〇魔のゴールデンウィーク
第19話 塩見のSOS
―1―
ゴールデンウィーク2日目。
自室でクロと戯れながら付けっ放しになったテレビから流れている高速道路の混雑状況を見ていたオレは、今日は家にいてよかったと心から思った。
渋滞25キロとかシャレにならない。さっきから亀のようにのろのろと進んではいるもののあまり動きが無い自動車。きっとこの車に乗っている人たちが目的地に着く頃には昼を過ぎているだろう。
その様子を横なりながらクロと眺める。これも予定がない人間にしか味わうことが出来ない特権だ。
と、そう思うことで誰からも誘われない寂しいぼっちの心も少しは楽になるというものだ。
時刻は9時を回ったところ。クラスのみんなは何をしているだろうか。帰省している者も多いだろう。友達とレジャー施設に遊びに行ったりしているのだろうか。だとしたら心底羨ましい。
そんなことを考えていると机に置いていたスマホが振動した。
ついにオレにも遊びの誘いが来たか? この時をどれほど待ったものか。昨日は調べ物をしていたから1日中パソコンと向き合っていたからな。
期待をしてスマホを開くと予想外の人物から予想外のメッセージが1件届いていた。すぐに既読を付けて返信する。
「クロ、留守番頼んでもいいか?」
「ガフッ」
喉を鳴らして返事をしたクロの頭を撫で、机からペンダントを取ると家を出た。
近所の公園にその人物はいた。ベンチに座り何をする訳でもなく下を向いている。とても不安気な表情だ。
「塩見、待たせたか?」
「い、いえ、休みなのに突然呼び出しちゃってすいません」
「それはいいんだ。で、どうしたんだ。助けてだなんて」
メッセージは塩見からのものだった。女子に助けてだなんて頼まれたら話を聞かない訳にはいかない。
それに相手は塩見だ。あまり友達もいないみたいだから誰にも相談できずに溜め込んでしまっていたら心配だ。
親にも相談できることとできないことがあるからな。
「あ、あの、私、玉城さんに脅されてるんです」
今にも消えそうな声で塩見が切り出した。塩見にしては勇気を振り絞ってくれたに違いない。塩見は小さな手をギュッと握り締めている。
それにしても玉城が行動に出るとは。
プテラが学校に出現した際、塩見と玉城が体育館裏に行くところは見ていたが、まさかこんなことになっていたとはな。
「脅されてるって具体的には?」
「それは誰にも言っちゃダメって言われてるので……」
「でもそれじゃあ話が進まないぞ。解決して欲しいからオレを呼んだんだろ」
オレを呼び出したということはオレになら何かしら力になれることなのかもしれない。
塩見にはもう少しだけ勇気を出してもらうしかない。
「は、はい」
「大丈夫だ。ここにはオレと塩見しかいない。言ったところで誰も聞いてないから安心だぞ」
言葉通りこの公園にはオレと塩見の他に人はいない。
ゴールデンウィークだから家族連れでもいるものかと思ったが、皆遠くに外出しているのだろう。わざわざ近場のこんな小さい公園に遊びに来る人はいなかったようだ。
「え、えっと、
これは驚いた。
一般人に
学校でほとんど誰とも接触していない塩見が
これには多くの疑問が残るな。
「玉城に何て言ったんだ?」
「答える前に学校に魔獣が現れたので学校に残ってた人たちと避難しました。でもその最中、玉城さんはゴールデンウィーク明けに
「そうか。それは怖かったな。それで塩見は
「えっと、数えたことは無いけど多分10個ぐらい持ってると思います」
魔獣を倒したときにしか落ちない
そうすると戦闘ではなくてどこかでたまたま拾ったのか。だが
放課後に塩見と一緒に帰った時、叶えたい願いについて聞かれたことがあった。
まあ、だがこの件に関しては今はさほど重要じゃない。
問題は玉城をどうするかだ。確かゴールデンウィークの最終日にバイトのシフトが玉城と被ってた気がする。その時にそれとなく聞き出すしかないな。
それにしてもやらなければならないことがどんどん増えてきた。自分の分身がもう2人ぐらい欲しいところだ。どこかに猫型のロボットでもいれば今すぐにでも頼むんだが。
「三刀屋くん?」
塩見が黙り込んだオレを心配して顔を覗き込んできた。が、視線が合うとすぐに下を向いてしまった。
「あー悪い。ちょっと考えてた。せっかく集めた
「うん。分かりました。ありがとう三刀屋くん」
不安でいっぱいだった塩見の表情も少しは柔らかくなった。オレで役に立てたみたいだ。その点は良かった。
そして、これで昨日1日かけて調べたことは無駄にならなさそうだ。後は順序を間違えなければ全てが片付く。
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