第2話 白き救世機

 突如、襲ってきた敵に対し、国防軍中枢係と化学班関係者たちは戸惑いを見せていた。


「施設20%強が消滅!」


「敵機体の照合中……駄目です。身元不明の機体です!!」


「敵モビルスーツ、空軍の改弐戦機の半数を撃墜!!物凄い機動性と破壊力です!!」


 軍中枢にある作戦本部して、ブロッカー少佐は施設責任者である中佐の横に立っていた。中央席に座る中佐はギリッと歯ぎしりを鳴らす。


「クソッ、一体どこの国のモノだ……二番煎じのアジアンでは無いだろう。ロシアンか?欧州連合か!?どこでも良い、早くアレを叩き潰せ!!」


 彼の横に立つブロッカー少佐は冷静に物事を分析し始めていた。


(どこで見たことも無い機体……まるであの収容された白い機体のようだ。まさかアレを取り返しに?)


「中佐」


「何だっ!?」


 中佐は声を荒げて今にも起こりだしそうな声でブロッカー少佐を恫喝する。しかし、それにブロッカー少佐は一歩も退かない。ピシリといつものように背を正し、この状況下でも慌てない。


「奴の出所は不明ですが、もしかすると我が国の最新母艦が狙いかもしれません。万が一の為、アレを起動しておきたいのですが」


 ブロッカー少佐はスパイの存在を考慮し、顔が真っ赤となっている中佐に耳打ちする。


「ああ、分かった分かった!!君に一任するからさっさと行け!!」


 中佐はめんどくさそうに彼をあしらう。そして、彼は丁寧に一礼して二人の部下を連れて目的の場所に向かう。


「少佐、もしや敵の目的は……」


 ブロッカー少佐の後を追うメガネをかけた長髪の部下が憶測を質問する。


「ああ、おそらくあの白い機体だろう。我が国の最新母艦なんて全く眼中に無いさ。……考えたくないものだな、宇宙からの敵などというのは」


「まるで昔の映画のようですね、宇宙人と戦争ですか?」


「映画などとは比べものにもならないさ。空軍の主力部隊が完全に押されていただろう。……宇宙で生活を続けて、もしも何万光年という時間を渡り歩くような存在だった場合に勝てるかどうか……!!」


 愚痴を言い合う3人が例の白い機体が収容されている場所に到着する。


「ん?ブロッカー青年じゃねえか?一体全体、ここをどこの国が襲ってきてんだ?アジアンか?」


 ブロッカー少佐は整備係のオイル臭い男に会う。


「やあガクト中尉。申し訳無いが、何も聞かずにあの白い機体を例の母艦に移送してくれないか。一刻を争うんだ」


 ブロッカー少佐はガクト中尉に詰め寄る。しかし、彼は素っ頓狂な表情を浮かべてあの白いMSを指差す。


「何言ってんだブロッカー青年、お前があの少年をパイロットとして寄越したんじゃねえのか?」


「は……?私はそんな指示は一つも出していないぞ!!」


 そう言って、ガクト中尉が指差す方向を見る。すると、そこには確かに今にもコクピットに乗り込もうとする少年の姿があり、またブロッカー少佐は彼には見覚えがあった。


「あ、あれは……何故こんなところに!!」


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 その10分前、アキハは更衣室から軍服を盗み、軍人に成りすましていた。そして、アキハはニコニコとした笑顔でとうとう見つけた白い機体を見上げる。


「本当だったんだ……これが隕石の正体。何て白いんだ……これじゃあ良い的になるのに何でなんだろう。カッコ良く黒に塗装出来ないんだろうか?」


 アキハが興味深々にソレを見上げていると、ドスドスとやけに太った貫禄ある男が近づいてきた。


「おい、お前はここで何やってるんだ?」


「あ……えっと」


(どうしよう、バレてしまっては大変だ。何とか誤魔化さないと……)


「えっと、僕はこのロボットに用が……」


 アキハがそう言うと、男は目を丸くして首を大きく振る。


「ああ、なるほど。お前さんはこのロボの搭乗者に任命されたんだろう?なら早くそう言えば良いものを。ブロッカー青年……いや今は少佐だったかな?まあ、あいつに言われて来たんだろう?」


「えっ、乗せてくれるんですか!?」


 アキハは興奮して男に聞く。それに対し、男はガハハと大声で笑った。


「あたぼうよ!俺もこの機体の性能が早く見たいんだ。この訳分からねえじゃじゃ馬を使って、どっかから襲って来たらしい敵を粉砕してくれや!」


 男はそう言って、分厚い工場用のノートパソコンを開く。すると、天井からパイロットを吊り上げる紐が落ちてきた。


「電源も入れた!俺もここから退散する命令もすぐに来るだろうから、さっさと乗っちまえ!!」


「はい、ありがとうございます!!!」


 アキハは軍人の敬礼である右手を頭前に持っていく動作を取る。そして、男に背を向けて釣り紐に足と手をかけた。


「この白いロボット……一体どういう仕組みになってるんだ。どこの国の人型兵器よりも細い造りだし、忠実に人間の体を再現してるようだ。戦闘目的で造られているのか不安だな」


 アキハはその白い機体の青い胸部分にあるコクピットらしい部分に乗り上げる。


「ここか……中は普通なのかな?」


 アキハは感想を述べながらコクピットに乗り込もうとする。その時、


「コラァッッッ!!!そこの少年いやアキハ君、そこから直ちに退去せよ!!!」


「あ、あれってブロッカーさん?何でここに……いや、今はそれどころじゃない。軍にこんな素晴らしいモノ渡せるかっ!!」


 アキハはしばし王然として混乱するも、すぐに我に返ってコクピットに乗り込む。荒々しい怒りの声が聞こえたが、アキハの白い機体に対する興奮しきった感情はそれを無視させた。


「普通……だな。でも、……」


 一般的な人型兵器のコクピットには、必ず多くのボタンや操作が内蔵されている。しかし、これには搭乗席と機体を動かすのであろうレバーのようなモノが椅子の横に2本設置されている。


「これは、まさかまだ未開発のコクピット!?ということは……」


 アキハは搭乗席に座り、レバーらしいモノを凝視する。すると、それは銃か西洋のナイトサーベルの様に持ち手が丸かった。そして、その中には10のボタンが付いている。両方のグリップ部分に、計20個のピアノの鍵盤らしきボタンがあった。


「…………」


 アキハはガチャンと感覚的に両方の内側に付いている10個のボタンを引く様に押した。すると、自動的に上のコクピットの蓋が閉まる。そして、アキハを中心に球体上の画面がブゥンと映った。


「こ、こんなの見た事無い……」


 虹色や青色等の色が上空に登る映像が流れながら、アキハの目の前に四角い画面が表示される。


「これはAR?でも、ARチップを僕は体内に埋め込んで無いし……VRなのか?いや、でもこのコクピットの表面には映されてないぞ?」


 アキハがブツブツとそれを解析している間にも、色んな四角いデータ処理らしい映像が飛び出しては消える。そして、最後に一つだけ大きな映像が残った。


Galaxy union

Autonomous thinking airframe

Between the passenger and aircraft

Ride assimilated

Infinity system start-up

End the prosperity of Adayu

Recall completion of the Salvation King

Manufacturing completion



「が、ガブリエル?」


 アキハは英語があまり得意では無い。その為、大文字であった部分を縦読みして、それがこの機体の名前なんだろうと解釈した。


「起動スル、我ガ主ヨ」


「うわぁっ!?」


 アキハは突然、機内に発生した声に驚く。しかし、彼の驚愕は何事も無かったかのようにスルーされた。そして、その声と共に周りには先程居た施設の様子が鮮明に表示された。どうも機体のどこかで映像を流し込んでいるらしい。


「私ハ銀河連合ヨリ製造サレタ特機兵器666番デアル。貴方ノ顔・身体・細胞・知識マデノ情報ヲダウンロード……終了。我ガ主デアル『アキハ・666・フジツキ』ノ登録ヲ終了シタ。コレヨリ、貴方ノ命令二従ウ」


 アキハは驚愕と感動と感激と……その他諸々の表情が混ざりあった何とも言えない表情をしていた。


「お、お前はこの機体……なのか?お前は喋れる機械なのか!?」


「質問二肯定スル。私ハ銀河連合ヨリ製造サレタ。ソノ際二、私ニハ自律可能型人工知能ヲ搭載シテイル。私ハ貴方ノ目的ヲ遂行スル為、コレヲ補助トシテ利用スル」


「な、なるほど……これは凄いや……凄く面白いロボットだ!!」


 アキハは大興奮して目を輝かせる。バラしてみたい、分解して解析したいという欲求が彼の心に浸る。しかし、


「貴方ノ感情ハ非推奨デアリ、今ノ状況二無益デアル。マタ、貴方ノ目的ヲ求メル。」


 ガンダムはアキハの感情を読み取って否定した。そして、目的を求める。


「…………よし、じゃあ最初の目的に『今ここを襲っている一つ目巨人を倒す』を提示する」


「了解、ソノ記号二合致スル物体ヲ半径10キロ圏内デ検索開始……完了した。対照ハ銀河連合通常兵器『アルカディアン』ト判明、コレヨリ貴方ノ行動補助ヲ開始スル」


 ガンダムがそう言うと、前方にある収容施設のシャッターが開き始める。アキハはこれ幸いとして、直感で両手にあるレバーを前方に押す。すると、イメージ通りにガンダムは前に歩き始めた。


「おお、……歩いた。歩いた!!」


 アキハは目に涙を溜めながらガブリエルを動かす。そして、収容施設から出ると上空に先程の緑色の一つ目巨人であるアルカディアンがいた。それは銃を構えて、まるで害虫駆除の様にレーザーらしき武器を使って攻撃している。


「おい、あいつは何してるんだ?」


 アキハはガブリエルに質問した。そして、その答えは簡単に返ってきた。


「当然、私ヲ探シテイル。アノ程度ノ武器デハ私ヲ破壊スル事ハ出来ナイガ、ソレヲ逆手二取ッテ捜索シテイルト推測サレル」


 アキハは少し昔の事を思い出し、苛立ちを覚えた。そして、ポツリと一つ言った。


「目的変更だ。『倒す』から『殲滅する』に変更してくれ」


「了解」


 アキハは体を震わせる。その時、偶然にもグリップのあるボタンに触れる。すると、彼の右横に何かの画面が表示された。


「そうか……これは武器か!!」


 アキハはその画面に映った形状から判断する。そして、その中から銃らしいモノを選択する。すると、ガブリエルは背腰に装備されていた目標のアルカディアンと似た武器を取り出す。同時に、アキハの右目を軸に立体映像として5枚のドーナツ状のモニターが連続して表示される。


「これで狙えって事か!」


アキハはそれに従って緑色の怪物の胸を狙う。しかし、その瞬間アルカディアンの赤き一つ目がこちらを捉えた。


「バレた!?」


「撃墜補助開始、コノ場所カラ一時離脱。上空ヘト移動シツツ、同時二G対策ヨリコクピット内二注水」


 ガコンとアキハの手元にヘルメットが排出される。アキハは最初に出せという文句を隠しながら、さっさとそれで頭を包む。すると、頭にハメた瞬間にコクピットに水が流れ込んできた。そして、水が溜まるとグン!と上から強い重力を感じ取る。


 ピュンピュンッと相手が先程のレーザーを撃つ。しかし、ガブリエルは華麗にそれらを避けながら、上へ上へと向かい雲を突き抜けた。すると、金色の月と星空、そしていつもには無い空中に浮かぶ2隻の船が居た。


「あれは……?」


「銀河連合一般母艦ノ一種ト情報二アル。新タ二撃墜対象二追加スルカ?」


「……ああ!」


 アキハはジャキンと銃口を船に向ける。すると、先ほどのアルカディアンよりも大量のレーザーがこちらを襲ってきた。それをガブリエル自身が計算して辺りを超スピードで移動することで避ける。


「ぐぐ……凄いGだ……だけど、狙えない事は無い!!」


 アキハは銃口を再度母艦に向ける。そして、5つの穴から覗き込んだ先にある対象に向かって、撃った。カッ!と青い光が雲に反射する。そして、鈍く青い光線は一つの母艦を貫き、ドロドロと溶ける赤い鉄を見せた後にボンッと爆発した。


「敵対象、一艦ヲ撃墜。残リ二機」


「す、凄い……たった一機で一つの戦艦を……」


 爆発はグルンと円球状態になって、一瞬小さい太陽になった後に消滅した。どうも破壊された瞬間に、近くの味方に危害が及ばぬ様に細工されていたらしい。


「真下カラ対象接近中」


「じゃあ下に撃つ!!敵の位置を計算しろ!!」


「了解、雲ノ流体速度カラ対象ノ位置計算開始……終了」


 ボフゥンと雲からやっと先程のアルカディアンの頭が飛び出してくる。しかし、アキハはそれとほぼ同時に引き金を引いた。


 一直線に青いレーザーが奴の頭を貫いた。そして、それの身体はボンッと膨れ上がる。


「危険信号、最速離脱開始」


 同時に、ガンダム自身が判断して雲の上を最高速で滑空した。すると、その数秒後にザクはズンッと振動を伝わらせながら爆発した。


「良イパイロットダ。銃口ヲ向ケラレテイタト知ッタ瞬間、自爆装置ヲ作動サセタ」


 ガブリエルが淡々と感想を述べる。それを聞いて、アキハはこれはもう戦争だと感じた。もう一つ残っている母艦からまた大量のレーザーが放たれる。アキハとガブリエルはそれらを超スピードで避けながら、雲に一度潜る。


 そして、それを母艦の伝令室から眺める仮面の男はこう言った。


「我々の希望の機体『ジャンヌダルク』、あれと戦う口実が出来たとは……計算外だったな。だから、人生とは数字では支配出来ない……」


 彼は振り返り、自分特注の機体の元へと向かう。その口元に笑みを残しながら。

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