第80話

そんな私が意を決して電話したのは行野は行野でも、拓真じゃないし、あゆちゃんでもない。連絡先を知っていたのも奇跡に近い最後の一人だ。今どきのSNS社会に、初めて感謝した。

「もしもし…。コタくん?今家?」

「いや、今出先で…。なんか兄貴に用ですか?」

「お、察しがいいね。コタ君、どれくらいで家に帰る?」

「20分くらいですかね…。」

それならちょうどいい。うちから、拓真の店には、急いでも15分はかかる。

「悪いんだけど、コタ君帰ったときに拓真空いたら連絡もらえる?」

私は電話を掛ける片手間で、出かける支度をする。

「別にいいっすけど、そんな面倒なことしなくても…つーか俺じゃなくてあゆに言えば良いじゃないですか。それか、店に来るか。」

「それじゃダメなの。」

なぜかはわからないけれど、彼女ではなく、彼を頼ろうと私の直感が訴えかけていた。理由なんて話せたものではない。

「まあ、わかりました…。と、いうか、それ無理にでも兄貴をよこせ、ってことですよね、つぐなサン。」

「そういうこと。」

あゆちゃんとも拓真とも、この子の察し方は違う。二人の影に隠れがちだが、この子は多分、兄弟の中で一番周りを見た、気遣い屋だ。

「ありがとうね。コタ君。」

「兄貴にはつぐなサンだって言わないほうがいいですか?」

「言わないで済むならね。でも、無理だったらいいわ。」

「了解しました。」

コタ君との通話を切って、スマホをポケットに押し込む。

財布と最低限の荷物だけを入れた、バッグを持ち、階段を下りる。

「亜哉!出かけてくる!」

「ハイハイ。弦さんと怜那さんには言っとくよ。」

奥から返ってきた亜哉の言葉に、両親のことをそうやって呼ぶんじゃない、と突っ込むことすら放棄して、私は外に飛び出した。

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