第54話 土地神様 その7
しかし状況の把握が出来ていないカムラがそんな彼女の言葉を受け入れるはずもなかった。
「はぁ?誰に向かって口を……」
カムラが話を聞き入れないので仕方なくいつきは実力行使に動く。今ならきっとアニメ通りの力が発揮出来ると信じ、ステッキを振りかぶる。
「最大出力!マジカル☆カッターァァァ!」
「な、うわああああ!」
ステッキから放たれた魔法エネルギーはプラチナ色の輝きを放ち、最初よりも更に鋭利な刃物と化して今度こそカムラの身体を縦横無尽に切り刻む。この無慈悲な攻撃を防ぐ手段を魔界の大蛇は持ち合わせていなかった。
暴走する彼女の攻撃は相手を攻撃するだけにとどまらず、祠自体をも破壊していく。
そう、途中からいつき自身自分の力を制御出来なくなっていたのだ。
気がつくと祠は完全に破壊され、力を失ったカムラは後に力の制御を取り戻したいつきの別の魔法によって捉えられる。
それから彼女は幻龍のところに捉えたカムラを連れていき、事件の首謀者として突き出した。
「ほう、こやつが土地の力をのう……」
「700年位前に魔界からこの土地に逃げて来て住み着いたらしいんです。魔界でも違法植物となっている寄生植物を祠に植え付け、大地から発生する本来なら土地神に流れ出るべきエネルギーを奪っていたのがこの土地の力が弱くなった真相です」
「僕らの世界の者がこんな事をしてしまい、本当に申し訳ない……」
いつきの説明に加え、ヴェルノも自分の世界の者が迷惑をかけてしまったと言う事で謝罪する。2人の言葉を聞いた幻龍は好々爺らしい屈託のない笑みを浮かべおもむろに口を開く。
「構わん構わん。どうじゃ、カムラとやら儂のもとで修行せんか?お主ならいい神徒になろうぞ。儂の引退の暁には役目を譲ってやってもええ」
「え、でもそいつ……」
その余りに寛大過ぎる処分に彼女は口を挟む。
けれど、幻龍はまぁまぁといつきを止める仕草をして興奮する彼女を落ち着かせると、何故そう言ったのか真意を語り始める。
「いいんじゃよ。儂は土地神じゃ。この土地に住む者みんなを愛しておる。勿論、お主もじゃ」
「いいのか?俺は何をするか分からんのだぞ?」
「ふぉっふぉっふぉっふぉ、構わん構わんぞ。こう見えても儂は懐が広いんじゃ。なにせ土地神じゃからのう」
そう、それは土地神ならではの深い愛情からから来たものだった。幻龍に許されたカムラはその言葉に戸惑いながら照れ隠しの言葉を投げかける。
「ふん、なら俺を使ってみせろ。出来るものならな」
「うむ、これにて一件落着じゃ。いつき殿、ヴェルノ殿、本当に有難う」
幻龍の明るい笑い声を聞きながらいつきは素直な疑問を彼にぶつける。
「でもこれで街が活気付くの?」
「時間はかかるがの、良きように必ず変わってゆくぞ。おおそうじゃ、何か褒美がいるかな?何を望む?」
事件が解決して機嫌がいいのか幻龍は2人に報酬を与えると口にする。急にそんな事を言われた2人は戸惑って言葉に詰まっていた。
「褒美だなんてそんな……ねぇ」
「僕も別に……」
この反応を聞いた幻龍は2人を気に入ったのか更に景気良く大声で笑う。
「2人共欲がないのう!ふぉっふぉっふぉっふぉ!遠慮はいらんのじゃぞ」
「じゃあ、また何か思いついたらって事で。これからはいつでも会えるんだよね」
「ああ、勿論じゃ、儂は土地神じゃからな。いつでも呼んでおくれ」
それから事件が解決したという事でささやかな宴が開かれた。カムラを含む全員の前に食べ物が振る舞われ、幻龍の音頭で神界の歌や踊りなどとても畏れ多くて有り難い催し物を堪能する。
そのどれもが素晴らしく、2人はただただ感動するばかり。楽しい時間はあっと言う間に過ぎていった。
「素晴らしい宴を有難うございます。じゃあ、そろそろ帰ります」
「ああ、気をつけてな」
気がつくと遅い時間になっていたので2人は宴のお礼を言って土地神の間を後にする。帰っていく2人の姿を老人はずっと優しい眼差しで見つめていた。
「……そうじゃ、ヴェルノ殿」
「はい?」
帰る途中で呼び止められてヴェルノは振り返る。この時、彼は表面上平静を装ってはいたけれど一体何をしてしまったのだろうと内心かなりビビっていた。
「お主は自分が思っておるよりずっと強い。自信を持つのじゃぞ」
「あ、有難うございます……」
怒られるのかと身構えていたら返って来た言葉は自分を励ますものだった。優しい言葉をかけられてヴェルノは拍子抜けしつつ、幻龍にそう言って貰えた事を喜び、感謝の言葉を伝える。
こうしてまたいつき達に平穏な日々が戻って来た。彼女は学生生活を謳歌し、ヴェルノは家で留守を守る仕事を全うする。土地神に力が戻って来たところでそんな簡単に街に活気が戻る訳ではなかったけれど、何故だか吹いてくる風を優しく感じるいつきだった。
「ふん、やはり気にかかるな、あの魔女……やっぱり潰しておくか」
その頃、アスタロトはいつきの事が気にかかっていた。あの時倒しておかなかったのを後悔し始めていたのだ。近い内にまた接触があるかも知れない。
以前の彼の去り際の言葉を信じ、もうアスタロトは襲って来ないだろうと油断しきったいつきはこの最悪の悪魔の事も記憶の彼方に消しかけている。
次に襲われた時、果たして彼女に勝算はあるのか、そもそも本当にアスタロトはいつきに再接触するのか、それはまだ誰にも分からないのだった。
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