ツギノ
第17話 次の村が見えてきた
「おんぶ」
「もう下りに入ってるんだから我慢してよ。ここ抜けたらツギノに着くはずだから」
「おんぶ!」
「ああ! もう分かったよ。はい」
しゃがみ、マホちゃんが背中に乗るのを待つ。
重さを感じる。
丸みを帯びている箇所があるものの、全体的に骨ばっている。
「もう少し付くべき所に肉が付いていれば気持ち良い…痛い!」
ゼロ距離に来られるとすぐに攻撃され、ろくにからかう事も出来ない。
荷物ばかりが増え、楽しい事が一つもない。
おんぶするメリットがまるでない。
「やっぱり降ろして良い?」
「いいから早くしなさいよ。ツギノはもうすぐなんでしょ?」
何だこれ。
めっちゃ腹立つ。
「俺よりもむしろカクさんにおぶってもらうべきなんじゃないの? つーか荷物入れにでも入れば痛っ」
現在、ハジマーリとツギノを結ぶ山道を越えようとしていた。
丘とまでは行かないけど、山と胸を張って言えるかと言われると少し間が空く、そんな程度ものだったのだが、生まれて初めての野宿をした後のマホちゃんには厳しいものがあったらしい。
まず山頂に着こうかという所から不機嫌になり始めた。
山頂に着き、休憩がてら食べようとした軽食は俺とカクさんの分まで一人で平らげた。
挙句、おんぶを要求して歩きたくないとごね始める始末。
正直、マホちゃんはそこまで重くはないからおんぶをする分については良い。
しかし、おんぶをするのであればそのご褒美くらいあっても良いように思う。
例えば柔らかく、弾力のある感触を楽しむとか。
例えば面白い話の一つでも話してくれるとか。
現実はどうだ。
マホちゃんはまだ発展途上でそんな感触を楽しむ事はおろか、口を開けば俺をディスるような事しか言わない上にすぐに殴りかかってくる。
この先、旅を続ける事が出来るのか心配になって来た。
「ツギノに着いたら覚えておけよ…」
「何か言った?」
「なんでもなーい」
こうなったら村に着くまで無心で無言で歩くしかない。
強靭な精神力を養う修行だと思おう。
「ちょっと。面白い話でもしてよ」
だから!
「…」
ふう。
落ち着け。
修行。
これは修行だ。
決して口を開いてはいけない。
「ねえってば。ねえねえ」
マホちゃんは俺の背中にいる事を良い事にぽかぽかと頭を叩いてくる。
この野郎。
可愛い顔してるからって何でも許されると思ってんじゃないだろうな。
「ねえねえ」
「ふう」
「え、立ち止まってどうしたの? 歩かないと」
「いい加減にしろーいっ!」
我慢ならず遂にマホちゃんを投げ飛ばしてしまった。
「いでっ」
一瞬、宙を舞ったマホちゃんは綺麗に尻餅をつく。
「何すんのよっ!」
「むしゃくしゃしてやった。悪いとは思ってない」
人の飯を食って、都合が悪くなると殴りかかる。
そんな理不尽にこれまで耐えてきたんだ。
きっと許される。
「あんたそれでも勇者か!」
「勇者だよ? だけどそれ以前に人間だ。腹も立つ事だってある。人の飯を勝手に食べて、すぐに殴りかかってくる人間を投げ飛ばす事だってするかもしれない」
「地面を床にして寝て体調が悪いのよ。少しは労わりなさいよ」
「昨日と今朝にあんだけウォーウルフの肉を食べておいてよく言うよ。あれで宿代稼ぐ予定だったのに、それをがつがつ食べてんだから、少しは我慢しろよ」
「うぐっ…ぐぬぬ…うーん…うん。そうね。私が悪かったかも」
「よし許す」
素直な所がマホちゃんの良い所だと思う。
ここで逆上でもされたら土に埋めてたぜ。
「だけど私を投げ飛ばすとかあり得ないからね。勇者の分のご飯を取った事とかは謝らないわよ。おあいこ。良い? カクはごめん。私が大人げなかった」
「…」
ぐぬぬ。
いい加減ぶん殴ってやろうかと思ったその時、カクさんが肩を叩いてきた。
「何だよ」
大人になれよとか言うんじゃないだろうな。
しかし、カクさんは俺の気持ちをまるで無視し、あくまでマイペースにあちらの方を指差した。
見ると拓けた場所が木々の合間から見える。
そしてちらほらと建物らしき物も見えた。
「あ、村だ」
「ホント! ねえ、早く行こっ!」
さっきまでの不機嫌さはどこに行ったのか、ご機嫌なマホちゃんが軽やかに走り出した。
「うわぁ…全然疲れてないじゃん」
何だろう。
どっと疲れてきた。
溜息。
カクさんが再び俺の肩を叩く。
「ああ。俺達も行こうぜ。マホちゃん待ってー」
マホちゃんの背中を見ながら、歩き出す。
各々好き勝手にやりながら最終的に一つにまとまっていく。
これが俺達のスタイルなのかもしれない。
たたたと走りながら時折後ろを振り返るマホちゃんの仕草を堪能しながらしばらく歩くとツギノが目の前にやって来た。
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