第44話

どれだけの時間がたったのだろう。

私はすっと立ち上がって、机の上に置いていた封筒を手に取る。

「ありがとうね。拓真…。後輩ともども迷惑をかけた。タキたちにはちゃんと私から声をかけるよ。」

私が素直に受け取ったことに、安心したのだろう。拓真は小さく笑って

「それがいいよ。お前にとって綾乃サンが変わらず先輩なのと同じように、あの子たちにとっては、お前は変わらずに先輩なんだ。お前の思惑をわからない分だけ、きっと純粋に。」

「いつの間に、あんたはそんなに優しくなったのよ。大体まともに先輩してないあんたに言われたくないわ。」

私の皮肉を笑って受け止める。

「お前と一緒にいると優しくならなきゃいけない気がするのかもな。ほら、俺あゆにはいい兄だろ?」

「ほざいてろ。コタ君にもいい兄でいてやればいいのに。」

暴言を軽く吐いて笑った。

「あいつ男だもん。」

拓真は徹底したフェミニストなのか、妹にまで及ぶ女好きなのかわからない。

「あなたの決めてくれたモラトリアム、大切に過ごさせてね。…拓真と私にこんな言葉は似合わないかもしれないけれど。」

拓真は首をふって

「もともと俺にもお前にも純粋な色恋沙汰なんて似合わないんだ。今更気にするな。」

「…それもそうね。あんたは顔で女をだまくらかすし、私のツラじゃ恋なんて似合わないからね。」

「ひっどい言いぐさ。」

「事実じゃない。」

拓真は肯定も否定もしなかった。ただその代わりのように

「じゃあ、また明日な。つぐ。」

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