、誰が振った仕事の生でこんな時間まで残っていると思っているんだ。ふざけたこと抜かすと、口から明日の資料突っ込んで人間シュレッダーにするぞ」
「噂に聞いてはいたが凄い剣幕だ。これがブチギレの桜――!!」
そういやこっちの会社に来てからブチギレるのは初めてだったかな。
俺からしてみりゃ平常運転。
無茶なこと言う上司には、こっちも無茶で返す。
それが俺の仕事のスタイルである。
どっかの馬鹿が今度のプレゼンで綺麗な資料を使いたいの。
システムエンジニアやってたならそういうの得意でしょう、おねがーいとかくそみてえな女声で頼んできたから引き受けてやったが――ろくなもんじゃねえ。
なんちゅう量の資料だってんだ。
引き受けてから、どうしてここまで放っておいたんだと、やっぱりてめえでやれよと、おいこの酷い材料でどう料理を調理すればいいんだと、三つの感情がないまぜになったのは久しぶりだった。
いやまぁ、こういう仕事は大好きだよ。
腕の見せ所ってね。
しかしまぁ、神経は確実に尖るさ。
そりゃ尖る。
カイ〇の顎くらい尖るわ、ボケ。
どうどう落ち着いてと、まるでジュラシックパーク(新)の主人公みたいに、俺ににじりよってくるダイコン。
おのれ。
お前が昔のままだったら、笑って叩き割っている所だぞペッシ。
コーラの一つでも持ってこい。
エンジニアなんてそれでたいてい機嫌が治るもんなんだから。
俺のデスクにへらへらと寄ってきたダイコン。
すかさず、彼は空いている席から椅子を転がしてくると、俺の隣に座った。
まぁ、なぁ、指示出しておいて帰るってのは、そらまぁ違うわな。
そこら辺を弁えているだけ、ダイコンの奴は偉いよ。
「おそくなりそう?」
「まぁな。こりゃ終電逃して、今日はここでお泊りですわ。仮眠室、使わせてもらうぜ?」
「アレだったらゲストハウスでもいいぜ」
「そんなのあるのかよ、すげーな大都会のビルは」
「いや、流石に冗談やがな。したって、申し訳ないことしてもーたな。軽く頼むんじゃなかったわ、反省」
「反省するなら猿でもできるぞ」
そう言ってやると、ホレとスマホをダイコンは差し出す。
映し出されているのは――宅配なピザの広告である。
これはもう、何も聞くまでも無くそうだろう。
「好きなのを頼みたまえよ桜くん。ワイのおごりや」
「おっ、できる上司感出てるゥ。んじゃまぁ、Lサイズ三枚で手を打とうか。あとコーラ。それにサイドメニューにいろいろとつけちゃう」
「えっ、ちょっと、流石に一万越えは堪忍してーな」
なんでも頼んでいいんじゃなかったのか。
まったく、会長の癖にみみっちいことを言うんだな。
やれやれと呆れた顔を見せて煽ってみるが、やはりホールディングスの社長、そこんところはしっかりしている。感情論に流されない。
節度ってもんがあるんやでと、ダイコンは俺の挑発に乗ってこなかった。
やはり社長は伊達ではない。
伊達ではできない。
よく分からんが、とりあえずダイコンの男気は感じた。
「頼むで桜やん。まぁ、社長業やってるけど、うち、なんやかんやで金はかつかつなんや」
「独身で暇してるからそんなことないかと思っていたが。まぁいい。それじゃ、Lサイズ一枚で勘弁しといてやる――待てよ」
今までのことを思い出す。
そう、これまでの一連の出前話のオチを。
そう、店屋物を頼んで、やって来るのはいつだって、オキツネコンコンのアルバイター。そして、提供されるのはあぶりゃーあげ料理である。
これはいつか見たテンプレ。
いわんや、このままダイコンの言う通りに、店屋物の出前を頼めば、待っているのはお決まりの光景である。
それでいいのか桜よ。
それで大丈夫なのか桜よ。
もう、割とネタはやり切った感はあるぞ。
「なんや桜やん黙り込んで。お腹すいとらんのかいな」
「いや、ペコペコだ、今すぐなんか食べたい。だがそれを上回って懸念事項が」
「……なんやな。しょーもないことやったら怒るでしかし」
割としょーもないことである。
そして、別に説明する必要もないことである。
はたして、俺はこのままピッザを頼んでいいのだろうか。
例によって例の如く、懐かしい油あげ生地のピザが出てきてのじゃーってなるんじゃないだろうか。
やはりここは少し考えて、違う店屋物を頼むべきだ。
そう、たとえば、ラーメン。
いや。
油揚げラーメンとか普通に持ってきそうで怖い。
チャーシューの代わりに油揚げがたっぷり入ったラーメン。
それは蕎麦ではいけないのだろうか。
なんにしても、俺はあの不健康が極まったギトギトのスープとちぢれ麺を堪能したい訳で、あぶりゃーげはノーサンキューだ。
だとしたら最近デリバリーをはじめたハンバーガーだろうか。
いや、けど、バンズもミートも油揚げの、百パーセント油揚げオキツネハッピーセットとか出てきたら、もう手がつけられないぞ。
どうしよう、どうする。
ひとしきり考えて俺は――。
◇ ◇ ◇ ◇
「のじゃぁ!! お待ちどうさまなのじゃ!! きつねうどん二人前お待ち!!」
「待ってましたよ加代さん!!」
「お夜食には、胃に優しい食べ物をってな。きつねうどんは消化も良し、味も良し、夜食の定番やで」
ゲテモノ油揚げ料理を食べたくなければ、普通に油揚げを食べればいい。
案の定出てきて看板娘加代さんを出迎えて、俺は熱々のうどんを受け取ったのだった。
うむ。
「社長のおごりがきつねうどんとか、残念過ぎるフォックス!!」
せっかくだから、もっといいもん食いたかったぜ。
ちくしょう。狐に魅入られし者のこれが宿命って奴か。
まぁ、しゃーなしだな。
「で、済むかフォックス!! 勘弁してくれフォックス!!」
「……何をいっておるのじゃ桜は」
「……桜やん。貴方疲れているのよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます