第18話~赤い靴~Ⅶ

そう、あらゆる意味でベリーの足はなくなっていた。

「ついに出したわね、最終兵装・・・」

アリスがこれからが本番と腰を低く保ち拳に紫電を纏わせる。

「待ってアリス!相手の武器がわからないんだ、無駄に・・・」

そう時雨が止めようとした瞬間、その横を雪助が右手に銃を左手にスティンガーを持ちベリーに走りこむ。

「雪助くん!!!」

悲痛な時雨の叫び。だが、雪助はここぞとばかりに走り迫っていった。

そして放つ銃弾。

キンッキンッという音を立ててベリーの前で弾かれる銃弾。そして烈火からの長距離狙撃ですら、視界に納めることなく砲弾が見えない何かで切り飛ばされる。

「見えませんが、実体はあるようです。僕が先行します!」

そして雪助はベリーの懐に入ろうとした瞬間だった。

一気に雪助を襲ったのは数十にも及ぶ、斬撃だった。そして噴出す血の嵐。

「ひっ!!!」

戦場になれた時雨でさえもこの致命傷の傷だと悟り、畏怖してしまった。

だが、それでも雪助はのけぞった身体を無理やり前のめりにし、懐に入ろうと突き進む。

その行動にベリーも顔を曇らせる。

血だらけになり、臓物をぐちゃぐちゃにされそのまま雪助はさらに歩みを進める。

さらに迫る斬撃。飛ぶ血潮。

そしてイラついた表情になったベリーは、見えない何かで雪助を貫く。

そしてその見えない何かを雪助が掴む。

「捕まえたよ」

血まみれの顔に優しさのある不気味ともいえる笑みをベリーに向ける雪助。それを見てベリーは後悔した。


こいつは自分で『皮を剥がすための捨て駒』という自分の立ち位置を・・・自分の戦場での立ち位置をこの中で一番理解していた人間なんだと・・・だから人間なんだということを理解してしまった。


そう、特機において対アンドロイド制圧力でいうランキングの中で、生身でありながら相手の脳に強力な催眠をかけて圧倒するという、例外にいる地獄巡恋とほとんど変わらぬ全身生身でありながら彼は特機に在籍する人員200人はいる中で彼は13位にいる。

例外ではあった。彼のもつ目は相手の表情やしぐさから心情を色で見とる。それは生まれ持った才能だった。だが彼は過去大きな事故で、九死に一生を得る。そしてそれをくれたアリスに尽くすということと、治してくれたかぐやに従うことを決めた・・・残された妹たちを養うために。

幹細胞というのをご存知だろうか?分裂して同じ細胞を作り出したり、別の種類に分化する能力を持つという細胞である。雪助はこの細胞を、製造する臓器を持っており、全身のあらゆる細胞の間にこの細胞がある。もちろんこの臓器を作り出したのはかぐやなのだが、雪助はこの臓器を特殊なタブレットを使用することで活性化させ、首を飛ばされるか頭を破壊されないかぎり再生する。この臓器を破壊すればよいのではないか?と考えるだろう。考えてみてほしい、幹細胞の定義を。


分裂して同じ細胞を作り出す。


破壊したときにはもう遅いのである。

もう2つ目の製造臓器が存在している。

だが、それも致命傷であれば3回までとリミットがある。

それでも雪助のもつ肉体強度は、特機の誰にもないものであり唯一の弱点である頭部を守るのに鍛錬しているのは当たり前である。

それゆえに13位という異例のランクの高さをもつ。

そしてその能力から彼はこう呼ばれる。


『葬頭河の嫌われ者』の雪助


葬頭河、三途の川とも呼ばれるがそこで嫌われてるのではないかとふざけてつけられた。

その嫌われ者を見てベリーは声が震える。

「貴様・・・死なないの・・・か?」

「残念、あいにくとその手の輩には嫌われ者になってるらしいんでね」

その笑みがすでにベリーの人間的過ぎる思考を混乱させた。

そしてそれが隙になった。

「もらった!」

ベリーに見えたのはかすかの紫電と足元に迫るヒートソードを持ち迫るフォティアだった。

そしてアリスの右拳がベリーの眉間を捉えたのと同時にフォティアのヒートソードがベリーの両足を切断したのは同時だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る