第61話 プロのお仕事 その6
プロだから料理が美味しいのは当然として、料理に魔法を使った事で素材の味が普通の料理より色濃く生かされている。この味の衝撃に彼女は思わず感嘆の声を上げた。
「美味しいです!」
「魔法の可能性は無限大ですね」
共に料理を味わったなおも魔法料理の素晴らしさに感動の言葉を口にする。先生は自分の作った料理を美味しそうに食べる4人の姿を見て満足そうな顔をしていた。
「ふふ、そう言って貰えると作った甲斐があるわ」
出された料理をぺろりと平らげたマール達は、先生に御礼を言ってこの場所を後にする。
「今日はご馳走様でした」
「ふー、まんぷくぷー」
マールの満足の口癖にゆんが笑いながらツッコミを入れた。
「はは、マールは食べ過ぎだよ」
「だって美味しかったから、つい」
こうして美味しい体験をした後、ゆんは歩きながら次に向かう場所の説明をする。
「次はお医者さんだよ」
「お、お医者さんはちょっと……」
お医者さんと聞いたマールの顔がスーッと青ざめていく。どうも彼女はお医者さんにあまりいい印象を抱いていないようだ。きっとお医者さんの見学と聞いて、治療の様子を想像したに違いない。怪我とか病気の治療、人が注射をするのを見るのもマールは苦手だから。
その様子を見たゆんはひとりクスクスと笑いながら種明かしをする。
「大丈夫、人間相手じゃないから」
「え?」
「動植物相手のお医者さん、聞いた事ない?」
ゆんに顔を近付けられてマールは戸惑いながら聞き覚えのある事柄を口にする。
「えっと……獣医さんなら聞いた事ある」
「そう、言葉の話せない動物や植物の病気や怪我を治す魔法医の仕事があるんだよ。今回行くのはその動物医の方の先生」
ドヤ顔で説明するゆんを横目で見ていたファルアが、ここでこの会話に割って入って来た。
「今度はどう言う知り合いなの?」
「えぇとね、叔父さんなんだ。お父さんの弟さん」
ゆんの答えを聞いたファルアは期待が外れたようながっかりした顔になって、嘆くような反応をする。
「やっぱ血縁関係かぁ~」
「当たり前でしょ」
魔法料理の先生の家から徒歩で15分ほど歩いた場所に、そのお医者さんのいる小さな病院はあった。受付でゆんが事情を話すと、すぐに看護師の人が案内をしてくれた。初めて見るその魔法医の先生、ゆんの叔父さんは優しそうな笑顔でマール達を迎え入れてくれた。
「やあ、話は聞いているよ。今から検診だけど見る?あんまり楽しくはないと思うけど」
「ぜ、是非お願いします」
マールは緊張しながら先生にお願いする。それから邪魔にならない場所に移動して先生の検診を見学した。その時に飼い主さんに一緒に検診にやって来たのは体調の悪そうな子犬で、先生は専用に魔法道具を付けてこの小さな患者さんと向き合う。
「じゃあ、ちょっと体の調子を見せてくれるかな……」
子犬と向き合った先生はしばらく黙って、たまにうなずきながらじっと見つめ合っている。僕みたいな使い魔は人間と話が出来るけれど、そう言う特殊な動物以外は人間と会話をする事が出来ない。だから普通の動物と意思疎通出来る魔法医はかなり重宝されているんだ。
ただ、その様子は傍から見ていると動物と先生が向き合っているだけのようにしか見えないので、不安になったマールがゆんに耳打ちする。
「あれ、会話が出来ているのかな?」
「魔法で意思疎通が出来るみたい。覚えるのはちょっと大変って話みたいだけど」
「へぇぇ、すごいね」
しばらく見つめ合った先生は子犬の病状を的確に判断して、早速適切な治療を看護師の人に指示していた。
「じゃあ注射打っとこうか、大丈夫、これでよくなるよ」
「うわああ、注射だああ!私注射駄目ええ!」
運ばれてきた注射針を見てマールは過剰に反応する。その様子を目にしたファルアは冷ややかな目で口を開いた。
「相手が人間じゃなくても痛がるんだ……」
そうして一通りの魔法医の仕事の様子を見学した4人は改めて先生に御礼を言った。
「今日は有難うございました」
「君達の使い魔の調子が悪くなったらいつでも診てあげるからね」
「はい、その時は是非よろしくお願いします!」
こうして病院を後にしてゆんの方のコネも終了となった。全ての見学が終わった帰り道、改めてマールは今日の感想を口にする。
「いやぁ~巡ったねぇ」
「魔法って本当に生活に根付いているんですね」
一緒について来たなおも同じように魔法世界のお仕事事情について言葉を続ける。それを聞いたファルアは得意気に返事を返した。
「そうだよ~。私達の生活と魔法は切っても切れないんだよ」
「今日紹介した魔法職業以外にも魔法科学者とか天候操作魔法使いとか他にも沢山の仕事があるんだから」
ファルアに続いてゆんも魔法職業について知っている事をなおにドヤ顔で説明する。その後も会話は続き、別れ際、ファルアは最後に今日の見学の感想を改めてマールに尋ねた。
「マール、今日は参考になった?」
「うん、2人共有難う」
こうしてファルアとゆんの知り合いによるお仕事見学は無事終了し、マールをそれを楽しそうに僕に報告してくれた。その様子から見て、今日一日はマールにとっても有意義な時間になったみたいだ。
彼女がペゼルじいさんからもらった置物を部屋に飾る様子を眺めながら、僕は口を開く。
「色々見て回れて良かったじゃん」
「まぁね~」
マールはそれから椅子に座るとくるりと僕の方に回して向き合う形となった。何だか会話を催促されているみたいに感じた僕は口を開く。
「で、やってみたいものは見つかった?」
「実はさ、選択肢が増えて余計に悩みが増えただけだったよ」
「ありゃ」
彼女の返答に僕は少し呆れていた。もしかして友達2人の好意は逆効果になってしまったのかな?
マールは僕を見つめながら、この仕事見学の結果によって生まれた新たな悩みを少しオーバー気味に口にする。
「あ~!魔法料理研究家もいいし!魔法芸術家もいいし!魔法建築って言うのもありだし!探索魔法って言うのも気になるし!どうしたらいいの~」
「こりゃ、前途多難だなぁ……」
マールみたいな好奇心旺盛な性格だと、きっと多くの職業が魅力的に映るんだろう。その中から適切な、自分でも続けられるものを選んでくれたらいいんだけど――。きっとそれは簡単な事ではないんだろうなと僕は頭を抱える。
ちゃんと1年後までに答えを見つけ出さないと、次もまた調整で済むかどうか分からない。長いようで短いであろうそのタイムリミットを前に、僕はマールをしっかり導こうと決意を新たにするのだった。
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