第212話 交換条件で九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 副社長と遅い夕飯を共にすることになった桜。

 会長の件もあり副社長からの好感度はマックス。


 直属の部下になることこそ免れたが、副会長は桜のことを信頼したようだった。


 二人しての遅い夕食。そこで桜は不意に、昨日の襲撃事件で使われた、アケボノ会館のパチンコ玉について思い出す。


 会長と同じで、アケボノ会館の常連だったという副社長。

 多忙な会長に代わって、自分がアケボノ会館の関係者にアポを取ってもいいと申し出るのだが――彼はそれに思いもよらない条件を付けて来た。


 それは――。


「お前さん、俺の孫娘と見合いしろ」


「ブゥーーーーーーッ!!!」


「のじゃァーーーーッ!!!」


◇ ◇ ◇ ◇


「どどどど、どういう流れでそういう話になるんですか!?」


「そそそそ、そうなのじゃ、どういうことなのじゃ!? こんなごく潰しのパチスロ好きニート予備軍ヘタレ陰険セコセコ男なんかに、大切なお孫さんをくれてやるなんて、正気の沙汰じゃないのじゃ!!」


 いきなり台所から飛び出して来て、加代の奴が俺に失礼なことを言う。

 副社長と俺のテーブルをどんと叩くと、彼女は必死な感じで抗議した。


 まぁ、気持ちは分からないでもないが――。


 お前だって、三十世紀フリーター職なしぐうたらオキツネくせに、何をちょうしこいたことを申されるのか。

 もうちょっと、言葉を選んでフォックス。


「なんだい嬢ちゃん藪から棒に。もしかして、こいつのいい人か?」


「いや、それは、なんというか――。わらわと桜はその、腐れ縁というか――」


「あ、ただの同居人ですので、気にしないでください」


「のじゃぁ!!」


 先ほどの俺に対する悪口もあって、つっけんどんな態度をしてみせる。


 加代さんや。世の中には言っていいこと悪いこと、そして限度というものがあることをよく覚えておかれるといい。


 同居人。

 ふむ、と、副社長が値踏みするように加代を見る。


「同棲って奴か」


「同居人――いえ、同居狐です。ペットと同じなので、気にしないでください」


さくりゃァ!! 流石にちょっと同居狐とはいかがなものなのじゃ!!」


「そうか、ならばなんの問題もないな」


「問題大ありなのじゃぁ!!」


 ぷんすこと怒る同居狐。まぁ待て、ちょっと引っ込んでろと、俺は彼女を半ば強引に、定食屋の厨房へと押し込んだのだった。


「桜!! 浮気は絶対に許さんぞ、絶対になのじゃ!! もしも、お見合いの話を受けるというのなら、わらわの屍を越えてから行くのじゃ!!」


「えぇ? 俺、受けようと思ってたのに」


「のじゃ!? 本気かえ、桜よ!?」


「本気だよ」


 受けるだけだけどな――。


 ふるふると、目の端に涙をたたえてこちらを見上げるオキツネ娘。そんな彼女の不安に応えてあげるべく、俺は親切コンコンと、その目的について語ることにした。


 と言っても、特に深い何かがある訳でもない。


 例のパチンコ屋――アケボノ会館について情報がもらえるのなら、お見合いくらい別に受けても問題はないだろうということだ。


 なにせ会長は、先の通りご多忙である。


 願ってもない申し出。

 これを逃す手はないというもの。


「のじゃ、本当にそれだけの理由じゃのう?」


「それだけの理由なのじゃ」


「相手が美人さんで、ぴちぴちだからって、乗り換えたりせんじゃろうのう?」


「そんときゃお前――末代まで呪ってくれても構わないよ」


 既にお前に憑りつかれた時点で似たようなもんだけれど。

 ようやく納得してくれた加代。

 そういうことならば、と、彼女は大人しくお見合いを認めてくれたのだった。


 うん、まぁ、こればっかりはそうねぇ。

 同居人、同居狐と言ってはいるけど、筋は通さないといけない話だよね。


 再び席へと戻った俺。

 しーしーと、爪楊枝で歯の間をすいていた副社長の前に座ると、話はついたのかい、と、彼はあっけらかんとした顔で言った。


 立ったまま、俺は彼に向かって頭を下げる。


「お嬢さんとのお見合いの話、受けさせていただきます」


「――ほう、そうか。いや、そう言ってくれるとこっちも話を出した甲斐がある」


「しかし、あくまで当人同士のことですので、話が上手くいかなくても、そこはご容赦してくださいね」


「分かっておる。ワシもそんなセコいことを言うほど、まだ耄碌はしとらんよ」


 それじゃぁ、そろそろ夜も遅いし、おいとまするとしようか。

 俺が立っているのにかこつけて、副社長が立ち上がる。まるで流れるような手際の良さで、俺の分まで会計を済ませると、彼は暖簾をくぐって店の外に出た。


 今日は一緒に飯を食べれてよかった、と、副社長が夜空を見上げて呟く。

 その横顔がどうにもさっぱりとしていたものだから、ふと、俺は妙なひっかかりを覚えて、つい、声をかけてしまった。


「ところで、どうしてお見合いを交換条件に?」


「うん?」


「俺以外にも――いや、俺以上に優秀な社員なんて、幾らだっているでしょうに」


「――なに。自分の会社の副社長を前にして、気前よく蕎麦をすすってみせる、そんなお前さんの肝の太さに、俺は惚れちまったのさ」


 あちゃぁ。


 そう言って、にっと、笑う副社長。


 またしても付け入る隙のない好々爺の笑みである。


 こいつはどうも、妙な気に入られ方をされてしまったようだ。

 はてさて、無事にお見合いが済むとよいのだが――。


 どうなることやら。

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