第113話 ラグーン・ロードで九尾なのじゃ

「のじゃぁあああっ!!」

「すげぇえええっ!! なんじゃこりゃあああっ!!」


 飛行機から海を眺めて俺とのじゃ子が絶叫する。

 ナウルから一度パプアニューギニアに戻りそこから飛行機に乗り、次に向かったのは本来の目的地マーシャル諸島である。

 その首都があるマジュロ島へと飛んでいる途中、外を見てくださいというアシスタントディレクターの言葉により、俺たちは飛行機の窓からそれを覗いた。


 島だ。


 米粒くらいの小さな島が、太平洋そのど真ん中に浮かんでいる。

 その島々がどうしたことかエメラルドブルーの浅瀬あさせによりつながって、環状かんじょうを成しているではないか。


「これがいわゆる環礁かんしょうという奴ですね。もともと島があったんですが、それがプレート活動などにより沈降し、その周りにあったサンゴ礁だけが残った――という場所ですね」

「のじゃぁ、綺麗きれいなのじゃ、ほれぼれするのじゃ」

「だなぁ。なんかここに来てはじめてリゾートにやって来たって感じがするぜ」


 もしかして、これから行くマジェロ島もそうなのか。

 俺がたずねるとアシスタントディレクターは笑顔でうなずいてみせた。


 すごいな、これはテンションが上がるわ。


 と、そんな空気に水を差すように、ぬっと、ライオンディレクターがその顔を後ろのせもたれから出した。

 ナウルの映像を取れたことでほっくほっくの彼。


「君たちには、今から行くマジェロ島の環礁かんしょうを内側から回っていただきます」

「のじゃ!! 楽しみなのじゃ!!」

綺麗きれいな海をながめながらの水上バイクとか最高じゃないか!! たまには観光らしいことさせてくれるんだな!!」

「まぁ、ここまでいろいろと大変だったしねぇ。つっても、内海も深いところあるし、過酷かこくな旅には違いないからあんま油断しないでね」


 任せるのじゃ、と、乗り気なのじゃ子。

 そうこうしているうちに、飛行機が着陸準備ちゃくりくじゅんびに入ったとアナウンスが入る。


「ええのう、楽しみじゃのう、サンゴしょう綺麗きれいじゃとよいのう!!」

「だなぁ!! あれだ、スキューバダイビングとかもやりたいな!! せっかくだし!!」

「いいのじゃ、それ楽しみなのじゃ!!」


 声を弾ませて俺たちはシートに腰かける。

 まぁ、スキューバもいいんじゃない、せっかくだし、と、後ろからディレクターの許可が下りるのを聞いた俺たちは、手を取り合って喜んだ。


====


 さて、そんなこんなで飛行機を降りるや俺達は現地で借りたレンタカーにのり、東にあるという港へと向かった。


 道路は一本道。

 先ほど上空から見た環礁かんしょうに沿って、ほぼこのマジェロ環礁かんしょうの半分ほど続いているのだという。


「のじゃぁ、最高のロケーションなのじゃぁ!! 南国最高なのじゃぁっ!!」

「バカお前、恥ずかしいから叫ぶのやめろ!!」

「なに言っとるのじゃ!! 旅の恥はかき捨て!! 日本人の居らぬこういうところじゃからこそ、はっちゃけるのではないか!!」

「――なるほど、一理あるな!!」


 よっしゃ南国最高と、俺も一緒になってはしゃぐ。


 ライオンディレクターの運転により進むオープンカー。

 左右どちらを見ても広がっているのは青い海が視界の果てまで続いている。

 ほおでる風には濃厚のうこうな潮の香り。


 最高である。

 あぁ、これぞ南国というものだろう。


「はい、そろそろ市街地しがいちに入りますから、二人とも静かにお願いしますね」

「のじゃのじゃ!! そんなの関係ないのじゃ!!」

「旅の恥はかき捨てだぜ!! アシスタントディレクターさん!!」

「――どうしましょうこれ、カメラ回ってないからって、はしゃぎすぎのような」


 まぁいいんじゃないの、と、ディレクターが笑って言う。

 ふと、市街地しがいちの交差点で信号が赤になった。横断歩道を色白の若い娘や、こんがりと焼けたファンキーな感じの男が通っていく。


「のじゃのじゃ!! お姉さんたちも観光なのじゃ!! マーシャル諸島最高なのじゃ!!」

「お姉さんもお兄さんもよい旅を!! 南国旅行を楽しんでねぇ!!」

「あぁもう。通行人にまで絡まないでくださいよ!!」


 ともすると、向こうからとぼとぼと歩いてくる男の姿が。

 まるで日本のサラリーマンみたいな風貌ふうぼうのその男は、らかした頭を潮風しおかぜに揺らしている。


「おいおっさん、そんなとぼとぼしてどうしたんだよ!!」

「のじゃのじゃ!! 南国なのじゃ、楽しまないとそんなのじゃ!! あげていくのじゃ!!」


 だから絡まないで、と、止めるアシスタントディレクター。

 しかし――。


「――あれ? 君は、もしかして、桜くん?」

「へっ?」


 俺の声を聞くや、ゆっくりと顔を上げたその中年男性は、かけているメガネを前後させると驚愕きょうがくの顔を俺へと向けた。

 その驚いた顔に、確かに俺は見覚えがあった。そう、この人は――。


「部長ぉっ!?」

「のじゃぁっ!?」


 かつて俺が所属していた会社の部長であり、俺が海外でこんな過酷なロケをするハメになった原因を作った男であった。

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