第53話
亜哉と連れ立って家路を歩く。
「姉ちゃん、今の人彼氏?どう考えてもつぐ姉には勿体無さすぎるんだけど。カッコイイし、優しそうじゃん。」
「あれで性格悪いのよ。」
ため息をつきながら亜哉に告げる。
「でも、姉ちゃんのタイプだよね。細くて、優しそうで、でもちょっと意地悪そうで。」
小さく亜哉の頭をはたく。でも、こいつ多少見抜いてやがる。
「なんで、姉ちゃんのタイプを知ったふりするの。」
「姉ちゃんの好きな役者見てればわかるよ。同じタイプばっかりだもん。漫画でもね。」
「あ、優里。」
「え。」
苛立ったので、遠くに見えた優里をさす。大方コンビニ帰りだろう。優里とは幼馴染と言えるほどではないが、小学校に上がる前から知ってる昔馴染みではある。したがって家も近い。最も、今でも関係が少しばかり濃いのは、このバカな弟のせいなのだが。
「優里ちゃん!!」
亜哉にぶんぶん振ってるしっぽが見えるように、優里のことを呼ぶ。本当は会いたくはなかったが、亜哉が優里のことになると周りが見えなくなるのはわかり切っていた。それなのに、優里の名前を出した自分が悪いのだと諦めることしか出来なかった。優里に惚れているこいつのせいで、無駄な苦労を強いられることは初めてではない。
優里は昔々から亜哉の気持ちを知りつつ、まんざらでもなく無視する。そういう意味では、優里に対して姉として少し複雑に感じている。
「アヤくん。つぐな。」
「優里ちゃん、コンビニ帰り?」
まだまだ尻尾と耳が引っ込む様子はない。ぶんぶん振ってる。
「ええ、なんか急にアイス食べたくて。つぐなとアヤ君も食べる?」
そう言って持っていたビニール袋をあさってチョコとバニラをよこす。どうせ大した額でもない。遠慮せずに、私はバニラを優里から受け取る。亜哉はどうせ優里から貰えるなら、たとえサソリでも喜んで受け取るだろう。遠慮なく、自分の好みを取る。優里は好きな抹茶が溶けるのが嫌だったんだろう、食べ始める。
「ありがと。」
「珍しいわね。つぐなとアヤくんが一緒にいるなんて。」
「そこで会っただけですよ。」
この弟は、私が愛称のアヤと呼ぶと怒るくせに、優里に呼ばれても嬉しそうに返事をする。それほど呼びたいわけではないけれど、腹が立つ。
「私お風呂入りたいし、帰るよ。アヤ。」
嫌味のようにアヤと呼ぶと、優里にばれないように亜哉はこっちをにらみつけてくる。
「あ、ちょっと待ってよ!つぐな!」
優里は、もう少しゆっくり話せると思っていたのだろう。当たり前だ、自分にベタぼれの亜哉がそこにいるのだから。この機会に私を問い詰めるつもりだったんだろう。
亜哉もそうするつもりだったのがありありで不満です、という顔を隠そうとはしない。でも、ここで亜哉を置いていってまた余計なことを言われたら、たまったもんじゃない。無理にでも連れ帰る。
「待ってよ。話があるのよ。」
「学校でいいじゃない。」
「学校じゃつぐな逃げるじゃない…。」
優里の言葉は至極まっとう。ただ、私にとってはだから何だ、という話だ。
「綾乃先輩の手紙を読んだよ。」
その言葉を言われてしまっては止まらざるを得ない。歩き出した足を渋々止める。
「綾乃先輩は何も語らなかった。そこにあったのは、私たちへの叱責と、謝罪。それと、つぐなを責めるな、という言葉だった。…真実はなかったけれど、綾乃先輩が真実を知っていることはよくわかったし、多分、みんな真実をつかんだ。もちろん私も。…綾乃先輩に叱られて当然ね。」
私は黙って、優里を見つめる。
「ごめんなさい。つぐな。私は何も気づいていなかった。ううん。気付いていたのに、気づかなかったふりをして。あなたを責めた。」
「優里。」
涙を流しそうな優里の大きな瞳をじっと見つめる。
「あなたたちがつかんだ、真実が何かは知らない。いや、どうでもいい。でも、後輩に枷だけはかけないで上げて。私のかけた呪いも解けるのなら解いてあげて。」
優里は何も答えない。…答えられないのだろう。
「行くよ、亜哉。」
まだ、どうしたらいいのかわからない、といった様子の亜哉に声をかけて歩き出す。
「ゴメンね、優里ちゃん。僕は状況とかよくわからないけれど、つぐ姉はこうと決めたら頑固で、絶対に譲らないから。」
後ろで、亜哉が言い訳をしているのが分かった。
「亜哉!」
亜哉を引きはがすために、怒気をにじませた声で、弟の名前を呼ぶ。
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