第598話 さらば異世界よで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 顕現した魔神筒を封印するべく、空からその穴の先に向かう桜たち。

 九尾の加代ちゃん、最後でちゃんとお仕事をする。九尾コプターで上昇した彼女は、桜たちを無事に魔神筒の頭上まで送り届けるとそこから急降下。


 はたして、ダイコンタロウの身体より産まれた、ジャストフィットサイズの魔神筒は、生みの親である彼の身体をずっぽりと咥えこみ――。


『あひぃぃい!! りゃめぇっ!! んほぉぉお!! そんな所に大根入れちゃりゃめぇえええ!! 魔神にゃのに!! 魔神にゃのにぃ、封印されちゃうぅぅうう!!』


「……うわぁ」


「……流石魔神筒、断末魔が長いのぉおお」


 長い断末魔みさく〇台詞を上げるのだった。


◇ ◇ ◇ ◇


 暗い。

 視界が暗い。

 頭が重く、まるで一週間終電間際まで働いた果てに休出して、社内規約のために休んだ日曜日の朝のようだ。二十代の頃は、なんとかだましだましやれていた感のある働き方だが、三十を超えてちょっときつくなってきたそんなことを感じさせられる状態だ。


 周りがざわめいている。

 どうやら衆人環境の中らしい。

 俺はのっそりと首をもたげると頭を掻いて、重たい瞼を擦り上げた。


 脚から伝わってくる冷たいリノリウム張りの床の感触。

 衆人環境ではあるが、決して多くない人の数。

 そして、独特のイントネーションの訛り。


 そう、ここは――。


「なんやなんや。いきなりこいつら現れて。奇術か、どっきりか、吉〇の撮影かいな」


「えっ、えっ、ちょっとテレビの撮影。いやや、映さんといて。かなわんわ」


「カメラどこや!! ピースピース!!」


「ビリ〇ンさまのご加護やで。ありがたや、ありがたや」


 そう、大阪のシンボル。

 日〇の文字がまぶしい電波塔。

 それでいて、絶妙に交通の便が悪くて観光するのが難しく、行ったからといって自慢になる訳でもない場所。


 大阪、通天〇タワーであった。


「……最後の最後までパロディかよ」


 異世界から戻って来て電波塔の中。

 もはや俺たち三十代にとっては、言うまでもないお約束である。こいつを知らねえ奴は、まぁちょっとオタクやってても少ないだろう。

 本当は、肩を組んでえんえんと泣くのがお約束なのだけれども――。


「……加代さん?」


「……のじゃ、桜ぁ?」


 離れた所に、俺と同じように倒れている九尾の姿が見える。

 異世界転移者としては落第だけれども、最後の最後まで頑張った彼女もまた、どうやら俺と同じように元の世界に帰ることに成功したらしい。

 いつもだったら引っ込めている、九つの尻尾を揺らして――彼女はずるりずるりとこちらへと近づいてくる。


 俺もまた、そんな彼女を求めるように、ゆっくりと立ち上がるとそちらに向かう。


「……加代!!」


「……桜ぁ!!」


「加代!!」


さくりゃァ!!」


 人ごみが俺たちを避けるようにして割れる。

 テレビの撮影ではないかとはしゃいでいた賑わいもどこへやら。

 彼らは完全に一歩引いた感じで俺たちのことを見ていた。


 まぁいい。

 感動の再会。

 そして、物語の終幕に水を差して貰っても困る。


 九尾コプターで妖力を使い過ぎたのだろう。ぐったりとして立ち上がることも難しそうな感じの彼女に駆け寄ると、すかさず俺はその肩を抱いた。そして、そのまま強く彼女の身体を抱きしめる。

 知らず、涙が零れ出ていたのに気が付いたのは、顎先に熱いものを感じた時だ。


「……戻って来たな!! 加代!!」


「……のじゃぁ!! 戻って来れたのじゃ!! 信じていたのじゃ、桜!!」


 この澱んた空気。

 このせわしない感じ。

 せかせかとして落ち着かない日々。

 戻って来れてよかったと、心の底から言えるのかと問われればちょっと悩む感じはある。けれども結局人間は、生まれて世界で生きていかなければならないのだ。


 異世界から帰還し、再び、元あった道を歩まねばならないのだ。


 異世界での成長を基に。

 異世界での経験を礎に。

 異世界での絆に縋って。

 これからの新しい人生を歩んでいかなくてはならないのだ。


「……いろんなことが投げっぱなしの異世界転移だったな」


「……のじゃぁ。仕方ないのじゃ。なにせ、わらわは異世界転移者不適格なのじゃから」


「けど、戻って来れてよかった」


「ほんに。今は、それだけで十分じゃ」


 なのちゃん、ドラコ、ダイコン、シュラト、タナカ、なんか他にもいろいろ。

 いろいろなものを投げっぱなしにした異世界転移だったけれど、それはまたそれ。

 俺たちはただ、この長い旅路の終わりを強く強く噛み締めるのだった。


 異世界転移編――か。


「なの!! お兄ちゃんたち!! こんな所でなにしてるなの!!」


「きゅるくくるーん!!」


「……なんだこの塔は。なんだこの街は。いったいここは何処なんだ。あぁ、ちょうどいい所に桜どの!! これはいったいどういうことです!!」


「シュラトさま、人がこんなにいっぱい……!! 怖い……!!」


 異世界におきっぱなしにしてきたはずの縁。

 ぐだぐだ展開で、終わらせてしまうことの申し訳なさもこれから噛み締めようと思っていた俺の耳元に、なんだかここ数ヶ月でよく聞いた声が届く。

 振り返るとそこには案の定、ここ数ヶ月というものよく一緒に過ごした面子が、ずらりと並んでいたのだった。


 なのちゃん、ドラコ、シュラト、アリエスちゃん――。


「終わったよって言いてぇっ!!」


「のじゃぁ!? なんで四人がこちらの世界にいるのじゃぁ!?」


 またしてもざわめく通天〇タワーの展望台に居る人々。

 そんな彼らに見えるのか見えないのか、空に浮き出て赤い髪の駄女神が、俺たちに向かって告げるのだった。


『投げっぱなし異世界転移とか、よくないと思うんですしおすし』


「「ですしおすしじゃねぇ!!」のじゃぁ!!」


 どうやら異世界転移編自体は終わった。

 けれども、それから続くしがらみはまだまだ切れないようであった。


 とほほ。

 ほんと、なんてグダグダな異世界転移なんだフォックス。

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