第15話 僕は認めたくないのですが、正当な魔女っ娘です

「何というか、私が召喚しておいてなんだとは思うけれども規格外ね女神様」

「うむ、私としてもチートという言葉を告げても仕方のないものだと思う」

「私も流石というべきか、何というか。大魔王として実は元の世界でも大暴れしたんだけど、あの女神様の魔術に良くやられたわ」

 うん、ほめられているんだと思うけれどもどこか引っ掛かりがあるように感じられるのは気のせいだろうか。

 特に芽衣子の言葉の端々には苦々しいものがあるのだが、仕方ないと思わないといけないと思う。むしろ反省をしていないのが驚きだ。


『私を無視しないでよ! あと、あなたの後ろにいるバカップルもどうにかしなさい。キーッくやしいわっ』


 僕の後ろでコンラート殿下とソニアさんが抱き合っている。

 二人とも気絶はしていないようだが、桃色空間が出来上がっているのは僕としても気にはなっている。

 

「いやそのだね」

「で、殿下。私をかばうなどとはいけません」

「だが、それでは男が廃るというか。ここは私に任せて」

「いいえ、私は殿下の親衛隊です。役目を果たすことが出来ないなど、騎士としての恥なのです!」

「しかし」

 二人とも抱き合うような姿で繰り返す姿は絵にはなるけれども、今の時点ではやめてほしい。

 うん、リア充死ね。


『その張り付いたような笑顔。仮面のような表情は私と同じ事を考えていたわね』


 僕の考えていることを読むなと突っ込みたいところだけれども、これだけは仕方ないような気がする。

 後ろの二人のいちゃコラはわかりやすいくらいに独り身には目の毒、耳の毒、心の毒。血の涙を流したくなるくらいに仲が睦まじくて足蹴にしたくなる。


 僕は思わず溜息をつく。

「あーあもう。しっかりしてください殿下」

「と、とりあえずだ。赤竜よ。私に倒されよ」

「そうです。殿下に倒されてください。そして、ドラゴンスレイヤーとしての名声を」

 バカップルが気付いて、立ち上がる。


『邪魔よ』


 赤竜が鎖のような尻尾で二人を振り払おうとする。


「忘れてもらっちゃ困る」

 格子状のフルフェイスの仮面の鎧をきた鉄の騎士が細腕ながらも尻尾を受け止めた。


『出鱈目な力のゴーレム。しかも鉄格子で出来ているとか有り得ないわね』

「ほめ言葉どうも。僕にはこれしかないのですよ」

「しかも格好が派手派手な魔法少女」


「魔女っ娘です」


『でも、その格好は』

「ふざけるなよ」


 魔法少女は邪道だ。魔女というのがあまりよろしくないイメージだからって気付けば魔法少女と言う名前が定着し、魔女である筈の者達が魔法少女と言う詭弁。何て酷いことだ。

 もう、これだけでも嫌だと言うのに魔女と魔法少女は同じだと言うのに、魔女は悪のイメージだから敵というよりも禍々しいものだというイメージがついてしまった。確かに大昔には魔女というのは邪悪なものであったが、それは限りなく払拭されたと言うのに世間様は理解してくれない。

 何故だろうか。

 ああ、この竜でさえも同じことを思うのか。

 最低である。


「ああ、やっちゃったね」

「何アレ、ものすごく怖いんだけど。ミズキが物凄い勢いでブツブツ言っているんだけど。あれ、凄い怖いんだけど」

「ルディアさん、美少女否定されたらどう思う?」

「うーん、そうねえ、ムカツク。あと、奇声を上げて襲い掛かる」

「何か凄く物騒なことを言っているけれども、まあわかりやすく言えばそんな感じ」

「魔女っ娘と魔法少女にはこだわりがあるとかそんな感じ?」

「そういうこと。で、それについて適当なことを言うとプッツンしちゃう」

 失敬な。僕は勘違いが許せないだけだ。


『は? 魔法少女と魔女っ娘? 同じと言うか、魔女って古いとか悪いってつくわよね』


「あ゛あ゛ん? 同じだと?」

 正しいことを正しいと認めない。それは最低なことだという事を知らないのか。

 そうか、この大元のアンリさんが知らない。これは彼女も教育しなくては。


「あの、芽衣子君。私の背筋に途轍もない寒気が走ったのだが、何故だろうか。あと、ミズキと目が合った瞬間、殺意とは違うものの、似たようなものを向けられたような気がする。気のせいだと強く思いたいのだが、否定が出来なくてとても困っている」

「南無」

「合掌とか、もう不吉そのものでしかないッ!」

 涙目になっても遅い。


「さあ、ラストワルツを踊りましょう」


 ギシリと赤竜の前に鉄のゴーレムは立つ。

 その姿は不恰好ながらも勇壮であり、まさにドラゴンスレイヤーとしての姿を示す女神を守る騎士のようだ。


『ふ、ふんっ。そんな即席のゴーレムが勝てるのかしら』

「勝てるよ。そんなことは決まっている」


「何故なら、私を倒しているから」

 僕の台詞をとらない。あと涙目で偉そうなことを言われても格好がつかない。


『ふざけないで!』

 激昂した赤竜は再び火を吐こうとするが、無駄だ。

 赤熱した鉄の騎士はそのまま、突っ込んでいく。

 さらに赤竜の前脚をつかみ、ぶん回そうとするが、流石に竜は後ろに羽ばたき、それを避ける。


『隙だらけよ!』

 何て、ことを吐き出すのは負けフラグ。

 格子状のフェイスガードの一本が抜けて、右目につき刺さる。

 悲鳴を上げる赤竜。


「あれ、物凄く痛そう。外道の行いね」

「魔王が言うことじゃないでしょ」

「そりゃ悪うござんした」

 

『余所見とか余裕ねえッ』


 赤竜が片目を抑えながらも空に飛び、僕に襲いかかろうとしている。


「僕は怒っているんだ」

 しかし、鉄の騎士はその不意の羽ばたきの迎撃についても余裕だった。

 優雅に左手の形を剣の形に変える。


『空に飛んでいるのに、それはないでしょう』

「本当に?」

 剣が大砲と化して空へと射出される。


『え? そんなのありなの』

 剣の一撃は赤竜の喉笛を貫いた。

 赤竜の巨体は山の麓に落ちていった。

 ズドンという地震が起きたような衝撃が当たりに響き渡り、ドラゴンが倒されたと言うのがこれでもかとばかりに証明されるような音が鳴り響く。


「僕は認めたくないのですが、正当な魔女っ娘です」






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