第33話 空から降るもの その5

 ま、こう言うステップを踏みながらマールも徐々に効率って言葉を覚えていくんだろう。僕は窓から焦って走っていく彼女の姿を見ながらそんな事を思っていた。


 マールが一生懸命走って待ち合わせの場所に着くと、案の定もうみんな揃っていた。まずは遅れた事をみんなに謝罪する。


「ご、ごめん、遅くなっちゃって……」


「遅い!……って言いたいところだけど、まぁ待ち合わせ時間10分以内だったからいいや、許す!」


 待っていたメンバーの中でゆんが代表してマールにそう告げる。その言い方が気に障ったマールは軽く逆ギレした。


「何でゆんがリーダーっぽい感じになってるの?この企画を考えたのは私なんだけど!」


「細かい事はいいでしょ。遅れたのは事実なんだから」


 ここで軽く喧嘩が勃発しかけ、それをどうにか収めようとなおが口を開く。


「あ、あの……」


 この申し出を聞いて今日の目的を思い出した2人は落ち着きを取り戻した。そしてすぐに取り繕うようにマールはなおに声をかける。


「あ、そうだね。なおちゃん、今日は楽しもうね」


「はい」


 こうしてなおの為のクリング島一日観光ツアーが始まった。事前にチェックしていたポイントに合わせてレンタルサイクリングで自転車に乗って観光各地を回っていく。事前の計画に従ってこの島ならではの美しい景色や不思議な自然の造形物、お金の掛からない博物館などを回っていく。

 マール達の案内にするどの場所もなおにとっては興味深い楽しい場所だったらしく、自然とその顔は笑顔になっていく。その様子を見たマール達もつられて笑顔になるのだった。


 ある程度イベントも消化したところで4人は計画通りに海の見える丘へ。自販機の並ぶ休憩スペースに自転車を止めてマールはなおに声をかけた。


「ふう~、じゃあここらでちょい休もうか~。なおちゃんは何飲む?」


「ええと、お茶で……」


「おっ、渋いね~。じゃ私もお茶にするかな」


 2人分のお茶を買ってマールはなおに彼女の分を手渡した。おごりじゃないのでその時にお茶代と引き換える。ゆんとファルアは潮風に吹かれながら海の景色を眺めて雑談を楽しんでいた。マールも気を使いながらなおとの会話を試みる。


「記憶はその後はどんな感じ?まだ全然何も思い出せない?」


「あ、はい……」


「いつかちゃんと思い出せるといいね」


 まずは記憶喪失の話から始めてみたものの、彼女の返事はあまり芳しいものではなかった。その淋しそうに返事を返す様子を見て、まずいと感じた彼女はやんわりとこの話題を終わらせて、すぐに話題を切り替える。


「この島の印象はどう?」


「いい島だと……思います」


 この質問にもどこか遠慮がちに話している印象を受けたマールはなおにアドバイスをする。


「本音でいいんだよ~」


「そんな!本音ですよ」


 自分の言葉が疑われていると感じたなおは、すぐに自身の身の潔白を訴えた。その言葉を聞いてマール達の前に戻って来ていたゆんが口を開く。


「そうなんだ。その言葉、住民として嬉しいな。私達もみんなこの島が好きだから」


「あれ?ゆんはアイドルとして成功するために早く本島に行きたいって言ってなかったっけ?」


 そのゆんの言葉を聞いたマールがすぐさま突っ込みを入れる。彼女は目指すべき道がアイドルな為、田舎のこの島より本島の都会に憧れていたのだ。

 過去の発言をほじくり返されてゆんは焦って言葉を返す。


「な、それはそれ、これはこれ!」


 このやり取りを聞いたなおはすぐに彼女に質問する。


「ゆんちゃんはアイドルになりたいんですか?」


「え、あ、うん。その為のレッスンとかもしてるし……」


 この質問にゆんはしどろもどろになりながら答える。彼女の言葉を聞いたなおは感心の眼差して感想を述べた。


「すごいですね。ゆんちゃんは可愛いですし、きっとアイドルになれると思います!」


「そ、そうかな?有難う」


 なおに褒められたゆんはまんざらでもない顔をしていた。身内以外で自分の夢を褒められる事があまりなかったのでよっぽど嬉しかったんだろう。

 なおは更にファルアの夢に関しても言及する。


「確か、ファルアちゃんは魔法スポーツ選手を目指しているんですよね?」


「あ、うん、そうだよ」


「ファルアちゃんも身体能力がすごいですし、きっとその夢は叶うでしょうね」


「よく見てるね。こりゃ参ったな……。有難う」


 ゆんの時と同じようにファルアの夢にもなおは太鼓判を押していた。この言葉にファルアもゆんと同じ反応をする。友達2人が褒められたので、自分も何か言ってもらいたいと思ったマールはつい自分からなおに食い気味にリクエストをする。


「私は?私は?」


「え?マールちゃんの夢って何でしょう?」


 返事を急かされたなおは困惑する。何故ならなおは夢を語った人の応援をしていたのであって、夢を語った事のないマールに対してどう言っていいいのか皆目見当がつかなかったからだ。予想された答えか返って来なかったマールもまたなおの返事に困っていた。


「え……?いや今はまだ夢とかちゃんと考えてはいないんだけど……」


 このマールの返事にゆんが突っ込みを入れる。


「マールはまず人生の目標を考えるところからだよ」


「ぶー。なおちゃんがそれぞれの人の適性を見抜いている感じだったから、それを聞いてみたかっただけなんだけど」


 ゆんの突っ込みにマールはそれっぽい言い訳をする。確かに本人の資質と夢がリンクしているからゆんとファルアはそのまま本人達の夢が叶いそうに見える。

 マールの言い訳に都合良く使われたなおは、すぐに自分は彼女の見立てのような人物じゃないとその根拠を否定する。


「いやあの私そんな大それた事は……」


「ほら、なおちゃん困ってるじゃないの」


 自分の主張のせいで彼女が困惑している事をゆんに指摘され、マールはすぐに謝った。


「あ、ごめん。気にしないでね」


 そんな訳で折角の休憩がグダグダになったところで、観光プチ旅行は再開される。次に訪れる場所は今回の旅の中でも一番の名所だった。マールは自信たっぷりにその事をなおに伝える。


「……じゃあ、そろそろ行こっか。次はすごいよ。期待しててね!」


 その彼女の言葉にファルアがぼそっと突っ込みを入れる。


「自らハードルを上げるスタイル……」


「その一言が余計だよもー」


「あはは……」


 このやり取りで場の雰囲気が戻ったところで4人は自転車を走らせる。次の目的地はこの休憩スペースから自転車で20分ほど先にある小高い丘。

 休憩した事で体力が回復した4人は、楽しく雑談しながらその丘に続く道を季節の風に吹かれながら進んでいく。ひとりで走ると時間を感じるこの距離もみんなで楽しく話しながら走るとあっと言う間だった。

 目的地に着いたマールは駐輪場で自転車から降りながら、なおにこの場所の説明をする。


「ここはね、奇跡の丘と言って、あそこの中央にある石が古代の遺跡って言う話なの。この石に触ると何かが起こるって……」


 そう言いながら彼女はそこから見える謎のオブジェのような大きな石を指差す。その話の流れでまずはその石の場所に移動する事になった。

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