3-a


「どこまで?」


 無愛想に訊かれて、むっとしながらも返答する。


「さっきの子と同じところまで」

「はい、戸塚駅までね」


 提示された料金を支払い、僕は乗り込んだバスの中で、色素の薄い少女の姿を探す。すぐに見つかる。というより車内には、僕と彼女以外の客はいなかった。

 エリーは驚いた顔で僕を見ていた。彼女がいたのは一番うしろの窓際、バス停ではなく道路に面した席だった。

 僕は彼女の隣に腰を下ろす。彼女は窓に視線を逃がして、けれど雨で何も見えず、立ち上がろうかとおろおろと迷って、結局尻を落ち着かせ、……ひとしきり泡を食った後にまずもって膝の上で広げていた文芸誌をそっと閉じた。


 エリーは気まずそうな顔で俯く。


「驚きました。先生は雨宿りをしているだけかと思っていましたから。ええと、先生はどちらまで?」

「戸塚駅まで」

「奇遇です。わたしとおそろいですね」

「うん、ごめん。奇遇じゃないんだ。君と同じところまでって頼んだんだよ」

「……そうでしたか」


 エリーは小さな声で呟いた。

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