一日目――其ノ二

 コテージに来て最初の夜、俺たちはバーベキューをした。こうして幼馴染四人で集まるのは久々だったから、胸が熱くなったというか、高鳴ったというか……とにかく楽しかった。

 人間関係において、いつからの仲なのかという事はとても重要だと思う。知り合った年齢が高ければ高いほど、その関係は浅くて薄っぺらいものになって、逆に幼い頃からの関係は、深く深く根を張り、抜いても抜いてもまた生えてきそうな勢いを感じる。

 この三人は特にそうで、別に毎日会ったり、連絡をとったりするわけじゃ無いけど、こうして集まったときは他の人とは違う「絆?」みたいなものがとても強力に絡みついている気がする。

 そう言うわけで、何にも代えがたい心地良い時間を過ごしてた。

 そしたら俺たちの前に、少し変わった出で立ちの老爺が現れた。褐色の肌に大きく見開いた眼は、二次元から飛び出してきたのかと思えた。

 老爺は「謎の男」とかいうオカルトチックな話をして行った。俺自身、そういう類の話を信じているわけじゃ無いけど、火の無い所に煙は立たないわけだから、その噂話の元凶になる怪しい人物はいるんだろうなと思った。

 俺一人なら不審者が居ようが気にしないけど、女性陣はやっぱり不安に駆られるだろうし、それに何より乃愛の事が心配になる。小さな事が連鎖して大きな崩壊を招くから、「謎の男」の話は、喉に詰まる魚の骨のように鬱陶しく引っかかった。




                   ○




                   ○




「パパ。はやぁくぅ」

乃愛はその瞬間が待ち遠しくて仕方がないみたいな面持ちで催促する。そんな彼女を「すごく可愛いな」とか思いつつ火をつける。火のついた花火は「プシュー」と勢いよく燃え始めて、豪華絢爛な空間を作り出す。

 彼女は「わぁ」「すごぉい」「きれい」とか言いながらとても愉しげに振舞ってた。花火を映すその目は爛爛としていて、純粋に美しいって思えた。膨大な夜の闇の中、愛おしく燃えるその命は、俺の視線を容易に惹きつけた。

 最初はその場で「きゃっきゃうふふ」としていた乃愛だけど、そのうち、その「きゃっきゃうふふ」具合が数段バージョンアップして、辺りを無邪気に駆け回り出した。

 そんな純真無垢な姿を見ていると、子供の成長に対する思案が浮かんだ。この子もいつか大人になる。いろんな経験の中で、泣いたり、笑ったり、怒ったりする。いろんな想いの中で、傷つき、傷つけ、気づき、葛藤する。そんなこんなで階段を駆け上がり大人になる。大人になったら、普通に働いて、結婚して、そして俺の元から去ってくのかな。そう考えると、とても感慨深い。

 そうやってしみじみとしながらビールを流し込む。その味はいつもより大人っぽかった。その時だった。

「そこにいるのだあれ」

乃愛の声が聞こえるのと同時に、俺は人影を見た。たぶん成人男性。それは道の奥の茂みに隠れるように身を潜めた。

 乃愛はその茂みの方によちよちと近づいてく。それは彼女自身が、純粋な好奇心に従って下した判断なんだろうけど、俺はそれを止めなければならないと思った。

 知らない土地の知らない大人。しかも、俺たちからわざわざ隠れるような怪しい奴。そいつが世の中に一定数いる異常な奴だって事はすぐに理解できた。一学年に数人はいるやばい奴。もしかしたらあいつが謎の男と呼ばれてる人物なのかもしれない。

 俺はすぐ彼女の元に駆け寄って、その手を掴んだ。

「パパ。あそこにだれかいるよ」

「いや。誰もいない。気のせいだよ。パパが言うんだから間違いない。だから乃愛はもう向こうに行っちゃダメ」

そう言って大人の権力で強引に連れ戻した。表情は少しだけ悲しげだったけど、それが最良の選択だったと思う。

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