第43話 忍者再び その4
「ステッキの事もあるけど、守ってくれたじゃん」
「あ……」
いつきにそう言われてヴェルノはアスタロトと戦った時の事を思い出した。確かにあの時、奴の攻撃から守ろうとヴェルノは命を張って彼女を守っていた。
それは自分達が起こした魔界のトラブルを人間界でお世話になっている人にまで味あわせたくないと言う思いからだった訳だけど、結果的にその行為が彼女といつきの絆を更に深いものにしていたのだ。
ヴェルノはその事を思い出した途端何だかすごく恥ずかしくなって何も喋れなくなってしまった。そんな彼を見ながらいつきはニッコリ笑うと口を開く。
「まずはステッキをちゃんと完成させてね」
「わ、分かったよ」
次の日の昼休み。いつものように雪乃との他愛もない会話の中でいつきはポロッと昨日の出来事の話を始めた。
「今度、妖怪退治するんだ」
「えっ?」
この突然の告白に雪乃は当然のように困惑する。いつも突然とんでもない話を始めるいつきに彼女は慣れていたはずだったけれど、悪魔の次に妖怪と来てそのジャンルの幅の広さに流石の彼女も少しの間、話を受け入れるのに時間ががかかってしまった。
戸惑う雪乃の様子を見てすぐにこれは説明が必要だなと感じたいつきは簡単にそうなった経緯を説明する。
「前に言った忍者の人に頼まれちゃって」
「大丈夫なの、それ?」
その説明を聞いてとりあえず納得した雪乃は改めてその話の安全性についていつきに尋ねる。その当然の反応に対して彼女はまるで何も考えてはいない風にあっけらかんと答える。
「うーん、多分大丈夫じゃないかな?」
「気を付けてね」
雪乃はいつきを心配するものの、何を言っても変わらないだろうなと諦めに似た気持ちにもなっていた。なので自分の気持ちをただ一言だけ彼女に伝えたのだった。
その頃、いつきの家の空き部屋ではヴェルノが魔法ステッキに魔法石を組み込み最終調整を繰り返していた。何度も微調整を繰り返した後、ついに魔法石とヴェルノの魔法同調が完全に同期してここにいつきの求める性能の魔法ステッキは完成する。
「出来た!」
出来たばかりのステッキを掲げてヴェルノは思わず大声を上げた。ずっと苦心しながら作っていた物が完成した事でヴェルノは何とも言えない達成感に包まれる。
しかしすぐにこれが完成した事で起こりうる様々な不安が彼を襲う事になった。
「……でも、出来ちゃったな。これで良かったのかなぁ……」
兎にも角にも、完成した以上はそれを見せるしかない。夕方家に帰って来たいつきに彼は早速さっき出来たばかりの自信作を披露する。待ち焦がれていたステッキの完成の報を聞いたいつきはまるで自分の事のように喜んでいた。
「おお!ついに出来たんだね、すごーい!」
「一応言われた通りに作ってはみたけど、多分大した事は出来ないからね」
「いいよいいよ、早速使ってみよう」
ヴェルノは何度も念を押して、それから彼女に出来たてホヤホヤのステッキを手渡す。このステッきはいつきがよく見ていた魔法少女アニメのステッキを参考にデザインされていた為、どこからどう見ても魔法少女用のステッキだとひと目で分かる完成されたデザインだった。
白い杖の先に魔法石をはめ込んだ少し大きめの球体の頭頂部を備え、その両脇には小さな翼が可愛らしくあしらわれている。ステッキ全体に丁寧にあしらわれている彫刻には守護魔法的な意味合いを持たせていた。このステッキを初めて手にした彼女はただただ感動する。
「あれ?」
「どうしたの?何かあった?」
「あんまり何も感じないね。まるで普通のアクセサリーみたい」
そう、手渡されたステッキは確かに見た目こそ魔法少女の使うステッキそのものだったけど、これが本物の魔法ステッキと言うには何だかあまりに"本物感"がなかった。このステッキを振ったところで魔法が使えるようなそんなイメージが全然沸かなかったのだ。
この困惑するいつきの反応を見たヴェルノはすぐにある事に気が付いた。
「あ、そっか」
「え?」
「魔法ステッキははそのままじゃ使えないんだよ」
ヴェルノが話したそのステッキの問題点について、全くピンと来ないいつきは更に困惑したまま聞き返す。
「えっ?」
「魔法ステッキは魔法に反応するからね。だから変身したら使えるはず」
「あ、そーゆー事か。分かった!変身!」
今のいつきは学校から帰って来たばかりで当然のように変身前の姿だった。ヴェルノの話によればどうやらこの魔法ステッキは普通の人間の状態では魔法を使えないらしい。彼の言葉からその原理を理解したいつきは早速変身する。
するとどうだろう、さっきまで何の反応もなかった魔法ステッキが彼女が変身したと同時に魔法エネルギーを充填し始める。その感覚はただステッキを握っているだけでもハッキリと感じ取れる程だった。
「おおお……これはすごい」
「どう?」
「何だかとってもいい感じだよ。握っていると力を感じる」
自分が作ったステッキがちゃんと作動している事を彼女の言葉から確信出来たヴェルノは当然のように安堵した。それでまた改めていつきにステッキの能力について説明をする。
「魔法石は魔法に反応するんだ。いつきの力は僕の力でもあるから、これで僕が出来るような事は多分出来るようになったはず」
「ちょっと外に出て試して来てもいい?」
「なら、僕も一緒にいくよ」
ステッキの能力を使いたくてウズウズしていたいつきは早速それをしようとヴェルノに許可を求めた。彼女をひとりにさせておくのが心配だった彼は当然のように同行を申し出る。特に断る理由もなかったいつきはヴェルノを連れて魔法を使っても大丈夫そうな場所を探して外を歩き回った。
キョロキョロと辺りを見回しながら具合の良さそうな空き地を発見したいつきは同行していたヴェルノに尋ねる。
「ここならいいかな?」
まだ夕方で薄明るい感じだったので念の為にヴェルノはその返事を口に出さず、うなずくジェスチャーで彼女に意思を伝える。こうしてこの場所での魔法ステッキ発動実験は開始された。
いつきは最初、魔法少女らしく当初の予定通りキラキラとした光の粒子をステッキの先から放出しようと思っていたものの、先のアスタロト戦の事もあったのでダメ元で攻撃魔法的な事を試してみようと試みる。
まずは一度深呼吸して息を整えたところで、ステッキの魔法石に魔法の力が集まるイメージをする。そうしてイメージが固まったところでステッキを掲げ、その時に思いついた呪文を唱えながらおもむろに力いっぱい振り下ろした。
「ファイアッ!」
「うわっ!」
その声に驚いたヴェルノは思わず声を上げる。肝心のステッキはと言うといつきの言葉に反応して見事に火の塊を生み出していた。生み出された火の玉は野球のボールくらいの大きさで、そのまま空き地の壁に向かってまっすぐに飛んで行く。
ボン!と言う音と共に壁にぶつかった火の玉は小さな爆発を起こした。そうしてその火の玉は自身の存在の消滅と引き換えに壁のブロックを小さく焦がす。
「ブロックが黒焦げだ……」
この実験結果を目にしたヴェルノは目を丸くする。
「いつき、ステッキでこう言う事がしたかったの?」
彼はそのままいつきを見上げて言葉を投げかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます