第652話 英霊で九尾なのじゃ

「問おう、汝が俺のマスターか?」


 それを言うたらいかんやろ。

 俺らの世代じゃ知らない人はいないだろう、屈指の名台詞を言う――俺ことガッチガッチのプレートメイルを着込んだ桜くん。(アラサーの騎士セイバー


 もうなんていうか、桜で男なのにこんなことやっていていいのか。

 そんなことを思いながら俺は眼下の男子高校生を睨んでいた。


 たまらず顔を背ければ、またしてもカットカットの声。


 出てきたのは――アシスタントディレクターさんだった。


「なにやっているんですか桜さん!! これ、一番盛り上がる次回へのヒキのシーンなんですから、もうちょっと気合入れてくれないと困ります!!」


「……いや、だって」


「私のデビュー作なんですよ!! パロディ満載の色物コメディだとしても、もうちょっと気合を入れていただかないと!! この作品の出来不出来で、私の人生が大きく左右されるんですから!! ちゃんとやってください!!」


 こえーよ、アシスタントディレクターさん。

 というか、今回に限ってはディレクターさん。


 彼女は件のアジア旅行でも時折見せた、狂気染みた表情でそう言うと、俺の頭をメガホンでどついた。


 もちろん、まったく痛くない。

 痛くないけれど、何をやっているんだという気にはなる。


 本当。

 何をやっているんだ俺は。


 というか、なんだこのひどいパロディは。


 ことの起こりは前回――魔法少女ドラマの撮影に端を発する。


 そう実はライオンディレクターのドラマとセットで、もう一つテレビの枠を取ることに成功していた彼らの制作会社。これまでライオンディレクターの下で修業すること幾年、大事に育てられてきたアシスタントディレクターさんが、満を持してメガホンをとることに今回相成ったのだ。


 とはいえ、若輩の監督にできることなんて限られている。

 実質的には政策委員会の意向に沿って、有名脚本家の脚本通り、なおかつライオンディレクターの全面サポートの下に行われる。


 まぁ、言ってしまえばお飾りだ。


 それでも初監督作品には違いない。

 アシスタントディレクターとしても力が入るのは仕方なかった。


 しかし――。


「……やればやるほどひでえ脚本だなァ」


「のじゃぁ。企画モノのそういうビデオでもないモロパク丸わかりの作品なのじゃ。逆に、これがどうやったら地上波に流すことができるのか、どんな圧力をかけたのか」


「十年以上前の作品ですよ。一周回って誰も分かりませんって」


 また強気なことを言いだしたなフォックス。


 バレなきゃいいとかそういう問題ではないだろう。

 もうちょっと、過去の名作に対する敬意みたいなものを持ってもいいんじゃないだろうか。いや、政策委員会の言われるままに撮っている、アシスタントディレクターちゃんに言っても仕方のないことではあるのだけれど。


 だが、それにしたって今更な作品である。


「まぁ、最近ソシャゲでまた認知度上がってるし、リメイクも出るしな」


「のじゃ。外伝では狐娘が大活躍じゃしのう」


 ナシではないけど、アリなのかなぁという感じ。


 こういうのはアニメとかでとどめておくからいいような気がするのだけれど、まぁ、そこは目を瞑るとしようフォックス。

 俺と加代は、アシスタントディレクターさんの立身出世のために、あえて細かい所については目を瞑ることにした。


 目を瞑って、脚本に専念することにした。


「まぁ、とはいえ、昨今のキャッチーな部分は取り入れていくつもりですよ」


「おっ、なになに。やっぱり少しは捻りを加えていくの」


「のじゃ。そういうひと工夫が、思いがけない良作になったりするのじゃ」


「……まず、召喚される英霊は日本の戦国武将縛りです」


 うん。


 一気にいろんな方面に迷惑がかかるようになったぞ。

 そして、間口は確実に広がったが、その層は結構けんかっ早い人たちが多いぞ。


「更に、因縁のあるイケオジばかりが出てきます。彼らは時空を越えて、お互いに奇妙な友情とも愛情とも言えない感情を抱いているのです」


「……また、そんな」


「……おっさんたちの絡みとか、ニッチだけれど今強烈に来ているコンテンツなのじゃ」


「ちなみに桜さんは日本でも有名な英霊。衆道大好き、尾張のうつけ」


 やめよう。


 それは、本当になんというか、手が付けられないようになるからやめよう。

 というか、まともな感じの役がやれると思ったらやっぱりそうなるんかいフォックス。


 衆道は、ハード過ぎるよフォックス。

 たとえフィクションでも勘弁していただきたい。

 戦国の武将の習いといっても勘弁してほしい。


「犬千代から惟任、ボンバーから油マムシまで、よりどりみどり」


「いや、やめて!! 想像させないで!!」


「のじゃぁ!! そういうのを求めているけれど!! けど、公式にそういうのは求めていないというか!! おおっぴらにやられると冷めるというか!!」


「タイトルは――戦国武将に衆道はむず」


「「それ以上は本当にいろいろヤバいからストップフォックス」」


 なんでも混ぜればいいってもんでもない。


 パロディにも、混ぜていいものと悪いモノがあるのだ。


 そこは、ファンのことを考えてあげようフォックス。

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