余話 とある館にて…


――とある館の応接間。その応接間は、20畳はありそうなほど広く、それなりに名の知れた貴族の館であろうことが窺える。


 そこでは歳若く聡明そうな少女と、正反対に粗野で乱暴を体現したような大男が机を挟み、相対していた。


「――では、目的の3人は取り逃がした、と言うことですね」


 少女は紅茶が注がれたティーカップを傾けながら、酷く冷めた声色で話す。


 対して男はあっけらかんと、少女の冷めた視線などものともせずに答える。


「いやぁ、申し訳ねぇ。まさか森に逃げ込むとは思わなくてな。ただ、あの状況だ。2人とも生きてはいられまいよ」


「あなた個人の意見など聞いていません。そんな中途半端なこと、依頼に出した覚えはありませんよ?」


 少女はカップを置き、眼を細める。相手を射殺さんばかりの鋭さで、男を睨みつけた。


「そう言わねぇでくださいよ。あの状況で、こちらに取れる手立ては限られていた。そこらへん、考慮していただきたいものですがね」


「くだらない問答は不要です。結果を出しなさい。当主の方はどうなっているのです?」


 言い訳じみた男の言い分をバッサリと切り捨て、要求を叩きつける。


「男の方は、ある程度の目星はついてます。数日中には決着ケリ、つけますよ。しかし、天下のマグナー商会当主を暗殺とは……。それほどまでに、得たい物でもあるんですかねぇ?」


「…………」


 男が、チラリ、と少女を見ながら最後の言葉を付け加える。だが、少女が答えることは無い。


 返答の代わりとでも言うように、少女は少し乱暴にカップを机に置く。カチャリ、と部屋に響くカップの音は、拒絶の意思を感じさせた。


「――なら、急ぎなさい。次は、中途半端な報告は許しませんよ」


 そう言い捨て、席を立った少女は控えていた燕尾服の老人を連れ、部屋を出る。随分なことを言われていた男だが、むしろ愉快そうな表情を浮かべながら、ゆっくりと部屋を後にした。







「お嬢様……」


 廊下を歩く少女と老人。


 老人は何かを言いたそうにしているが、遠慮しているのか決定的なことは言わない。


 そうこうしている間に、少女の方が先に口を開いた。


「アルノー。優秀な人材を何人か集めて、常夜の森を調査させて」


「……森を、ですか?」


 アルノーと呼ばれた老人は疑問符を浮かべて聞き返す。


「あの2人が、ティオくんがそう簡単に死ぬ訳がないわ。例の力・・・もあるし、何より……いえ、なんでもない。とにかく、すぐに探させなさい」


「は……」


 自室に入り、戸を閉めながら少女は老人に指示を出す。扉が閉まりきるまで、老人は頭を下げていた。


「はぁ……」


 扉を閉めて少女一人になった後、ため息を吐きながら窓の外を眺める。その方角は、王都ベルナート、それから常夜の森がある方角だ。


「……ごめんなさい」


 そう、ぽそりと呟いた後、目を逸らすように振り返り、少女……アリンは、ベッドへとその身を沈めた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る