第56話 第2接触 その2

「アスタロトの強さはレベル6だよ。敵う訳がない」


「それってすごいの?」


「魔法生物の魔法レベルは1から7まであるんだ。それで普通の魔法生物は5までしかレベルを上げられない」


 魔法生物の魔法レベル、以前ヴェルノが話していたその概念ではあったけれど、あまり興味を持っていなかったいつきは詳しく覚えてはいなかった。

 今もそんなに興味がなかった為、彼の話を話半分で聞いていた。ただ、普通の魔法生物よりアスタロトの方が強いと言う事だけは理解出来たようだけど。

 そんな訳で改めて話が出たと言う事で、彼女は確認の為にヴェルノに質問する。


「べるのは?」


「僕のレベルは3だよ。前にも言わなかったっけ?」


「えっ……そんな事言ってたっけ?ごめん、覚えてない」


 いつきはヴェルノの魔法レベルを覚えていなかった事を反省する。ヴェルノは彼女の答えに呆れてため息を吐き出した。それからついでだからと彼はそのレベル3がどう言うものかと言う事をいつきに説明する。


「レベル3って言うのは魔法生物にとって努力しなくても誰でも到達出来るレベルなんだ」


「べるのは努力しなかったの?」


 ヴェルノの説明を聞いたいつきはついツッコミを入れてしまう。この言葉に彼は怒ったような悲しむような微妙な表情を見せた。


「したよ!したけど……無理だったんだ」


「貴族の息子なのに?」


「そうだよ!」


 いつきの追撃に自分の実力を侮辱されたように感じたヴェルノは、今度こそはっきりと気を悪くする。少し言い過ぎたと感じたいつきは質問の方向を変える事にした。


「ちなみにべるののお父さんのレベルは?」


「父様は……6……だよ」


 彼女の質問にヴェルノはすごく言いづらそうに答える。考えてみればレベル6のアスタロトと対等に渡り合ったのだから同じレベル以上じゃないと話が合わないよね。これはまずい質問をしたと思ったいつきはあるひとつの可能性を考えてそれをそれとなく口にする。


「えっと……べるのってもしかして?」


「血は繋がってるよ!だからこの話は嫌だったんだよ!」


「あ、なんかごめん……」


 親子の魔法レベルの話はアンタッチャブルな話題だった。知らず知らずの内にそう言う流れにしてしまった事を彼女は反省する。考えてみれば誰だって親と比べられるのはあまり気分の良い話じゃないよね。

 この会話のせいで落ち込んでいるように見えたヴェルノを励まそうといつきは彼に声をかけた。


「だ、大丈夫だって!幻龍さんも言ってたじゃない。本当はもっと強いって」


「そんなの気休めだよ。自分の実力は自分が一番よく知ってるんだ」


 ヴェルノが自分を過小評価しているように見えた彼女はその自己評価を覆そうと、自分から見たヴェルノの実力を口にする。


「そうかな~?わたしもべるのは強くなってると思うよ?レベル3だっけ?今は4くらいにはなってると思う!うん」


「レベル4でもアスタロトには全然届いてないけどね」


 実力差から考えれば多少強くなった所で結局アスタロトには手も足も出ない事だろう。その事は2人共しっかりと理解していた。ならばと言う事で、いつきは今この部屋に漂う暗い雰囲気を何とか払拭しようと口を開く。


「まぁ、そうだけど……。不穏な気配がアスタロトでないといいよね」


「本当にそう願うよ。今度現れたら前の時みたいな訳にはいかないだろうから……」


 その日は結局2人の間に流れる暗い雰囲気は覆る事なく一日は過ぎ去っていった。次の日の朝、いつきの目覚めはいつもと違ってかなり重いものになっていた。どうも昨日の話を引きずっているらしい。

 朝の景色はいつもと変わらないはずなのに、不安を胸に抱えているだけでその景色はどこか不安の色が混じっているように見えて仕方がなかった。


 その日の昼休み、持ち越した不安をどうにか解消しようといつきは雪乃に相談する。


「……って話をしたんだよね」


「狙われてるの?」


 話を聞いた雪乃は心配そうにいつきに尋ねる。いつも問題を何とか解決している彼女だったけれど、今回ばかりはその問題が深刻そうに見えたからだ。


「まだ分かんない。幻龍さんがそう言ってるだけだし」


「危なくなったらその幻龍さんに何とかしてもらうとか?」


「あ、そうだね!頼んでみるよ。さすがゆきのん天才!」


 雪乃のアドバイスを受けていつきの表情がパアアと明るくなる。こうしてこの相談は一件落着。安心した彼女はまるで何事もなかったみたいに別の話題を口に出していた。いつきの不安がなくなった事がこの言動で分かった雪乃もまた喜んでその話題に付き合うのだった。


 そして放課後、途中まで一緒に帰っていた2人はお互いの分かれ道で別れの挨拶をする。


「じゃあまたね~」


「また明日~」


 ひとりになった彼女は不安がなくなった事もあって足取りも軽く、鼻歌を歌いながら陽気に自宅に向かっていた。特に何か嬉しい事があったと言う訳ではないけれど、この何もないと言うのがいつきにとっては幸せな事だった。


「うんうん、今日も順調じゃ」


「待っていたぞ」


 脳天気に鼻歌を歌う彼女の前に突然現れたのは今一番会いたくない存在、悪魔アスタロトだ。この前触れもなく突然現れた恐怖の元凶を目にしたいつきは当然のようにパニックになる。


「うわああああ~っ!」


「おいおい、ご挨拶だな」


「なななな、あああああああ……」


 彼女のパニックは収まらない。さっきから言葉にならない言葉をただ叫ぶばかり。この状況に流石のアスタロトも呆れて口を開く。


「落ち着けよ」


「あの……何の用ですか?」


 アスタロトの表情が以前のそれと違うように見えた為、もしかしたら今回自分に会いに来たのは別の目的かも知れないといつきは恐る恐るその目的を尋ねる。

 この言葉を聞いたアスタロトはにやりと笑うと、すぐに邪悪な本性を表した。


「あの時はあっさり引き下がったが、やっぱお前は危ないからな」


「なななな、何を……」


「やっぱ消しとく事にしたわ」


 最悪の想像が当たっていつきのストレスは一気にクライマックスに達する。生身のままではどうしようもないと、すぐに彼女は取るべき行動を取った。


(べるのーっ!はやく来てくれーっ!)


「別に抵抗してもいいんだぜ?あっさりやるのもつまらないしな」


 余裕たっぷりのアスタロトは緊張で身動きの取れなくなっているいつきを前にふんぞり返っている。彼女は心の中で必死にヴェルノを呼んでいた。

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