第606話 おちおちクビにもなれないで九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
異世界逆転生。
向こうの世界からこっちの世界に移動してきたナノちゃんたち。
彼女たちならばともかくとして、シュラトの転生っぷりがやばかった。
まるで、転生先では無茶しない、全力でだらけるとばかりのだらだら生活。典型的な罪悪感のないひきこもりっぷりに桜たちは参っていた。
そう――。
「異世界転移をこっちでやられると、こんなに腹が立つもんなんだなァ」
「のじゃぁ、九尾にも我慢の限界というものがあるのじゃ」
加代も桜も、なんだかんだでいっぱいいっぱいだった。
◇ ◇ ◇ ◇
酒を飲むのを止めてダイコンタロウがため息を吐く。
口に出さずとも大変やなぁという感情は伝わって来た。どうやら、俺たちが訴えたかったことは彼によく伝わったらしい。
「分かったで。まぁ、なんやな。あっちの世界で頑張ってたシュラトやんのことやで、その反動が来たと思えばそれまでやなぁ」
「そうかもしれないけど!!」
「いくらなんでも働く気がないでござるは困るのじゃぁ!!」
「加代やん、なんやその作者のネタ縛りでも強いられてるんか。まぁ、こればっかりは本人がその気になるまで、待ったる他にないんやあらへんかなぁ」
その待つができないほどに俺たちは今切羽詰まっているのだ。
そもそも、俺の実家はそれほど裕福な家じゃない。
どこにでもある中流の下家庭。
サラリーマンになることを強いられ、特にこれと言って職人でもないときたもんだ。母親が公務員やってたとはいっても、彼女も正規職員ではない。今は仲良く年金とパートの金で暮らしているが、ほそぼそとした典型的な老後生活である。
そこにどっさりと、無職の男が乗っかってくる重たさ。
息子や娘ならいざ知らず、赤の他人である無職の男がやってくる重たさ。
そしてその赤の他人の勝手知ったる我が物顔。
王か何かのような傍若無人な振る舞いである。
「いや、まぁ、言うて、根がいい奴なのは違いあらへんやろ。シュラトやん」
「そうなんだよ!! 根はいい奴なんだよ!! 家の厄介事とか、率先してやってくれるし!! すごく助かっている部分があるのは間違いないんだよ!!」
「だから父上も母上もちょっと働けとは言いづらい環境になっちゃってるのじゃ!!」
「まぁシュラトやんやからなぁ」
それでもって、性格がいいのは間違いないんだよ。
過去にも感じたけれど、シュラトの性格が良いことは間違いないんだよ。
彼はなんていうか、そういう人の良い部分が魅力の人間なんだ。
だからほら、対人関係で苦労することはまずないはずなんだ。
あと少し、外に出て自分で稼ぐという気持ちさえ持つことができれば、アイツも一皮むけることになると思うんだ。
はじめての異世界転移。
争いもなければ、いさかいもない、平和な世界。
そんな世界に放りだされて、自分の生き方を定めることができないのかもしれない。どうやって、世界と折り合いをつければいいのか分からないのかもしれない。
それを、向こうの世界の友人である俺たちが、そっと背中を押してやることはできないだろうか。
そう、そっと――。
「今まで、何度も仕事のあっせんを試みてきてはみたんだ」
「けれどその度に、なんやかんやで話を濁されてきたのじゃ」
「今度こそ、シュラトに就職を!!」
「あやつに異世界で生きていくだけの気概と覚悟を!!」
「自分らが気負っても仕方ない話やん!!」
「だから頼む、ダイコンタロウ!! なんかこう、いかにも事業しておりますって感じの顔をしているじゃないか!! 頼むぜダイコン!!」
「のじゃぁ、ダイコン!!」
シュラトを雇ってあげてくれ。
俺たちが、あのヒキニート暗黒騎士のためにしてやれることは、これくらい。
元異世界仲間のダイコンに頭を下げることだけであった。
「いや、下げられても困るでしかし!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます