第201話 だれが引き金を引いたのじゃで九尾なのじゃ
【前回のあらすじ】
~~加代さんのフォックスビュラスブログ~~
20YY年 MM月 DD日
今日はわらわの旦那さまと
フォックスビュラスに
シャンペンでディナーなのじゃ
旦那さまは、おつかれで
ししゃ――キャビアの丸焼きをお出ししてあげたら
フォックスビュラス
よろこんでましたのじゃよ
それからわらわの狐の尻尾――お尻でかわいがってあげたら
ふふっ
みなさまも、よい、フォックナイトを、お楽しみなのじゃ
☆☆☆コメント☆☆☆
匿名ブロッサムさん うそつけおめーいつものいなりずしにししゃもと麦茶だったじゃねえか
管理人 のじゃ、誹謗中傷は駄目なのじゃ!! 謝らないとコメント削除の上で、IPアドレスさらすのじゃ!!
匿名ブロッサムさん 誹謗中傷じゃなくて事実だっての!!
管理人 のじゃのじゃのじゃ!! 仮にいなりずしとししゃもと麦茶だったとして、それが何か問題でもあるのかなのじゃ!! とってもフォックスラビュスな夕食なのじゃ!!
匿名ブロッサムさん そもそもなんだフォックスラビュスって……
管理人 あれ? もしかして、おぬし、桜?
匿名ブロッサムさん 匿名ってつけてんだから本名だすなやこの駄女狐管理人
管理人 のじゃぁ!!
◇ ◇ ◇ ◇
白戸の部長就任、そして、俺の次長就任まであと一週間と迫った時だ、その事件は起きた。
「大変です、宮野部長!!」
そう言って、第二営業部に駆け込んできたのは、係長格の男である。
名前は知らない。
とにかくすぐにきてくださいと、彼は部長の袖を引いて、営業部からどこかへと消えた。それから数分後のことだ。
「坂崎次長、それに白戸くん!! ちょっといいかね!!」
険しい表情とともに第二営業部に戻ってきた彼は、営業部の首脳ともいえる二人を呼び出した。何があったのか、と、それで騒然にならないわけがない。
かくいう俺も、タイプの手を止めて二人の背中を目で追ってしまった。
ちらり、と、こちらをうかがうように、宮野部長の目が向いた。
なんだろうか。その視線の奥にいやなモノを感じて、ぶるり、と、背中に悪寒が走った。
「部長があんな顔するなんて、よっぽどのことですよ」
「――みたいだな」
「現場で事故でもあったんでしょうか?」
「いや、それならどうして営業部に連絡が入る。そういうのは、建築部の管轄だろう」
だとすると、商談進行中のプロジェクトのいくつかで、問題が起こったか。
競合他社による案件の横取り、あるいは他社との談合失敗。どういうことが起きているのか、先ほどからの細かいやり取りからでは想像がつかない。
この手の話は、直接詳しそうなのに聞いてみるに限る。
俺は立ち上がると、大変ですと駆け込んできた係長が居る島へと向かった。
「ちょっと、事情を聞かせてもらっても構わないかな?」
そう言って問いかけたのは、その島を管轄している課長だった。
僕かい、と、意外そうな顔をする課長職の男。どうやら、思い当たることは、その素振りからないみたいだ。
そういえば、彼を差し置いて、次長と白戸も呼ばれたっけな――。
「これはもしかすると、相当やばい状況なんじゃないのか」
もはや白戸たちが帰ってくるのを待つしかない。そんな状況にやきもきとしながらも、俺は自分のデスクへと戻った。
◇ ◇ ◇ ◇
その問題について、内容が明らかになったのは、煙草休憩の席においてであった。
「――大変なことになった。官公庁の天下り施設の案件なんだが、それの工事が保留されることになった」
「なんでまた」
「官公庁側の問題だ。その施設の建設にあたって、土地買収に携わった職員が、不正会計を働いたとかでね。とにかくそのあおりをうけて、一旦、その事件についてはっきりとした結論が出るまで、施設の建設については保留ということになった」
「保留なら、まだ、騒ぎ立てなくても」
「保留のついでに、うちへの受注についても、何か不正な働きかけがなかったか、監査が入ることになったんだよ」
そう言って、忌々し気に煙草をもみ消したのは坂崎だ。
ここは第二営業部があるのとは違うフロア。彼がいつも向かう隠れ家である。
どうして白戸はその事実を、俺には語ってくれなかった。宮野部長にしてもそうである。まだ次長ではない俺に、この話をする必要はないと判断したのだろう。
となれば、その経緯について尋ねる先は、この男しかいない。
会社の中での密会は正直なところ度胸が言ったが、まぁ、ここは新参者の営業部員は出入りすることない。
白戸の奴も、あわただしく外周りに出て行ったのを確認している、バレることはまずないだろう。
しかしまぁ、確かに、これは厄介なことになったものだ。
「つつかれて困るようなことはしてたんですか?」
「してない!! と、声を大にして言えるほど、うちの会社は清廉潔白な会社じゃないからね。そもそも、官公庁とのズブズブの関係で、ここまで成り上がってきたような所だ。たたけばほこりくらいは出る」
「担当の課長をすっ飛ばして二人が呼ばれたのはそのあたりですか」
「あぁ、営業部として、この事態についてどう対処するか、考えなければならない。まったく、あと一週間でこの部からもおさらばというのに、どうしてこんな」
逆にこれが片付くまで、次長と部長の異動も止まるんじゃないですか、なんておべっかを言いながらも、どうにも俺は今回の事件について抱いた、妙な胸騒ぎに居座りの悪さを感じてならなかった。
長い蜜月関係にある官公庁相手の仕事。
それに対して、あんまりにも突然に、そして不意打ちのように入ってきた横やり。
いち係長が、あわてて駆け込んでくるようなものだろうか。
しかるべきルートで、根回しがあってしかるべきではないのか。
「この件、うちの上層部は知らないんですか。それでなくても第一営業部は、それこそ、官公庁相手の仕事をしてるんですよね? 何かリークがあってもいいような気がするんですが」
「官公庁といってもいろいろだからね。今回の相手先は比較的新しい省庁だから。第一営業部にもなにも連絡は入ってなかったそうだ」
「むぅ」
本当にそうなのか。
誰か然るべき人間が、それを止めたのではないのか。
ふと、宮野部長が俺に向けた冷たい視線のことを思い出す。
「まさかな」
どうしてそんな、自社の不利益になることをしなくてはいけないのか。しかしながら、会長の命が狙われているという、異常な事態を前に、何が起きてもおかしくない。
この嫌な予感が、当たらなければよいのだが。
そう願いながら俺もまた、咥えていた煙草を灰皿の中へと押し込んだ。
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