第46話 奈津vs白川
—1—
何体もの魔獣と戦い、北柳町の危機を救った大場ならオレが知らない情報を持っているはず。
願いが叶うかどうかという根本的なことから願いを叶える方法まで知っていても何ら不思議ではない。
逆に大場が知らなかったらこの町に住む人間は誰も知らないだろう。
「大場さん、過去に魔獣大侵攻を食い止めた大場さんなら知ってるはずです。
以前、白川の後をつけて武藤と北柳総合病院に行った際、白川からこの噂は真実だと聞いている。
だが、白川には悪いがすぐに信じることは出来なかった。理由は情報の出所を教えてくれなかったからだ。
白川紅葉という人間は嘘をつくような人間ではない。
しかし、それが100パーセントそうだと言い切れるかと聞かれればすぐに首を縦に振ることはできない。
人間は嘘をつく生き物なのだから。
でも普通ではあり得ないこの状況。
伝説とまで言われた大場と白川の接点があると知った今。情報源が大場からだというのなら白川が言っていたことも信じられる。
「その前に坊主、人にものを聞く時はまず自分の名前を名乗るものじゃよ。儂は誰かも分からん人間に何でもかんでも話したりはせん」
「すいません。
「三刀屋か。団長から話は聞いておる」
隣に立つ白川を見るとこくりと頷いた。
「三刀屋くんのことは先に私から話しておいたわ」
「そうか」
大場とオレを会わせるためには必要だったということか。なら仕方がない。
「噂が嘘かどうか教えても別に儂は構わん。なんなら儂が実際に体験したことを話してもいい。じゃがな、情報をお主に渡したとしてもお主が敵になる可能性があるじゃろ。そうなったら団長や塩見、クリムゾンが損をする。見たところ三刀屋、お主はギルドに入る気がないな?」
大場の鋭い眼光がオレを向く。
大場には全て見抜かれていたようだ。だからすぐに答えることが出来なかった。
「……はい。正直に言うとクリムゾンに入る気はありません」
やや間がありそう答えた。
大場に嘘は通じない。そういう相手には正直に答えることが1番だ。
「なぜじゃ?」
「ギルドに入るメリットが無いからです。町に出現する魔獣は、オレ1人でも十分倒せます。それにパーティーを組んで魔獣を倒したら
ただでさえ魔獣の出現頻度が低いというのに、人数が多いギルドに入ってしまったら
そうなってしまったら、いつまで経っても妹を生き返らせるというオレの願いは叶わない。
「どうやら坊主は随分と自分の戦闘力に自信があるらしい」
朝食のおにぎりを食べ終えた大場が杖を突いて立ち上がり、オレと白川、塩見の元に近づいてくる。
コツコツという杖を突く音が小さい工場内に響く。
「そんなに自信があるなら坊主の実力を知る為にも団長、団長と模擬戦をしてみてはどうじゃろうか。お主が勝ったら儂が知っていることを話そう」
「模擬戦ですか?」
白川もこの展開を予想していなかったのか驚きの表情を見せていた。
「奥の部屋で
「はい」
「なら問題ないじゃろ。そうと決まれば全員外に出るぞ」
大場の勢いに押されるがままオレたちは外に出た。
—2—
ここに来た時に見えなかった工場の裏側は、目に見える一面、足首ほどの背丈の草に覆われていた。
しかし、工場の真後ろだけ草が刈り取られていて土が見えている。長方形に刈られているそれはバトルフィールドのようにも見える。
「儂と塩見はここで見てるからな」
用意されていたベンチに大場と塩見が腰を掛けた。
オレと白川は、バトルフィールドの中に足を踏み入れ、中央に描かれていた円の中に入った。
「まさかこんなことになるとはね。昨日の今日で三刀屋くんも疲れてるんじゃない?」
「いや、疲れはないがこの展開はオレも想像していなかった」
「私もよ。でも勝負というからには手は抜かないわよ」
緋色の剣を構える白川の様子からやる気が伝わってくる。
「準備が出来たようじゃな。ルールは、武器使用有りの時間無制限。相手が降参するか戦闘不能になったら勝ちとする。後はそのフィールドから出ても負けじゃ」
ルールは簡単なものだった。
降参させるかダメージを与えて倒すか、フィールドの外に出すかの3択。
気が強く、意志が固い白川には恐らく降参という選択肢はないだろう。
「バトルスタート!」
大場が杖を振り上げ、模擬戦が始まった。
その直後、真正面から飛び込んできた白川。緋色の剣を斜め右に振り上げる。
オレは横に飛びそれを回避。
予想通りだ。剣を持っている白川の方がリーチが長い。よって攻めやすいのだ。
一方、オレは武器を持っていない生身。剣撃を生身で受けることは出来ない。いや、出来なくもないのだが避けたいところだ。
つまりこの勝負、オレは防戦主体にならざるを得ない。
白川は、再び剣を構えるとまたもや正面から向かってくる。動きにあまり無駄が無く、基本に忠実的な攻撃の組み立て。白川の性格が出ている。
距離を詰めてから右袈裟に振り下ろし、胴を薙ぐ。
オレは、ギリギリまで引きつけてからそれらをかわした。
白川は攻撃の手を緩めない。勢いを殺さず回転し、腹目掛けて突きを放ってきた。
その攻撃もすれすれのところでかわす。
「今のは危なかった」
完璧にかわしたと思ったが、服が破けていた。あと少し遅れていたら腹に穴が空いていただろう。まさに間一髪だった。
手を抜かないというのは本当だったようだ。
防戦ばかりだとさすがにきつくなってきたな。空気の変わり目が来たら作戦を次の段階に移行するか。
「塩見はどっちが勝つと思うんじゃ?」
ベンチに座り、戦況を見守っている大場と塩見。
傍から見れば攻めている白川が優勢のように見える。
しかし、
「三刀屋くんですね」
少し考えてから塩見が答えた。
その表情はいつもの恥ずかしがり屋でおどおどしている塩見のものではなかった。冷静に戦況を分析した上で、塩見なりの結論だった。
「なぜそう思う?」
「武器の有無で言えば紅葉ちゃんの方がやや有利です。ですが、紅葉ちゃんも頑張って攻めてはいますが、決定的な一撃を与えることが出来ていません。それは、三刀屋くんの方が紅葉ちゃんより一枚上手なんだと思います。基本に忠実な型だからこそ先読みしやすいのかもしれませんね。決着がつくのも時間の問題かと」
「なるほど。良い分析じゃ塩見。じゃが、勝負は決着がつくその時まで、どっちが勝つか分からないものじゃよ」
大場と塩見が2人の戦いの行方を見届けるべく目を向けた。
ルールは時間無制限。
今でこそキレのある剣撃を繰り出し続けている白川だが、それもいつまで続くかは分からない。
スタミナには限りがある。それは白川も分かっているだろう。
だからこそ早く決めたいはず。なのに決めることができない。そこで必ず焦りが出る。
「なんでっ、なんで当たらないのよ!」
両膝に手を付いて大きく呼吸を乱す白川。額に浮かぶ汗が地面に落ちて色を変える。
今日は真夏日だ。太陽の熱がオレたちの体力を奪っていく。
オレは、白川の攻撃を出来る限り引き付けてから回避するという行為を繰り返していた。
着ている服はボロボロに切り刻まれ、ズボンにも傷がある。
だが、オレ自身は無傷だ。一度たりとも攻撃を食らっていない。
あと少しで当たるのに当たらない。
それが数回、数十回と続き、白川の頭の中ではすでに良いイメージを描けなくなっている頃だろう。
自分に対するぶつけようのない怒り。ストレスが溜まりに溜まっていくのが見て取れる。
この瞬間、明らかに場の空気が変わった。
「攻守交替だ」
オレが戦闘態勢に入りかけたその時。白川が腰に手を当て大きく息を吐いた。
「三刀屋くんの実力は私が1番理解している。ここで負けるようじゃ願いを叶えることなんて出来ないわ」
白川はそれに加えてギルドの団長としてのプライドがある。
白川が肩で息をしながらも再び剣を構えた。
今日のどの構えよりもスキが無い。良い構えだ。
両者一斉に飛び出す。
オレが勝つには、白川の一撃をかわしてから全力の拳を叩き込むしかない。つまりはカウンター。戦闘不能にして終わりだ。
「はっ!」
白川が緋色の剣を右袈裟に振り下ろすと、オレは身を翻してかわした。
この一撃は、今日のバトルの中で1番多く使われていた。それは白川が自信を持っている一撃だということ。
ということは、ここ一番という場面で使われる可能性が極めて高いということだ。
またしてもオレの読みが当たったのだ。
態勢を低くしたオレは、白川の腹目掛けて拳を繰り出す。
勝負を決めにいった今日初めての反撃。
「っ!?」
完璧に決まったと思われた突きは、白川の剣に阻まれて届くことはなかった。
態勢を崩しながらも剣の腹でオレの拳を止めた白川。ぐっと堪えてから両手で剣を押し上げる。
力で押し負けたオレは後ろによろめいた。
「はぁーーっ!」
今までで一番速い、渾身の一撃がオレの頭上に振り下ろされる。
これはもう模擬戦なんかではない。白川は全力でオレの命を奪いに来ている。
白川の叫びと鬼気迫る表情からそれがビシビシ伝わってくる。
相手がオレじゃなかったらどんな敵でも真っ二つに切り裂いていただろう。
「うそっ……」
真剣白刃取り。
オレは振り下ろされた剣を両手で受け止めた。驚く白川に構うことなく、すぐさま剣の柄を掴み自分の方へと引き寄せる。
そして、バランスを崩して前屈みになった白川の腹に手を添えた。
「ひゃっ」
可愛い声を出した白川が、次の瞬間、膝から崩れ落ちた。
仰向けになり、酸素を求めて宙を掻く。
「安心しろ。加減はした」
今は苦しいかもしれないが、数秒経てば呼吸も元通りになるはずだ。
「そこまで! クリムゾン団長、白川が戦闘不能により、勝者
大場がオレの勝利を告げた。
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