第24話 新しい担任 その5
詳しいやり取りは話がややこしくなるだろうと判断した彼女はかいつまんで玉井先生にその経緯を説明した。すると先生はその相手をすぐに推測して具体的な名前を出していた。
「もしかして、その占い師って清音って名前じゃない?」
「えっ……。そうですけど、もしかして知り合いなんですか?」
この玉井先生の即答ぶりに、いつきは例の魔女とこの先生にはかつての同僚以上の何か特別な繋がりがあるんじゃないかと推測した。
質問を受けた先生は、また形容し難い微妙な表情になって少し言い辛そうに彼女に向かってつぶやいた。
「まぁ……知り合いって言うか……うん、そうよ、知り合い"だった"のよ!」
「あー。なるほど、色々あったんですね」
その先生の言葉は裏に言いたくない色々な出来事があったんだと感じさせるの十分な説得力があった。いつきは噂好きな下衆な性格ではなかったので、これ以上この話を追求する事はしなかった。追求すれば先生の心の傷を抉ってしまう事が明確だったからだ。
その時、いつきの存在に気付いた小さな影が彼女に向かって駆け出していた。
「お、いつきー!来てやったぞー!」
この雰囲気を崩すようにそこに現れたのはヴェルノだった。何でこんなタイミングで!この突然の来訪者の出現に先生はパニックになってしまう。
先生が怯え始めたその原因は、まさに校舎に侵入したこの異界の生物に間違いはなさそうだった。
「ひぃぃ――っ!魔法生物ッ!」
先生は魔法を使って姿を消しているはずのヴェルノに過敏に反応する。どんなに彼が気配を消しても耐性のあるいつきには全く効かない訳で、それでつい彼女はヴェルノに本当のその魔法を使っているのか追求する。
「べるの!あんた姿を消して」
「何言ってるんだよ!僕のステルス魔法は完璧だよ?」
「でも先生が……」
そこまで言っていつきはハッと気付く。先生もまた魔法と縁が深かったと言う事を。もしかしたらそのせいもあって彼女にもヴェルノの魔法は効かないのかも知れない。いつきがその結論を導き出した時、先生は突然立ち上がり、顔を真っ赤にして彼女を糾弾した。
「いつきさん、あなた!あなたが元凶なのね!」
「え……っ?」
突然態度が豹変した玉井先生を前にいつきはまたしても呆気に取られてしまう。よく見ると先生の身体は体中に発疹のようなものが出来、さっきからの体の震えも心なしか激しくなっているように見えた。きっとアレルギー症状が大きくなって来ているのだろう。
ひとりの生徒の前で先生が突然大声で叫び出すと言うこの異常な状況を前に、遠巻きに先生を見ていた他の生徒達はいよいよ彼女から距離を取っていった。
「いい?私は魔法アレルギーなの!近くに魔法的なものがあると体調が悪くなるのよ!」
「そ、そうなんですか……」
いつきは態度が豹変した玉井先生を前にただただ圧倒されていた。アレルギーって反応が酷い場合、命に関わるって聞いた事がある。そう考えれば先生のこの必死の言動にも納得出来るものがあるといつきは思った。
「だからあの魔法生物をどこかにやって!早く!今すぐに!」
「わ、分かりました……」
発狂気味の玉井先生を前にして反論の許される状況ではなく、いつきはその言葉に素直に従うしかなかった。昨日の冗談がこんな結果になってしまうなんてといつきは自身の運のなさと昨日の自分を責めていた。
そんな中、まるで状況を飲み込めていないヴェルノは脳天気にいつきに話しかける。
「あれ?この人……魔女だよ?」
さっきまでの言動から薄々いつきもそうじゃないかと思ってはいたものの、ヴェルノにはっきり言われた事で彼女も自分の説の正しさを確信する。
けれど勝手な思い込みだけで判断するのもどうかと思い、念の為に先生に確認を取る事にする。
「え?先生そうなんですか?」
「ええ……そうね、かつてはそうだったわ……でも今はもう魔女じゃない、アレルギーになってしまったから……。だから!だから早く……っ!」
玉井先生はいつきの言葉をあっさりと認めた。その事からも見て彼女が魔法アレルギーになってしまったのはとても辛い事なんだろうなとも思うのだった。
そう言った先生の顔はもうすっかり青ざめて呼吸も不規則になって今にも死にそうな感じになっている。そんな訳で事態は急を要していた。
しかしいつきは折角魔法生物が側にいるのだしと、帰す前にさっきから気になっていた事をヴェルノに質問する。
「べるの、魔法にアレルギーなんてあるの?」
「それゃ魔法だって体質に合わなければアレルギーにもなるよ」
玉井先生の言葉を信じていなかった訳ではなかったけど、ヴェルノの口からもはっきりと魔法アレルギーを認める言質が取れ、ようやくそう言うのが存在する事を彼女の中で受け入れる事が出来た。それで早速彼に今の状況を説明する。
「この先生、そのアレルギーみたいなのよ。悪いけど……」
「ああ、分かった。仕方ないね。それじゃあ帰るよ」
「ごめんね。家で留守番してて」
目の前のパニックになっている玉井先生がそうだと言われて全てを察したヴェルノはそのままくるりと体の向きを変えてすぐに家に帰っていく。その淋しそうな後ろ姿を見て、元は自分の発言から始まったのにこんな形で終わらせてしまって彼には悪い事をしたなといつきは思うのだった。
とは言え、まさか魔法にアレルギーがあるだなんて知らなかったし、新しい担任の先生がそれを患っていただなんて――誰も予想出来なかった事だろう。ある意味これは不慮の事故のようなものだった。
いつきだってもし最初から先生が魔法アレルギーだって知っていたなら、ヴェルノに学校に来たらなんてあんなアホな事は言わなかったに違いない。
彼が帰っていった事で場が落ち着いたと思ったいつきは、さっきから仁王立ちのままの先生に恐る恐る声をかける。
「先生、これでいいですか?」
アレルギーの元凶が去った事で反応が収まった先生は体の緊張が解けたみたいで、ようやく楽な姿勢を取って彼女に返事を返した。
「ありがとう……。楽になったわ」
「そ、それじゃあ、失礼しまーす……」
触らぬ神に祟りなしと言う事で、いつきは先生をあまり刺激しないようにその場から去ろうとする。下手な事を言ってこの騒ぎの元凶が自分だと言う事がバレてはその後にどんなおとがめが待っているか分からない。ここは気配を消して何事もなかったように去るのが一番いい選択肢だろう。
しかしそんな彼女の浅はかな考えを見通したかのように、先生はこっそり去ろうとするいつきを呼び止めた。
「ま、待ちなさい」
「え?」
この先生の言葉にい付きは冷や汗を一筋たらりと流す。この瞬間、彼女の緊張感が急速に跳ね上がった。出来れば無視して強引にでもこの場を離脱したいものの、そうしてしまうと本当に後が恐ろしくなってしまう。なのでいつきはピタリと足を止め、ぎこちなく先生の方を振り向いた。
「実は清音から聞いていたのよ……」
先生の口から出た言葉は今の騒ぎの事ではなさそうだった。清音から聞いた話と言う事は、きっと魔法少女関係の話なのだろう。いつきはきっとそうだと想定して、でも違う話かも知れないので取り敢えずとぼけてみる事にした。
「な、何を……?」
「あなたが"魔法少女"だって事」
「えっと……」
先生が清音から聞いたのはやはり予想通り魔法少女の事だった。この言葉に対してどうリアクションしていいか分からず、いつきは言葉を濁す。
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