11 市街地戦
最前線の街へと向かう
「二人の銃撃は貫通力が高すぎますわ。街の外へ出るまでは銃撃はせずに魔力を温存しておいて下さい」
俺や緋月がへたに撃つとどこまで弾が貫通して行くか分からないからな。敵味方が入り乱れる街中の戦闘では貫通力が高すぎるのも考え物だった。
「まずは僕について来てくれ。前方の敵は全部僕が切り伏せる!」
腰に差した大剣を抜きつつ太郎さんが叫ぶ。金髪ロン毛なイケメン兎人である太郎さんが大剣を持つといかにも勇者という感じのオーラが漂いまくっていた。
「サポートはわたくしとアイシスさんでいいですわね」
エレーニアも張り切っている。だがここでエレーニアに思わぬダメ出しが飛んだ。
「……エレーニアも街を出るまでは見学でいい。エレーニアの魔法は範囲広すぎだし。……それにエレーニアは私より魔力も少ない」
魔力が少ないと言われたところでエレーニアの顔が曇った。エレーニアはサケマグロの森で一度魔力切れ寸前までいっている。エレーニアはその件について実は相当気にしていた。
それはアイシスさんも知っているはずなのだが、その傷口を平気でえぐる辺りアイシスさんはえぐい。
「……エレーニアの魔力が少ないのは研究室にこもり過ぎなせいだから。誘っても管理局に来ないエレーニアの自業自得だから」
エレーニアとアイシスさんの間には何かあるみたいだな。まあアイシスさんが管理局に誘っている時点で二人の仲はいいのだろうが。
そして言い方はきついが、アイシスさんがエレーニアを気遣っているというのも分かる。
エレーニアが森の戦いで倒れそうになったのを知っているからこそ、エレーニアにあまり魔力を使わせたくないという思いもあるのだろう。そしてSランクであるアイシスさんには魔力切れを起こさない自信もあるというわけだ。
話をしつつもアイシスさんは魔法を展開していた。夜明け前の暗闇の中でアイシスさんの周りに光輝く剣が浮かびあがる。
ライトソード。光の剣を投擲する光属性の汎用攻撃魔法だ。光属性を扱う者は初級者から上級者までこの魔法を愛用する者が多い。
同時にこの魔法は、他の魔法よりレベル差がはっきりと分かる魔法でもあった。単純に言うと、ランクに比例して一度に出せる光剣の最大数が変わる。
Eランクなら一本、Dなら三本、Cで十本、Bで三十本、Aで百本。そしてSランクなら三百本もの光剣を出せると一般的には言われているそうだ。もちろん剣一本ずつの攻撃力もランクが上がるほどに強くなる。
アイシスさんはその光剣を十本だけ出して体の周りに旋回させていた。いきなり三百本繰り出すような極端な真似はしないようだ。
「……基本的に魔法は発動までに時間がかかります。だから薙阿津さんの銃撃に連射性能で魔法は勝てない。……でもそれを覆す方法がこれ。発動までに時間がかかるのなら先に出しておけばいい道理」
とのこと。だがこの戦法にも弱点はもちろん存在する。光剣を体の周りに旋回させているだけでも魔力は消費し続けるのだ。これは膨大な魔力量を誇るアイシスさんだからこそ出来る戦法だと言えた。
ともかくこれで街を突破する準備は完了である。
俺達は太郎さんを先頭に敵味方が入り乱れる街の中を駆け抜ける。
街には何種類もの魔物が入り込んでいた。どちらかと言うとサケマグロより弱い魔物が多いようだが、普通にサケマグロより強い魔物も混ざっている。
だが問題は全くなかった。
太郎さんは少しも速度を落とすことなく前方の魔物を一刀のもとに切り伏せる。横から来る魔物も近づく前にアイシスさんの光剣に貫かれて倒れた。
光剣を発射するとその分アイシスさんの周りを旋回する剣の数が減るが、それは減ったそばから新たに補充されていく。
「……やはり街中では一度に襲ってくる魔物の数も少ないです。これなら補充が間に合わずに十本全部を撃ち尽くすということもないでしょう」
とのこと。
俺は太郎さんやアイシスさんが戦うのを見るのはこれが初めてだった。その感想としては……すごく手慣れているなと俺は感じた。二人は目の前の敵を倒すのに最適な、必要最小限の攻撃を繰り出し続けている。
俺はEXランクやSランクと言うならもっと派手な戦闘をするかと思っていた。だがこの二人はそんな無駄の多い戦い方はしない。
太郎さんは自分のことをEXランクの中では若造などと言っていたがとんでもない。俺から見れば、太郎さんとアイシスさんの戦いは老練にすら見えた。
そうして全く危なげのないまま俺達は街の外壁へと到着する。そのまま飛び上がって外壁の上へと登った。
街の外には街灯もないため真っ暗で何も見えない。
アイシスさんが光剣を一本だけ水平に放った。光剣が発する光に照らされて、下にある地面――ではなく、そこに蠢く魔物の大群が照らし出される。
水平に飛ぶ光剣はその姿が見えなくなる最後まで、地にあふれる魔物の大群を照らし続けていた。
街の外は――地平線の彼方まで魔物で埋め尽くされている。
「予想はしてましたけれど。ものすごい数ですわね」
まったくもってエレーニアの言う通りだった。
魔物が多すぎて地面も見えない。もし俺が連絡兵なら「敵が七分に地が三分だ」とか大声で叫んでいるところだ。
だが俺達は連絡兵などではない。この馬鹿みたいな数の敵を少しでも減らすために俺達は来ている。
「じゃあ始めようか」
そう言って何事もないかのように太郎さんが魔物の群れの中へと飛び降りた。飛び降りざまに近くにいる魔物を十体ほど葬りさる。
続いて俺と緋月、エレーニアも街の外へと降り立つ。アイシスさんだけは街の外壁の上に残った。そして新たな魔法を発動させる。
スターシェル。攻撃力は全くない照明用の光魔法だ。まぶしい光を放つ光球が上空に現れ辺りを照らす。
「……この光で近にいる魔物を全てこちらへと引き寄せます。……ここからが本番ですよ。街の外に人の気配はありません。……好きなだけ撃ちまくって下さい」
いよいよサブマシンガンの出番である。
「敵を確実に仕留めることは考えなくてもいいですわ。わたくしも魔法を放ちます。雑魚やダメージを受けた敵ならばそれで倒せるはずですわ」
「それでも近づいて来る魔物がいれば僕が排除する。でもここからの主力はあくまで君達二人だ。うわさに聞くユニークスキルの力。僕にも拝見させてもらうよ」
エレーニアと太郎さんも戦闘態勢に入る。
俺と緋月もそれに続いて銃を構えた。
H&K MP7 サブマシンガン。そこに取りつけてあるレーザーサイトから魔物の群れへと緑色の光が伸びていく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます