第102話 マーライオンで九尾なのじゃ

【前回のあらすじ】


 加代ちゃんジョッキーは危なげなく、国際交流レースを勝利したのであった。


====


 はてさて。


 シンガポールに入ってすぐ、競馬レースに飛び入り参加したりと思わぬアクシデントこそあったが、俺たちは無事にシンガポールの都心部へと到着した。

 そしてまぁ当然のように、観光するならここしかないよなと、マーライオンのある公園へとやって来たのだった。


「のじゃ、口から水を吐いとるのじゃ。上半身がライオンで、下半身が魚とはなるほどよう分からん怪物なのじゃ」

「お前もたいがいようわからん妖怪じゃろうがよ」


 伝説にある九尾の狐のイメージをことごとくぶち壊していく駄女狐さまが、自分をさしおいて何をいうのか。


「なにを言うのじゃ、わらわはサルでも猫でも分かる立派な九尾さまなのじゃ」

「どうだかなぁ。マレーシアでお猿さんにおもいっきり遊ばれてたじゃねえか」

「のじゃ!! それは言いっこなしなのじゃ!!」


 稀代の悪女ということで世に知れ渡っている九尾の狐。

 そのイメージと百八十度真逆のこの駄女狐である。猿や猫でなくっても、九尾ですと言われてこいつを出されて、いったい誰が信じるだろうか。


 のじゃぷんぷん、と、頬を膨らませて怒るのじゃ子。

 そんな彼女との間に入って来たのは、アシスタントディレクターさんだった。


「まぁまぁ、二人とも仲良くしてくださいよ、テレビなんですから」

「のじゃ。桜の奴が、悪いのじゃ。わらわちぃとも悪くないのじゃ」

「お前の素行がそもそも悪いのが原因だろうが」

「なんじゃと!!」

「やるか!!」

「まぁまぁ、お二人とも落ち着いてくださいって。あぁ、そうだ、このマーライオンの由来ってお二人はご存じですか?」


 さぁ、知る訳がないじゃないか、そんなもの。

 普通に生きていれば、シンガポールなんて来ることなどそうないのだ、どうしてそんなものに思いをはせることがあるだろうか。


「きっとあれだろう、海の底からやってきた古き神々の使いとかなんかだろ」

「ク○ゥルフ神話じゃないですよ!! そんなのシンボルとして造るってどんだけ厨二病なんですか、シンガポールの住人は!!」


「のじゃ、きっとあれなのじゃ、海でおぼれたライオンさんが、サメに食われてこんな感じになっちゃったのじゃ」

「サメ映画かよ。ちっとも笑えない上に、サメだったらこんな鱗でかくないだろ」


「どっちも全然違いますよ。正解はですね――シンガポール建国の逸話からとっているんですね。別に、こんな怪物が昔し居たとか、そういう逸話がある訳ではないんですよ」


 へぇ。

 生き生きとした顔をして語ってくれるが、正直、どうでもいい話だな。

 のじゃ子にしたって、なんじゃそういう化け物が居た訳ではないのかと、すごく残念そうな顔をしている。


「サメに食われたライオンさんは加代さんの渾身のボケじゃとして、てっきり海辺に寄って来た人間を海へと引っ張り込むような悪い妖怪かと思ってたのじゃ」

「ボケて、お前、どうせ本気で思ってただろ」

「そんなことないのじゃ。ほんとなのじゃ」


 ふんふんふーんと、へたくそな鼻息を鳴らして、のじゃ子は空を見上げた。

 嘘が本当に下手な妖怪である。


 お前こそ、尻尾がたまたま九本あるだけの、おまぬけ狐じゃないんかと。

 世の中、イメージと実際は違うのはよくあることだが、まだまだ、分からんことは多いものだね。

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