陰陽少女はエクソシズムできるかな?
「九! あれは何?」
モモの家の前で、智夏は焦りの表情を浮かべた。
今まで対峙したことの無い妖しだ。対処法が浮かばない。
「西洋の奴だな、モモに憑依してやがる」
「西洋?」
「悪魔だ」
智夏は、あれが悪魔の力なんだと理解した。自分の身体に触れる事なく、吹き飛ばされた事を思い出す。念動力という物だろうか。
今まで智夏が相手にしてきたの鬼達は、物理的攻撃が主だ。それに、智夏の陰陽術と退魔術が通用するのかも疑問だ。
陰陽少女は再び、二階の窓へと視線を移した。
「智夏、一度部屋へ帰って体制を整えろ。呪符も足りないだろう」
「うん」
「それと、専門家だ」
「セイラね」
家に居るだろう銀髪の少女を思い出す。彼女に頼るしかないだろう。
「セイラって誰だい?」
いつの間にかコリコが、左肩の上にいた。
「知り合いよ。 それより何で悪魔に憑かれてるのよ?」
智夏はコリコを睨みつけた。この前の鬼の時といい、何故コリコがいながら憑りつかれるのか理解できない。この小動物もそこそこの力があるはずだと、智夏は思っている。
「本だよ。僕は開くなと制止したのだけど、開いてしまったらしい」
図書室の本だろと智夏は思う。結界を切ったのが、昨日の放課後。モモは今日学校を休んでいる。
とすると、結界が切られた時にモモが図書室にいたのだろうと見当をつけた。
繁華街の時といい、あの娘は何て間が悪いんだろうと智夏は思った。
「本当に持ってる娘だわ」
智夏は自分の家へと足を急がせた。
智夏がマンションに着くと、一階のエトランスでエミリが待っていた。
エミリは急用と言って、慌てて出ていった智夏の事が気になり、友理奈と別れた後にマンションに来たらしい
「智夏の急用、私っ 原因ですかっ?」
結界を切った事を、かなり気にしているようで、泣き出しそうな顔になっている。
「んー 一つの要因だけど、根本はアの子にあると思うわ」
「あの子?」
智夏は 魔法少女の事を手短に話し、エレベーターに乗った。
「とにかく、私の部屋にいる専門家が必要なの」
「西洋の魔法か。興味があるね」
コリコが肩の上で、耳をぶらつかせた。
「オー コリコ。ソーリーね」
「いや、智夏の言う通り、僕の制止を無視して、本を開いたモモがいけないよ」
「オー でもモモちゃんは、どうしても読みたくなったのでしょ。やっぱり、私の責任でぇーす」
エレベーターが九階に着いた。
「今、責任はどうでもいいのよ。モモを助けなきゃ」
智夏は自室に入り、エクソシストが居るだろうリビングのドアを開けた。
銀髪の少女がソファーで寝ているのが見えた。
「セイラ起きて!」
智夏が揺さぶると、セイラは寝ぼけ
「どうしましたクラハシさん? ・・・ごはんですか?」
銀髪の少女は、目をこすりながら、身体を起こした。
「あなたの力を貸して欲しいの」
「・・・・・」
まだ寝ぼけているのか、智夏とエミリの顔を交互に見た。
「私の友人が、悪魔に憑りつかれたの!」
悪魔という言葉でスイッチが入ったのか、セイラはゆっくりと立ち上がった。
「話を聞かせてください」
小声でぼそぼそとした返答だが、目には強い光がみえた。
智夏はまず、勇者ミリカとコリコを紹介した。
智夏は図書室の結界の事、危険な本をモモが持ち帰り開いた事。そして、モモが魔法少女である事伝えた。
「モモさんの状態はどうでしたか?」
陰陽少女は自分が見た光景を話す。
「クラハシさん。あなたは悪魔と会話をしましたか?」
「いえ、声を掛けただけで、吹き飛ばされたから」
「それは良かった」
「???」
セイラは自分の鞄を持ってきて、中から十字架のネックレスを取り出すと、
首を傾げる智夏達にかけていった。
「んー あなたに合うクロスがないわ。あなたにはこれで」
智夏の肩に乗るコリコにキスをした
「主の祝福があらん事を」
コリコは抵抗する事なく、祝福を受け止めた。
「皆さん聞いてください。 悪魔と会話してはいけません」
「・・・・?」
「悪魔は一言一言の会話で相手の深層意識にある物を探り当てます。恐らくモモさんもそれで憑りつかれたのでしょう」
「じゃあ、鬼に憑かれ時のように、呪術で追い払える?」
銀髪の少女は首を静かに振った。
「悪魔は身体に憑くのではなく、精神に憑くのです。呪術ではモモさんの身体を傷つけるだけです」
「じゃあ、エクソシズムはどうやって?」
自分が今まで極めてきた呪術が使えないと聞き、焦る智夏。項垂れて、かけられたクロスを見つめた。
「モモさんと、悪魔を引き離します」
「できるの?」
「悪魔は自分の名前、正体を知られるのを拒みます。まずはそこからです」
「でも、会話がーできないのでしたらー、どうするのでぇすっか?」
「それが私の仕事です」
セイラはエクソシストとしての顔を皆に向け、力強く頷いた。
「私に、何か出来る事、ありまっすかー」
モモの家の前で、私も協力したいと、ミリカが申し出た。
結界を切った事が、発端というのを気にしているのだろう。
「ええー 私に考えがあります。合図をしたら聖剣を召喚して下さい」
「わかりましたー」
「それと、聖剣の事を、悪魔に気付かれないように」
「yes」
ミリカは、自分のも出来る事があると聞き、嬉しそうに微笑んだ。
「私は何をすればよいの?」
いつも自分で妖を退治してきた陰陽少女は、勝手が違う相手と退魔法に、戸惑い気味なのだろう、らしくない弱気な顔を見せる。
「クラハシさんは、モモさんと一番関係が深いです」
「そうなるわね」
「モモさんを助ける一番の鍵になります」
「・・・」
「でも、それだけ一番のウィークポイントともいえます」
智夏はセイラの目を見続ける。そんな彼女の肩に手を添え、セイラは笑みを浮かべる。
「決して、悪魔の言葉、言動に惑わされないでください」
それだけ言うと、セイラはモモの家の玄関を開けた。
セイラを先頭に、智夏(肩の上にコリコ)、ミリカの順で階段を登っていく。
部屋の前でセイラは皆を見た。智夏とエミリは力強く頷いた。
セイラは
「モモさん、初めまして」
にこやかに、笑顔を振りまきながら、セイラは部屋の中に入っていった。
先程の緊張感を吹き飛ばす、セイラの行動にどう対処していいのかわからない智夏達は、とりあえず後に続いた。
モモは警戒をしているのか、仰向けの状態のままで、首だけを動かした。
「お休みですか? モモさん」
グー ウーーーーーーー ウェーーーーーーーーーー
モモが白い息を吐きながら、呻いた。
「暗いので電気を点けますね。 後、身体は馴染みましたか?」
自然な仕草でベッドに近づき、顔を覗き込んだ。
『ガハハハ お前は 何だ』
モモが喋った。だがモモの声ではない。地の底から聞こえてくるような声。いや、空気を震わせるような声と表現したほうが良いだろうか、耳で聞いているのか、頭に直接響いてくるのか分らない声だ。
「分ってるでしょ」
モモの荒れた顔に、自分の顔を近づけた。
『エクソシストか ガハハハハ 』
「そう」
『この身体はいごごちがいいぜ』
「そのわりには、まだ支配できてないわね」
『時間の問題だ ガーーー ぺッ! 』
悪魔はセイラの頬に唾を飛ばした。
「可愛い女の子が唾を吐いたらダメです」
セイラはハンカチを取り出し、唾を拭った。
「唾のお返しにこちらを浴びせましょう」
エクソシストの少女は、小瓶を取り出し蓋を開ける。マネキュア瓶位の大きさで、蓋にブラシのような物が付いていた。
「神と精霊の名の下に、悪魔を追い出さん」
セイラは液体がしみ込んだブラシを、モモに向かって振り下ろす。
液体が蛍光灯の光を反射してか、虹色の光跡を残しながらモモに降りかかった。
『 ギャウーーーーー ギギギ 』
モモがベットの上で悶え、悲鳴を上げる。
「神はきさまを許さない。今すぐ、その身体から出ていきなさい」
再び、瓶の液体を浴びせる。
『グググーーー 聖水か そんなもの効かぬわーーーーー』
モモが白目を剥きながら起き上がり、セイラに襲いかかった。
智夏が素早く反応して、モモの腕をとり、後ろ手に回す。普通なら、痛さで顔をゆがめる体制だが、モモは唇をつり上げ笑っていた。
『・・グルル 何だお前は シューシュー 』
「モモから出ていけ!」
掴んだ腕に力を込める。
『 腕を折るか 折ればいい それ、後少しひねれば折れるぞ ガハハハ ハハハハ 』
白目を剥いたまま、裂けた口でモモが笑った。
唾液が床にこぼれる。口が裂けているせいか、赤い色が混じっている。
「クラハシさん。モモさんをベットに寝かせてください」
智夏は指示通りベッドに押し倒す形で、モモを寝かせた。
「ミリカさん、モモさんの手足をベッドに固定してください」
ミリカがモモの手足を、ベッドの四方を利用して縄で縛った。
モモは万歳をしている姿勢で、足はやや広げ気味にベッドへ固定された。
『智夏よ、そのまま押し倒して、この娘を犯せばよかったのに』
「クラハシさん、耳を傾けてはいけません」
『 ガハハハ この娘はお前の指で秘部をかきまわされるのを望んでるだぞ それ、いいぐわいに濡れておるぞ ガハハハ 』
モモが縛られた状態で、腰を浮かせた。ロングTシャツがはだけ、下着を着けていなかったのか、秘部が露わになった。
智夏はモモに近づき、はだけたTシャツを直した。
「モモをそれ以上侮辱したら、許さない」
『 何を許さないのだ グワハハハハハ 』
「クラハシさん、下がってください」
悪魔の挑発にのりかけた智夏をセイラが押さえた。彼女は、ミリカに目配せをして、智夏を後ろに下がらせた。そしてエクソシストは再び悪魔の前に立った。
「神の御慈悲を、懐胎の秘跡。苦しみ、死、復活、昇天の秘跡によりて、私はお前に命じる、名を名乗れ」
聖水を浴びせ、祈祷書を読み上げる。
『 グゥーーーーーーー ガァァァーーーーー 』
モモがベッドで腰をくねらせながら悶える。
『むだだ こいつは・おれにたよって・・きた おれのしんじゃだ・・・ おれのしもべだ こい・つのたましいを しゃぶりつくしてやるーーーーー ワハハハ ハハハハハ・・・・・・ 』
悶え、苦しみながらも、モモは高らかに笑った。白目を剥いて笑いながら、聖水の効果か、モモは意識を失い瞼を閉じた。
セイラは額の汗をぬぐい、手近の椅子に腰を掛ける。
ミリカは、震えながらその場にしゃがみ込んだ。
智夏はモモに近づき、心配げにツインテールの髪をなでる。コリコがモモの肩から降り枕元に鎮座した。
寿命なのか、蛍光灯が点滅した後、部屋の明かりがなくなった。
月明りだけがが差し込む部屋は、陰陽少女に長い夜を告げているように思われた。
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