第70話

「意気地なし。」

「うるさいわ、亜哉。」

家に帰ってきた拓真は早々に文句を言う。

「聞いたよ、あゆちゃんから。拓真さん見たこともないくらいだってさ。」

「あんた優里からあゆちゃんに乗り換えたわけ?私的には優里よりあゆちゃんのほうが好きだけれど、お前にはもったいないわ。」

「俺は優里ちゃん一筋だし、今回連絡くれたのは、彼女。そういうのはいいの、姉ちゃん。」

今回の亜哉はどうも冷静らしい。人の話を聞いてくれはしない。

「放っておいて。姉の恋愛に口を突っ込むのは流石にどうかと思うわ。」

「うん。俺一言いいに来ただけだから。」

そう言って本当に亜哉はいなくなる。うっとおしいのがいなくなって安心した半面、どうしようもない感情のやり場にも困る。

あの後、私たちの空白を遮ったのは、祐輔君からの着信だった。

>行野…さすがに最初から最後までいないのはまずいわ…。

時計をふと見ると、授業終了10分前。そろそろ戻らないといくら長谷部でも無断欠席は免れないだろう。30分以上も話し込んでいたつもりはなかったのだが。

「ほら、行かないと!」

渋る拓真が、一度困惑した瞬間に、たたっと私は走った。

おそらく祐輔君は締められたのだろう。恨み言のLINEが私のケータイに入っていた。だが、どこか元気がなかった彼を心配する言葉も含まれていたのだ。

「拓真にとって私は…。」

拓真の言葉は嘘ではないのだろう。

それでも、私は千葉さんの存在をどうしても許せなかったのだ。

愚かで情けなくて格好悪い。

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