第41話 忍者再び その2
雪乃はにっこりと笑ってこのいつきの説に反応する。それは討論を諦めた者が持つ哀れみの眼差しのようでもあった。それで傍目に非現実的な話の方は終わったものの、その後も2人は中学生らしい他愛のない会話を昼休みの間中楽しむのだった。
放課後、いつきがひとりで帰路に着いていると、その道の先に彼女を待ち伏せしているようなひとつの影が目に飛び込んで来た。いきなり現れたように見えたその影を目にしたいつきは驚いて思わず声を上げる。
「あれ?」
「待っていただよ!」
「う、うわーっ!」
その影が自分を見て声をかけてきた事で更にいつきはパニックになる。アスタロトの件がまだ心に強く残っていた彼女はその時の光景がフラッシュバックしてしまい、方向転換して一目散に逃げ出した。
その行動を目にして焦ったその影は改めて彼女に向かって声をかける。
「待つだよ!オラだ!ヨウだよ!」
「え?」
「覚えてないだか?ほら、忍者の……」
影の名前を聞いたいつきはその正体を思い出して立ち止まった。
しかし彼に待ち伏せされていた理由を何ひとつ思いつかなかった彼女は改めて質問する。
「あ、あー。でも一体何の用ですか?」
「実はお前さんに折り入って話があるだよ」
どうやらヨウはいつきに何か用があるらしい。何の用で自分に会いに来たのかさっぱり見当がつかなかった彼女は彼にひとつ提案をする。
「ここで立ち話も何だから、私の部屋で話そうか」
「うん、それもそうだべ……って、えーっ!」
いつきとしては何か込み入った話なら立ち話より自分の部屋で話した方がいいと言う単純な話だったものの、ヨウにとってその申し出は普通の事ではなく一瞬簡単に受け入れかけて、すぐに違和感に気付いて大声を上げた。
まさかそんな反応が返ってくるとは思わなかったいつきは彼の反応に驚いて思わず聞き返す。
「な、何?!」
「ダメだべ!まだよく知り合ってもいないおなごの部屋に上がるなんてそんな……」
ヨウは貞操観念上の理由でいつきの申し出に難色を示しめていたのだ。彼の慌てた理由がこの反応で分かったいつきは少し呆れ気味に言葉を返した。
「考えが古風なんだねえ……流石は忍者」
混乱したヨウは続けていつきに尋ねる。
「それにお前はいいのか?オラみたいなのを家に上げて」
「私?私は別にいよ、別に気にしないし」
いつきを女子として意識するヨウに対して彼女はヨウをそう言う存在として意識はしていないらしい。その無防備さに彼は困惑しながら言葉を漏らす。
「最近のおなごはよう分からないべ……」
「あ、そうだ!私も忍者さんに話があったんだった!だから是非家に来て!」
ここまで話していてこの間ヴェルノと話していた事を思い出したいつきは、ヨウの腕を掴んで強引に彼を家に引っ張っていく。この突然の彼女の行動にヨウは全く要領を得ないまま、成すがままになっていた。
「え?え?ええっ?」
強引に部屋に引っ張り込まれたヨウは借りてきた猫みたいに大人しくしていた。家に連れ込まれたところから一部始終を見ていたヴェルノは目を丸くして、ただただその成り行きを見守っていた。
「どうやってこの忍者見つけて来たの?」
「すごいでしょ、私の人徳だよ!」
ヴェルノの質問にいつきは胸を張ってドヤ顔で答える。その答えに彼が感心していると、ボソリとヨウが言葉を漏らした。
「いや、オラがお前さんに会いに来たんだべ」
「それって私の人徳って事でしょ?」
「全然違うべ」
話のかみ合わない会話を聞きながら、ヴェルノは多分ヨウの言葉の方が真実だろうなと感じていた。一連のやり取りが終わって落ち着いたところで、彼は改めてヨウに質問をする。
「で、何しに来たのさ」
「実はな……」
「あーッ!私の話が先っ!」
この質問にヨウが答えかけたその時、何を焦ったのかいつきが話に割り込んで来た。この突然の行動に圧倒された彼は思わず彼女に話の主導権を譲る。
「わ、分かっただよ……。一体何の話だべ」
「忍者さんは妖怪退治がお仕事なんだよね?」
「ああ、そうだべ」
いつきはまずヨウに忍者の仕事の確認をする。改めて聞かれた彼は素直にその質問に答えた。その言葉を聞いてうんうんと頷いたいつきは改めてヨウに質問をする。
「悪魔退治もやってる?」
「悪魔って何事だべ?」
彼女の口から語られた悪魔と言う言葉に、ただ事ではない何かを感じたヨウは思わず聞き返した。この質問に彼女は素直にそう聞いた理由を彼に話す。
「実は私達、悪魔に狙われてるの」
「そ、それは一大事だべ!よく無事だったべな」
いつきの口から語られた真実に対し、ヨウはその言葉を何ひとつ疑う事なく受け入れる。普通の人なら少しは疑うであろう悪魔と言う信じ難い言葉でさえ。
それは彼自身がこの世ならざる妖怪を相手に仕事をしている、その環境故の事なのだろう。
「だから助けてくれないかな。妖怪も悪魔も似たようなものでしょ?」
「無理だべ……」
いつきは妖怪も悪魔も似たようなものだろうと言う認識で彼に助けを求めていた訳だけど、当のヨウの反応は彼女の期待していたものではなかった。
その理由について彼はいつきにも分かるように優しく説明する。
「相手がどんなものか分からないと対処は難しいべ。妖怪に効く攻撃が悪魔に通じるかも分からない内は」
このヨウの説明を受けていつきは思わず考え込む。その後、沈黙が部屋を包み込んで何とも言えない雰囲気になるものの、すぐに彼女は妥協案を提示する。
「……じゃあ、そう言うのが分かったら助けてくれる?」
「仕事としての依頼なら結構高いべよ……。オラもタダ働きはしない主義だべ」
いつきの話は忍者にとって仕事の依頼と同等のものだった。なのでヨウはプロとしての意見を彼女に伝える。ただで助けて貰おうと思っていた彼女はこのビジネスライクな彼の言葉に憤慨して思わずへそを曲げる。
「何よケチ!」
「それが生きるって事だべ……。遊びじゃないべよ」
怒ったいつきがそれ以降口を聞かなくなったので、それならばと代わりにヴェルノがヨウに質問をする。
「で、そっちの方の話は?」
「そうじゃったそうじゃった!実は助けて欲しいんじゃよ!」
「はぁ?」
彼の助けて欲しいという言葉に真っ先にいつきが噛み付いた。この彼女の思わぬ反応にヨウは困惑する。
「な、何じゃ?」
「さっきただでは話を聞かないと言ったその舌の根が乾かない内に助けてくれ?ちょっと都合が良すぎるんじゃない?」
「あっ……」
いつきの指摘で自分の言葉の矛盾に気付いた彼は思わす言葉を漏らす。自分の口撃が効いていると手応えを感じた彼女は更に言葉を続ける。
「私だってただじゃ動きたくないんですけどー」
「わ、分かっただよ……。オラの頼みを聞いてくれたならお前さんの話も聞く事にするべ」
「やった!交渉成立ね!」
このままで話が一向に進まないと判断したヨウは、全面的に彼女の訴えを受け入れる事にする。自分の訴えが聞き入れられたと実感したいつきは、思わず満面の笑顔でガッツポーズを取るのだった。
「してやられただ……。お前さん、結構交渉がうまいべなあ……」
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