第46話

「拓真。」

「偶然だな。」

「…。」

荷物を取りに帰った教室の前の廊下、嘘つきの拓真を問い詰めることはせずに、寄る。

「帰らないの?」

「帰るよ。ちょっと先生に問い詰められてたからついでにつぐ待ってただけ。」

ほら、こうしてすぐに白状する。そしてこの感じだと誰かに話をしたかったのだろう。偶然が嘘なことなんて最初からわかっていた。

「問い詰められてたって?」

「大学行かないで専門行くって話。ほら、俺成績いいから。正直少し参ってる。」

「そこまでよくはないでしょ?私とたいして変わらないんだから。」

お茶らけているが、彼にとってはそこそこ真剣な問題のはずだ。

「つまりは、中堅大学合格レベル。この高校じゃ進学率の向上のために、受験を求められるレベル。できれば、もう一段階上に挑戦して、あわよくば合格してくれってとこなんだから。ものすごく残念そうな顔をされた。家を無理に継ぐ必要はないまで言われちゃった。」

拓真は苦笑しながらも、少しだけダメージを食らったような表情をしている。きっと背を押してほしいのだろう。

「でも、止められないし、変える気もないんでしょ?」

「当たり前。家がどうとかじゃなくて、小さい時からの俺の夢だから。…三兄妹仲がいいとは言わないけれど、あの店が好きなのは三人一緒。だから俺もあゆもコタも時間があれば店を手伝う。三人得意なことは違うけれど、それでいいと思ってる。それがいいと思ってる。」

「仲良いと思うけどね…。揺らぐつもりもないんだから、堂々としてればいいんだよ。」

私としては、それだけ幼い頃から揺らがない夢を持てる拓真が羨ましい。兄弟で息があっているのも。

「つぐは?」

ひとしきり話して楽になったのか、私に問い返してくる。そして正直そこは痛い。

「…全然決まってない。」

とりあえずは拓真の言う中堅大学を志望校としている。そこは、コータが志望する灯さんのいる大学だが、コータのように開き直って”行きたい学部もあるし、何より灯さんがいるから!”と言いきって、灯さんに苦笑されるようなこともできはしない。

あの二人はほんの少しだけ依存関係にある。二人ともちゃんと自分の足で立っているけれど、自分の価値を確かめるのに、お互いを必要としている、といった感じだ。二人とも自分に少しだけ自信のないどうしようもない人だということを最近私は知った。最もコータは自信家のくせにヘタレでネガティブで、灯さんは謙虚なだけ、という違いはあるけれど。

「そっか…。」

「決まってるあんたのほうがレアなのよ。」

拓真に八つ当たりに近い文句を言う。

「はは、そーだな。」

拓真はそれを承知の上で笑って流してくれる。

「とりあえず大学に進学してみるのも一つの手なのかもしれないな。俺は一つに決めちゃったけど。つぐは別に勉強嫌いじゃないでしょ。」

「まあ、興味のある学問ならね。」

「結構その範囲広い癖に。」

まぜっかえす拓真に軽くパンチを食らわせる。

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