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 私達の魔法でドラゴンを操れる可能性がある、というのはすぐに澁谷さんの上司を介して特高に伝えられ、遂に組織だって動くことになったのが、神戸に来て5日目になる昨日の事だった。

 事件後から警察も関わっている生駒のドラゴンセンターに冷凍保存されている件のドラゴンの詳細な魔法検査のために、それを再三申請している魔法省と燈川学園を隠れ蓑としてセンターに通すよう言って、許可の方向へと動かしたのである。

 そして、この日の昼過ぎ、その魔法検査で頭全体の内部に魔力の痕跡を確認。これで『順一がドラゴンに魔法を使った』という事が明らかになるが、政府と警察は案の定それを兄が犯人の証だと主張する。だが、魔法省もそれなら何故すぐに魔法検査を認めなかったかを指摘して、その事実公表は見送られる事になる。

 そんな事をライブで多福さんから聞いて状況が動いているのを感じていた私達は、少し浮わついた気持ちになり、藤谷さんの買い物を手伝う事にする。


「手伝っていただきありがとうございます」

「毎回美味しい料理を食べさせてもらっている事に比べたら些細な事ですよ」


 特別な場合を除いてはよく行っているというスーパーマーケットで色々と買い、その半分以上を持ちながら私達は多福さん宅への帰路につく。

 北畿鉄道山手線の踏切をわたり、石畳の上を歩く。本当に静かで、まだ7時前だというのを忘れさせてくれた。

 だが。


 真後ろで大きな爆発音が響き渡る。


 振り返ると、渡ったばかりの踏切の上で1台の乗用車絡からどす黒い煙が吹き上がっている所だった。

 思わずそこに向かおうとするが、私の腕を澁谷さんが掴み、首を横に振る。


「藤谷さん。順二君と一緒に」

「わかりました」


 後ろ髪を引かれる思いだが、警察に関わってはならない存在なので、澁谷さんを見送ってから藤谷さんと一緒に歩き始める。

 続々と住民の人が出てくる中で、怪しまれないように藤谷さん主導で演技をしながら、多福さん宅に着くと、玄関の前で近所の人と話し合っている所だった。


「新しい執事さん?」

「ええ。藤谷と一緒に買い物に行ってた所よ。2人とも巻き込まれなかった?」

「はい。運よく通りすぎた後でした」

「それは良かったわ」


 礼をしてから家の中に入り、私はキッチンに食材を置く一方、藤谷さんは警察無線を傍受できる機械を持ってくる。

 多福さんが戻ってきて、近所の人と一緒に消火活動などをしてきた澁谷さんが帰ってくるまでには、事件に関しての通信制限がかかっていた。


「公安の車が順二君の真後ろで」

「はい。ですが、魔法が使われた形跡は無いようです」

「この辺りは住民のおかげで、普通より魔法の観測網が細かい。それで探知できなかったという事は……」

「テロリスト、ですか?」

「そうだとしても、わざわざ公安の車に仕掛けるというリスクを侵すかしら?」

「事故…にしても、タイミングが良すぎますし」


 謎すぎる自分達の真後ろで起きた爆発事件。巻き込まれ、踏切の設備が一部吹っ飛ばされた北畿鉄道にとってはたまったものでは無いが、踏切の真上での爆発事案というのは、マスコミの注目を集め、この日のトップニュースはこればかりになる。

 私達は、警察より情報は少ないが目撃者の生の声が聞けるそれを見ながら晩御飯を食べ、捜査記録をじっくりと見る作業に戻る。

 しかし、5年前の事件に関する大きな発見は無く、10時過ぎになってそれぞれの部屋に戻る。


「ふー」


 バルコニーに出て、まだ熱く感じる頭を冷ます。だが、1つだけ盛大に光が集まっている所を見ると、あの爆発の瞬間を思い出す。

 失敗したな、と思いながら振り返って部屋の中に戻ろうとするその矢先。


「マッテ」


 そんな声と共に、ろ《・》から声がかけられた。

 ここは2階だぞ!? と思いながら、少し部屋の方へと距離をとりながら振り向くと、バルコニーのに1人の少女が立っていた。


「ヤット会えた」


 たどたどしい声で安堵の気持ちを伝えてきているのは、真っ裸な事よりも先にうろこがついた尻尾と耳に注目してしまうほどの少女だった。


「ドラ……ゴン?」

「ウム。人カラはそう呼ばれテイル。君ト似た魔力ノ主もソウ呼んでイタ」


 私と似た魔力の持ち主……。


「兄の事か? 兄ちゃんの事か!?」

「兄……兄弟カ。道理で似ているワケダ」


 兄ちゃんの事を知っているドラゴン!


「時間の感覚はわかるか?」

「年や月や日の事ダナ。度々山に新聞ヲ置いてイッテイル者がイルからワカル」

「だったら……5年前、ホテルの外側の階段で、兄ちゃんと会った事があるか?」

「アア、ある」


 そして、私は真相を知る事になる。

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