第115話 人情に掉さして九尾なのじゃ
「それじゃぁ、もう少ししたら出港だから。いいマグロが釣れたらクール便で送るよ」
「まぁ、はぁ、無事を祈ってます」
「のじゃのじゃ。楽しみじゃのう」
結局のじゃ子からも俺からもろくなアドバイスを送れないまま、俺たちは部長と別れることになった。
これが
「まぁそう気にしなさんな。マグロ漁船のどうこうってのは、基本的には
「そうなんですか?」
「
アクセルを踏んで車を発進させるや、ライオンディレクターがそんなことを言う。
何気に、そういう世界についても
「それより、そんなふらふらした気持ちで、水上バイクの旅をやってもらったら困るぜ。頼むぜお前よう、いちおうこれでも危険な旅なんだから」
「ここは結構水深が深いところがありますから、油断してたら大事故ですよ」
「放送事故だけはやめてくださいよ、ほんと。頼むよ桜くん」
もうすでに一回、誘拐されるっていう放送事故をおこしておいて、何をいまさらそんなことを気にするのか。
はいはい、十分気を付けますよと、適当にかえす。
それから俺は部長が消えていった港の方を、見えなくなるまで眺めていた。
「やっぱり気になるのじゃ」
「――いや、部長が選んだ人生だ。俺がどうこう言う事じゃねえよ」
「のじゃのじゃ。そうなのじゃ。他人の人生にまで責任持っていたら、人間なんて気が持たないのじゃ。考えるのは奥さんと子供のことくらいで十分なのじゃ」
なのかね。
ここ最近は、嫁でもないドジ狐の心配ばっかりしている気がするが。
「たまにはお前もいいこというな」
「のじゃ。たまにはとはなんなのじゃ。
「――よし、気にせず南国の島を楽しむとするか!!」
「その意気なのじゃ!!」
====
水上バイク一周は、
出発した
「のじゃ。流石にここは流れが急であぶないのう」
「さっさと向こう岸へ渡り切っちまおう」
そう言った時だ、お二人とも、引きかえしてください、と、アシスタントディレクターからの無線が入った。
後ろから、クルーザーで俺たちの姿を追っているディレクターたち。
どうしたことか、彼らは水路の手前にある島近くで、クルーザーを止めていた。
「どうしたんすか?」
「船が出港するので水上バイクは退避するようにと連絡が入りまして」
「まぁ、ちと早いがここでのロケはこれで終わりで、クルーザーの上でシャンパンでも飲もうや」
だとよ、と、顔を合わせると、しかたないのじゃとのじゃ子。
俺と加代は二人並んでその場でUターンを決めると、ディレクターたちが待つクルーザーの近くへと移動した。
ぷぉん、ぷぉん、と、汽笛の音がする。
旅客船ではない見るからに漁船という感じの船が、どこどことこっちへ向かって走って来るのが見えた。
「のじゃ!! 桜よ、あれを見るのじゃ!!」
「部長じゃねえか」
おーい、おーい、と手を振って、こちらに合図を送るのは、先ほど偶然出会った部長であった。
水上バイクの旅をしていると言ったことを彼は覚えていたのだ。
まった、いい歳したおっさんが、何をはしゃいでいるのやら――。
なんてのほほんと思っていた俺の目の前で、部長が体勢を崩した。
おい、まさか、と、思考する間に、調子のよいおっさんの姿が波間に消える。
「部長ぉっ!!」
「のじゃ!? 桜、待つのじゃ!!」
思わず俺は水上バイクのアクセルをふかして、その部長が落ちたであろう、場所へと向かって走り出していた。
落としたとうの船の方は、まったくそんなことには気づいていない感じだ。
なんて奴等だ、お前らの仲間じゃないのかよ。
先ほど加代と一緒に通って、その水路の波が高いのはよく知っている。
「待つのじゃ桜!! 水上バイクでは、救出は難しいのじゃ!! ディレクターさんの船を待って!!」
「そんな悠長なことしてたら、部長が死んじまうだろう!!」
「――のじゃ、桜、前を見るのじゃ!!」
前、とは――。
そう思った時にはもう遅かった。
波が引いてバランスが崩れる。
そのまま、俺は海の中へと放り出された。
「桜ぁっ!!」
のじゃ子の悲痛な叫び声が、どうして波の音の中に聞こえた――。
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