第20話

日々、平和と危険の合間を縫うスリルある生活を送っていたら、あっという間に、綾乃サンたちの卒業式が来てしまった。この日だけは拓真に逃げることもできず、逃げるわけにもいかず、ある意味勝負の日だった。

当然一コ下だから出席はするけれど、立場上堂々と顔を合わせることはできない。ただ、綾乃サンをはじめ、先輩たちは、私にとって恩義のある人たちなので、何も言わずにいなくなるのはさすがに気がとがめるし、嫌だった。

昔馴染みで、弟の亜哉のせいでまだギリ交流の途絶えない優里から寄せ書きの要請と、花代を募ってきていたが、こちらもけじめがあるので、花代と手紙を亜哉軽油で優里に託させてもらった。優里は複雑な顔をしながらも、何も言わず受け取っていた、と亜哉は言っていた。

私は数少ない先輩方の姿を見つけ、周りに部の子の姿が見えないことを確認して声をかける。

「綾乃サン!礼美サン!芽依サン!」

「…つぐな!」

私の姿を見て驚いたように目を見開く。

「すみません、お忙しいところ…。」

「いや、ちょうど後輩のところに行くつもりだったからいいけど…。」

「まあ、知っての通り、私彼女たちに合わせる顔がないので。」

そう私が苦笑すると

「全部、知ってる。」

礼美サンはそう言った。

「え?」

どういうことだ?

「綾乃が全部教えてくれた。」

「綾乃サン…。」

私は綾乃サンを見つめる。

「言ったでしょう。それくらいの甲斐性はあるって。それに私は同期たちに言わないなんて約束してないわ。」

「むしろ礼美達があんたに謝らなきゃいけないわ…。礼美たちは、あんたに何もしてあげられなかった。」

「いえ、全部私のわがままですから…。」

「それでもあの子たちはあんたのわがままくらい受け止められるようにならなきゃいけなかった。そうでなければいけなかった。」

「芽依サン…。」

「あんたの意見は当然よ。その状況での舞奈は誰もがノーペナルティで受け入れていい存在じゃなかった。ましてや、あの子のそのあとの言動を見ててもね。」

「…。」

何も言葉を継ぐことは出来なかった。

「だから、先輩として謝らせて。」

頭を下げようとする先輩方に慌てる。

「やめてください…。先輩たちの門出の日に…。」

「じゃあ、つぐな…あんたも泣くな。私たちを笑顔で送りなさい。不甲斐ない私たちを。不甲斐ないまま、今からあの子たちのもとに行く私たちを。」

「…はい。」

私は、顔をあげた。

「今まで、ありがとうございました。私は先輩方に多くのことを教えてもらいました。本当に感謝しています。願わくば、私も先輩たちの後輩でありたいです。」

私は、みんなより一足先に先輩たちを独占して、感謝を告げる。それが、自らを不甲斐ないといった先輩たちへの答えだった。

「こちらこそ。あなたの存在は私たちにとって、とても大きなものだった。あなたという存在は、あの子たちと同じように大切なものよ。だから、つぐな。私たちの後輩でいてください。」

「はい。」

私は笑顔で答えた。

「じゃあ、行くわね。あの子たちも待たせてることだし…。」

「はい。先輩たちのご多幸を祈っております。」

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