第32話

「女の相談ってやつは、みんな答えが出ているか、頭を整理したいかそのどちらかよ。だから思いついた順でいい、話しなさい。」

ナツミさんはただ優しい人ではない。とても冷静な人だ。

私は巧さんが持ってきてくれたリクエスト通りの甘い紅茶を一口飲む。

「私、彼のことが好きだったんです…。知り尽くしたなんておこがましいことは言わないけれど、彼の悪いところも知ってて…。他の女の子より近かったのは、うぬぼれじゃなく、事実だと思います。愛してるんです。私は彼のことを、たとえ彼が世界を滅ぼそうとしても愛している自信がある。」

「そりゃ、また、あくどいことで…。」

ナツミさんはなんとも言えない複雑な表情で私を見つめる。

「だけど、私はそんな彼にエゴをぶつけてしまった…。トラブル回避のためとはいえど、恋人ごっこを頼むなんて…。」

私は自嘲するように笑う。

「自分でもバカだったと思います…。でも、彼は冷たいし、自己中だし。こんなこと頼んだらきっと私は彼のことを嫌いになってしまうと思ってました。」

「でも、違ったのね?」

ナツミさんは穏やかな瞳で、私に問いかける。

「ハイ…。彼は優しかった。でも、その優しさを初めてもらった私は、逆に彼の中で他の女の子と同じ位置になってしまった気がした…。それがひどく情けなくて、でも終わりの日にそのまま終わるのも嫌で、私を彼の中の特別にしてほしかった。前に彼が言ったみたいに妹じゃなくて。…ほんとは黙ってるべきだったんだと思います。黙っていれば、こんなわけのわからないことを頼んだ女として覚えていてもらえたんだから。」

「それでも言わずにはいられなかった?」

ナツミさんが穏やかながらそっぽを向いてしまう。

「ハイ。…少しだけ後悔してます。」

「なんで?」

「彼のことが今でも好きだから、愛してるから。彼に嫌われたくないし、彼の枷になりたくない。でも、彼に私のことを覚えていてほしいから。こんな無茶苦茶なことを想ってるから。」

それはすごくわがままな願いだと思う。それでも願わないことはできなかった。

「…つぐな。ユキの好きなところは?」

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