五日目――其ノ二

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 私はシーズーを自室へと招き入れました。

 いきなり本題に入ってもいいのですが、全て私の勘違いだったとなると申し訳が立たないので、まずはハルハルの話を出して探りを入れます。

「それにしてもハルハルってすごくやさしいよねぇ。相手を第一に考えてるというか、他人の心配ばかりしているというか。そう思わない?」

「確かにそうね。」

「私、ハルハルのそういう所が好きなんだぁ。シーズーはハルハルのどこが好き?」

「何、その質問?」

怪訝そうな顔をする彼女。やはりハルハルのことをよく思っていないのかもしれません。

 シーズーのハルハルに対する態度が変わったのは六年前のことです。なので、今度はそこに探りを入れてみます。

「恋愛相談に乗ってくれる所とかかな?」

「何が言いたいの?」

またまた、彼女は怪訝そうにします。私の予想は当たっているのかもしれません。

「……じゃあ単刀直入に聞くね。シーズー、ハルハルの事、何か勘違いしてない?」

「勘違い?」

「そう。勘違い。だからここ数年、ハルハルに冷たいんだよね。」

「何のこと? 華花とはいつも仲良くしているわよ。」

「表面上は、でしょ。でも、内心は快く思っていない。」

「そんなことない。」

 彼女は頑なに何も語ろうとしません。それもそうです。こんなこと、他人にはえぐられたくないに決まっています。でも、これでは話が前に進みません。私は心を鬼にして彼女の心に踏み入ります。

「じゃあ一昨日、どうしてハルハルを置き去りにしたの? 初日のお面は何なの?」

この言葉に確信はありませんでした。しかし、これらは私の心に引っかかっていたことです。何も無いのならそれでいいのですが、実際の所は聞いてみないと分からないのです。しっかりと確かめる作業をしなければいけません。

「それを私が故意にしたとでも言いたいの?」

「うん。多分そうなのかなって。」

「多分? そんな曖昧な根拠で決めつけないで欲しいんだけど。客観的な証拠が無ければ私がしたって断定できないわよ。」

彼女の口調はいつもより強かったです。シーズー、疑うようなことしてごめんなさい。でも、これは必要なことなのです。

 もう一度言いますが、シーズーのハルハルへの対応が変わったのは六年前のことです。原因は、シーズーの失恋でしょう。そのことについて私がハルハルから聞き出したのは、今から上げるいくつかのことだけです。

 シーズーがある男性に恋をしていたこと。ハルハルがそれを知り、彼女の相談に乗ったり手助けをしたりしていたこと。シーズーの想い人が別の女性との間に子供を作ったこと。ハルハルがその女性にその男性を紹介するように頼まれたこと。

 私は真実と、これらのことから導き出した勝手な推測を彼女に話しました。憶測でものを語ることはあまり好まれたことではありません。それでも、言わなければいけないのです。そうしなければ何も変わりません。自分自身、とても野暮なことをしていると罪悪感に駆られながらも彼女に詰め寄りました。

 最初は反論していた彼女ですが、次第に言葉を失っていきました。私の推測が正しかったかどうかまでは分かりませんが、彼女を黙り込ませるだけの影響力があったことは確かです。自分の考えを改めているのでしょうか? それとも、自分の行いが悪いことだと分かっていて、言葉が出てこないのでしょうか? 彼女がその時、何を考えていたのかは想像もつきません。けれど、これだけは分かりました。彼女はもう大丈夫だと。ハルハルとの仲もすぐに取り戻すだろうと。長年の付き合いです。これくらいは何となく分かります。

 そんなこんなでシーズーとハルハルの問題は解決しました。しかし、私にはもう一つ気になっていることがありました。それはシーズーの妙な動揺です。彼女は朝、帰ってきた時から、いつもと何かが違うのです。いつもよりもちょっとだけ早口ですし、顔もひきつっているようにも見えます。他人から見れば些細なことかもしれませんが、幼少から彼女を知っている私にはとても大きな違和感なのです。

 さらに、朝のハルハルとのやり取りや今の私とのやり取りでも、彼女が感情を見せる場面がいくらかありました。でも、シーズーは今まで一度もそんなこと無かったのです。感情や本心を表に出すタイプでは無いのです。

 なので、彼女の身に何かあったと考えるのが妥当だと思います。何が起こったのでしょう?

 数日前、髪の長い男がハルハルを襲撃しました。その男はムン君でしょう。彼は、報われない人です。悪気はなくとも人に迷惑をかけてしまうことが多々ありました。ハルハルに対してしたことも彼に悪気は無かったのだと思います。

 もしかすると、これと似たようなことがシーズーの身にも起こったのかもしれません。皆さんは、まさかと思うかもしれません。でも、あり得るのです。彼はそれだけのことを引き起こしてしまう人なのです。

「それから、ちょっと話それちゃうけど、本当はシーズーが自分の口で自分の気持ちを話してくれるとは思ってなかった。普段だったら絶対話してくれてないよね。昨日、いや、今日なのかな。私には分からないけど、やっぱり何か、シーズーを動揺させるような事があったんだよね? 男?」

そうやって問いかけると、彼女は自分の肘をそっと触りました。彼女がこうして肘を触る時は、大抵、強がったり何かを隠そうとする時なのです。

 シーズーは黙ったままでした。何も話してくれませんが、私の問いかけが、的を射ていないのであれば、何かを隠そうとするはずがありません。

 やはり、彼女も得体の知れない男に何かされたのでしょう。

 この問題も私が解決しなければいけません。ハルハルやシーズーの不安も取り除いてあげなければいけませんし、ムン君もその不幸な定めから救ってあげなければいけません。

 私にはこの両方ともが可能です。その方法が私の頭にはあります。

 みんな待っていて下さい。私が何とかしますから。




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