第54話 謎の魔法陣 中編

 弾き返された石はものすごい勢いで飛んで行った。その様子を見たゆんは空恐ろしいものを感じてぺたんとその場に座り込む。

 それでもファルアは諦めない。魔法陣が生きていて効力が発揮されていると分かった上で、それを何とかしようとアイディアを絞り出した。


「魔法には魔法だよ、何か魔法的なもので……」


「具合的には?」


 あまりに自信満々に言うのでマールは何か策があるのか彼女に尋ねた。ファルアはしばらく腕を組んで考えを巡らせ、ひとつのアイディアを提案する。


「じゃあ、まずは術式を固定させようか。みんな、協力して!」


 彼女の考えた作戦とは、まず4人が均等な距離で魔法陣の周りに立って魔法円の中心に向かって魔法の力で圧力をかけ、この変わり続ける術式を固定化すると言う方法だった。

 この作戦、ゆん以外はすぐに同意したものの、彼女は怖気づいてしまいその場を中々動かない。なので、逆に今のゆんの位置を基準にして他の3人が魔法陣の周りに均等に位置取りをする。


 形が出来てしまえば仕方ないとゆんも渋々と立ち上がり、早速ファルアの作戦を実行に移した。4人の発する魔法圧は確実に魔法陣に影響を与え始めるものの、魔法陣の発するエネルギーの抵抗も強く、中々作戦はうまく運んでくれなかった。


「うぐぐぐぐ……」


「何この力……反発がすごい」


 マールもゆんも苦戦して思わずそれを口に出していた。ファルアも苦戦自体はしているものの、ぐっと歯を食いしばり耐えている。なおは流石に元々のポテンシャルが高いのか、苦戦自体はしているものの、その顔は他の3人よりは平気そうな顔をしていた。


 魔法陣の術式を固定化するには、術式から発生している力の属性と正反対の属性の力を正確にかけないとその効果は期待出来ない。

 けれどこの魔法陣はその術式自体が次々に変わり続けるが故に属性も同じく安定せず、正しく圧力をかけるのもまた簡単な事ではなかった。


「属性が変わり続けて対応が出来ない……」


「はぁ~、ダメだあ……疲れたぁ~」


 4人の奮闘は30分近く続いたものの、結局うまく行かず、ほぼ同じタイミングで全員が地面に座り込んだ。この結果にゆんがキレ気味に叫ぶ。


「何なのこれ?こんな魔法陣が現実にも存在するの?それともここが夢だから?」


「あの……」


 散々な結果になった中でなおがみんなに向かって声をかける。汗を拭っていたマールはその声に反応する。


「何?何かいいアイディアでも思いついた?」


「私、この魔法陣に直接触れてみます」


 この突然の提案に対してマールはすぐにそれを却下する。


「ちょ、駄目だよ!危ないよ!」


「でも、出来る気がするんです!」


 マールに拒否されてもなおは一歩も引かず、自分の意見を強く主張する。その様子を見たファルアは何か感じるところがあったのか彼女に問い質した。


「それって直感?」


「はい。さっき急に出来そうな気になって」


 なおの真剣な目を見たファルアは彼女が本気だと直感する。そこでファルアは改めてみんなに声をかけた。


「どうする?」


「なおちゃん、この夢に入る時も同じような感じだったんだよ」


 ファルアの問いかけに対してまだ返事を返せないマールにゆんが追加の情報を彼女に伝える。なおの未知数の力には何かを変える力があると感じたマールは重い口を開きかけた。


「じゃあ……」


 何か言いかけたマールにゆんは思わず本音を漏らす。


「まぁマールの夢だし、私ら責任持てないもんね」


「ちょ、丸投げ?」


 この彼女の言葉にマールの開きかけた口は止まってしまう。更にファルアもその責任を彼女に被せてくるのだった。


「マールの判断に任せるよ」


「ぐぬぬ……」


 目の前の怪しげな魔法陣に触れてなおが無事かどうかその保証は誰にも出来ない。自分の発言の責任が重くのしかかり、マールは決断が出来ないでいた。

 一向に事態が進展しないまま、時間だけが無情に過ぎていく。苦悩するマールを見たなおは彼女の背中を押すように胸を張って話しかける。


「大丈夫です、きっと危険な事は起こりません」


「なおちゃん、信じてもいい?」


「確証はないですけど、大丈夫です」


 そういったなおの顔は自信に溢れ、不安の色は一切見えなかった。そんな彼女の顔を見たマールはその言葉を信じる事にする。


「じゃあ、お願いするかな。私の為に有難う」


「マールちゃんに目覚めて欲しいのはみんなの願いですから」


「なおちゃん……ええ子や」


 ゆんがなおの言動に感動する中、彼女は早速行動を開始する。魔法陣に近付き慎重に方円の中に手を伸ばす。石を投げた時は反発した謎の壁をなおの手はじわじわと侵食していく。

 どうやら魔法陣が発生させている拒絶の力は彼女には通じないようだった。それから彼女はしゃがみ込んでそっと魔法陣に手を触れる。魔法陣の術式は相変わらす変わり続けているものの、見た感じ、なお自身の体にその影響はないようだった。


「……」


 まぶたを閉じて魔法陣の力を感じ取っている彼女にマールは恐る恐る声をかける。


「どう?」


「力を……感じます。形容しがたい力を。でもそれ以外はちょっと……」


 なおのこの感想に対して自然と考察が始まった。まず、ゆんがマールに声をかける。


「どう言う事だろうね?」


「私に聞かないでよ」


 この質問にマールがうまく答えられないでいると、ついに魔法陣の方に異変が起こる。じっと魔法陣を眺めていたファルアがそれに気付いて声を上げた。


「あ、魔法陣が……」


「術式が固定された?」


 その変化に思わずマールも同調する。なおが魔法陣に触って数分程して、それまで変わり続けていた術式が一つの形に固定されたのだ。その術式を興味深そうに眺めていたゆんは思わずその感想を漏らす。


「でも見た事なのない形なのは変わらないよ。これってどう言う効果が……?」


 なおの力によって術式が固定化されたその直後だった。その影響かどうか分からないものの、突然洞窟が揺れ始める。大地震を思わせるその振動を前に全員が一斉に動揺する。


「えっ?地震?」


 ゆんが一番最初にそれに気付いて一目散に逃げ始める。マールはすぐに魔法陣に触れているなおに声をかけた。


「早く逃げよう!なおちゃんも!」


「は、はいっ!」


 今にも洞窟が崩れそうな程の大きな揺れに4人は懸命に出口へと急ぐ。道が一本道で迷う事はなかったものの、長い距離を移動しなくてはいけなかった為、中々目的の出口に辿り着けない。

 最初に逃げ出したのはゆんだったけど、いつの間にかファルアが先頭に立ってみんなを先導していた。


「急いで!崩れる!」


「ヒィィィ!こんな所で死にたくない!」


 激しい揺れが続いてまともに走る事が出来ず、パニックになったゆんが大声を上げる。それを聞いたマールが返事を叫んだ。


「縁起でもない事言わないでよーっ!」


「で、出口!」


 みんな夢中になって走ってやっと目的の洞窟の出口が見えて来た。その光景にファルが喜びの声を上げる。この声を聞いたみんなは開放感に包まれ、各自それぞれの感情を爆発させる。


「やったー!出られるっ!」


「助かったーっ!」

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