第48話 大場の歩んできた道

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 武器部屋をあとにしたオレは、大場に指示され、白川と塩見の隣に座っていた。

 その指示を出した大場は、自分の定位置なのかパソコンの前に座っている。


「よしっ、それじゃあ話すとするかの」


 白川との模擬戦に勝利したので、大場から魔獣結晶イビルクリスタルについて教えてもらえることになったのだ。

 今まで半信半疑で魔獣結晶イビルクリスタルを集めていたが、遂に噂が真実か嘘か明らかになる。


魔獣結晶イビルクリスタルを1000個集めるとどんな願いでも叶うかどうか? じゃったな」


「はい」


 白川と塩見は、静かに座って大場の話に耳を傾けている。

 恐らくすでに大場から話を聞いたことがあるのだろう。大場は味方には、教えるみたいなことを言っていたしな。

 今回は、模擬戦というある種イレギュラーな形だったため、こういう状況になっているだけに過ぎない。


「その噂は真実じゃ」


「じゃ、じゃあ、1000個集めれば死んだ人を生き返らせることも可能ってことですか?」


 妹を生き返らせることもできるかもしれない。


「可能じゃ。儂も前に1度、死んだ人間を生き返らせたことがある。そうじゃな、少し儂の昔の話をしてもいいか?」


 そう言って、大場が自身の過去を語りだした。


「儂には昔、仲の良い友人が2人おった。3人には共通点があってな。全員魔獣を見ることが出来る能力を持っていたんじゃ。1人は口数が少ないが、正義感が人一倍強い男、鷹虎喜一たかとらきいち。もう1人は、女のくせにやんちゃでいつも悪さばかりしとった好奇心旺盛な桜庭麻衣さくらばまい。この3人で毎日のように遊んどった」


 当時を思い出しながら話している大場の左目には、光るものがあった。

 鷹虎喜一は、大場と一緒に鷹虎大場連合というギルドを作った人だ。桜庭麻衣という名前は聞いたことがない。

 大場の話が続く。


「高校2年生のある日、学校の近くに魔獣が出現した。儂たちは野次馬のように魔獣を見に行くことはあったが、戦ったことはなかった。儂たちが戦わなくとも魔獣狩者イビルキラーの大人が町を守る為に戦っていたからな。あの日も好奇心旺盛な麻衣が、儂と鷹虎の2人を強引に引っ張って魔獣を見に行ったんじゃ。あの時、無理矢理にでも止めておくべきじゃった」


 そこで言葉を止めると、再び大場が口を開くまでには少し時間がかかった。


「その日現れた魔獣は、普段とは比べものにならない程強くて、大人をも苦戦させるレベルじゃった。そして、ダメージを負い、興奮した魔獣が、物陰に隠れていた麻衣に襲い掛かり命を奪ったんじゃ。儂と鷹虎が間に入ろうと動いたんじゃが間に合わんかった。それからというもの、儂と鷹虎は魔獣に復讐するべく、体を鍛え、武術を覚え、武器を作り、町に魔獣が出現してはすぐに駆け付け、狂ったように魔獣を狩りまくった」


 大場がテーブルに置いてあったお茶を口に含んだ。

 大場もオレと同じように大切な人を失っていたのか。大場の過去がどこか今のオレと似ているような気がした。


「それから数年が経ち、坊主も聞いたことがある噂が流行った。魔獣を倒した際に落ちる魔獣結晶イビルクリスタルを1000個集めればどんな願いでも叶う、と。普通なら信じられない話じゃったが、儂も鷹虎も信じるしかなかった。どんな些細なことでもまた麻衣と会える可能性があるのなら迷っている暇なんてなかった。じゃが、そこからが大変だったんじゃ。今に比べたら魔獣の出現頻度は多かったが、10年以上2人で魔獣を倒し続けても1000個が程遠かった。それでも儂たちは諦めきれなかった。この町では、儂たちと似た境遇の人が多かったからギルド同士の抗争に発展したことも少なくなかった。戦いの日々を送っていると、お前たちも知っている魔獣大侵攻が起きたんじゃ」


 オレが小学生に上がる前、魔獣による被害が急増していた時期がある。

 それが魔獣大侵攻だ。

 オレの妹もその時期に命を落とした。


 大量に出現した魔獣は、魔獣狩者イビルキラーも一般人も関係なく食らっていった。

 当時も魔獣狩者イビルキラーは、北柳町の人口の約1%ぐらいいたが魔獣の数が圧倒的に多すぎた為、対応が遅れていたのだ。


魔獣狩者イビルキラーもあの時は自分の身を守ることで精一杯じゃった。このままではこの町が終わる。誰かが立ち上がらなくては。儂と鷹虎は話し合い、交流があった魔獣狩者イビルキラーの数人を含むギルドを立ち上げた。それからテレビや新聞などで協力者を呼びかけ、仲間を集めた。時間が無い中かなり地道な作業じゃった。そして一斉討伐作戦が決行された。その時の代償がこれじゃ」


 大場が右目に付けられている黒い眼帯と杖を指差した。

 そこから相当激しい戦いだったことが想像できる。


「犠牲を出しながらもなんとか勝利を収めた。魔獣を倒した後、鷹虎と魔獣結晶イビルクリスタルを合わせると1000個集まっていた。それでまあ、願いは叶ったんじゃが、鷹虎はこの世から去ってしまった」


 オレも白川も塩見も何も言えなかった。

 大切な人を生き返らせるという夢を叶えたが、大場にとって大切な人がまたしてもこの世から去ってしまった。

 あまりにも報われない。大場も辛いが、鷹虎の気持ちも考えると本当に言葉にならない。


「そんな暗い顔をしないでくれ。それからはこうやって魔獣を倒しやすくする武器、対魔獣武装イビルウエポンを作ったり、匿名掲示板サイトを立ち上げて情報の提供をしてるんじゃよ」


 んっ? ちょっと待て。大場が匿名掲示板サイトを立ち上げただと。


「大場さん、匿名掲示板サイトって魔獣のレベルとか種類が書いてあるあれですか?」


「そうじゃ。ハンドルネーム、神の親友は儂のことじゃよ」


 大場が豪快に笑い声を上げる。

 全くこの大場という人物はどれだけ凄い人なんだ。

 魔獣大侵攻を止めた英雄にして、願いを叶えたことがあり、対魔獣武装イビルウエポンを発明し、匿名掲示板サイトの管理人だと。

 凄すぎる。伝説とも呼ばれたこんな凄い人と白川と塩見は、いつも一緒にいたんだな。

 オレなんかよりも情報を多く持っていたのも頷ける。


「掲示板に書かれていることは全て事実じゃ。何せ儂が実際に経験したことなんじゃからな」


 魔獣のレベル、魔獣の種類、魔獣結晶イビルクリスタルの種類、願いを叶える為に必要な魔獣結晶イビルクリスタルの個数。

 そして、神の親友の最後の書き込みである『願いは叶う』という言葉。


 確かに経験者ならあんなに事細かに記載できるだろう。

 だが、なぜそれらの情報を公開したのだろうか。

 掲示板に書かれた内容を思い出し、色々考えていると塩見のお腹が大きな音を立てた。


「すいません。私、お腹空いちゃって。鳴っちゃいました」


「もう1時30分を過ぎてるわね。三刀屋くん、お昼はどうするの?」


 白川がスマホを見て時間を確認した。

 いつの間にそんなに時間が経っていたんだ。クロにも早く帰ると言って来たし、今日のところはこれで帰るとするか。


「オレは家で食べるよ」


「そう。それじゃあ、また何かあったら連絡してくれて構わないから」


「ああ、分かった。大場さん、今日はありがとうございました」


対魔獣武装イビルウエポンの件、その気になったらいつでも待っておるからな」


 大場が手を軽く上げて見送ってくれた。白川と塩見もオレが工場から立ち去るまでこちらを見ていた。

 

「面白い坊主だったな」


 誰にも聞こえないくらい小さな声で大場が呟いた。


三刀屋奈津みとやなつよ。必ず世界は繰り返される。その時、お前ならどんな選択をするかの)

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