11 三人目の被召喚者
「オレだってちゃんと戦えるのに……」
青猫君が文句垂れまくりである。少し可愛そうになったので二体目のサケマグロは青猫君に相手させてみた。
……結果、普通に苦戦してました。
互角に戦えてはいるようだったが。倒す前に青猫君もダメージを受けそうだったので結局俺が倒してしまった。
「なんで手ぇ出すんだよぉ……」
愚痴られても困るとしかいいようがない。俺がやれば無傷で倒せる敵をダメージ受けつつ倒されてもな。
というかなんでこいつをメンバーに入れた? 俺が疑問に思っていると緑髪のおっさんが小声で話しかけてきた。
「その、なんだ。……弱めの敵が出たら、彼にも相手させてやってくれないか」
子供のおもりかよと。だがよくよく話を聞いてみると事実はそれよりひどかった。
実は……俺自身もおもりされる側にカウントされていたらしい。
そもそもこのパーティー、構成が最初からおかしかったのだ。ぶっちゃけ緑髪のおっさんにパンネ、エレーニアの三人でも十分戦える。
実は護衛する側の傭兵二人の方がおもり対象だったとか。なら初めからそう言えばいいと思うんだがな。
「君にまで隠していたのは悪かったよ。本当にすまない。だが……彼には内緒にしておいてくれないか」
緑髪のおっさんに念を押された。
俺は少し離れて歩いていた青猫君を眺める。確かに……このことを青猫君に話せばショックを受けそうではある。青猫君には黙っておくか。
結局この任務には目的が二つあったのだ。一つ目はもちろん基地局の設置だ。そして二つ目は、俺と青猫君のレベル上げという目的もあったとのこと。
青猫君はああ見えて中学生にしては強いらしい。将来有望とのことで傭兵ギルドでも積極的に育てようとしているそうだ。今回は緑髪のおっさんが見守る中、青猫君を強くするのが目的だった。
ちなみに俺はおまけである。
だが俺自身も戦闘経験はほとんどない。そんなわけで、パンネがせっかくだからと俺も誘ってくれたというのが実情だったらしい。
ちなみにこの世界では魔物を倒すとリアルに強くなれるそうだ。正確には魔物が倒れて魔法障壁が消滅する時にそばにいると強くなれる。
障壁消滅時に溢れ出す魔力を吸収すると魔力の最大値が上がるそうなのだ。これにより魔物を倒せばゲームみたいに力をつけることができるとのこと。
障壁消滅時に近くにいればいいだけなので、例えば俺がサケマグロを倒した後で青猫君に死体を回収させれば、弱い青猫君を鍛えることも可能ということだ。
ただし実際の戦闘は魔力量だけで決まるものではない。だから実戦もきちんと積ませないと駄目とのこと。
そんなわけで弱い敵の相手は青猫君にさせたりしつつ俺達は森の奥へと進んだ。
「それにしても、今日はサケマグロが集団で出たりはしないんだな」
これは森に入る前から疑問に思っていたことだ。そもそも今日みたく一体ずつ出るなら俺はサケマグロなんて怖くない。それはパンネにしても同じはずだ。
だが俺が召喚された日には十匹以上のサケマグロが集団で襲いかかってきた。だから森の中に入った日にはそれ以上の猛攻が来ると予想していたのだが。
「普通はこんなものですわよ。そもそもサケマグロは集団で人を襲うような魔物ではないですもの」
エレーニアに言わせるとサケマグロは危険な魔物でもないそうだ。普通なら今日のように偶然遭遇するだけの存在とのこと。だがそれなら初日のアレはなんだったのかと。
「召喚時の光とか、そういうのが魔物を引き寄せるって説はあるのよね」
パンネが言うには俺が召喚されたこと自体が魔物を引き寄せていたようだ。
「でもそれだって普通あんなには寄って来ないのよ。やっぱり薙阿津は最初から何か持ってたみたいね! その何かを感じ取ってサケマグロ達も襲い掛かってきたに違いないわ!」
嬉しくもなんともない話であった。だがそういう人間はすごい能力に目覚めたり、そもそもその人間自体が凄かったりする場合が多いそうだ。
実際俺の銃撃強化能力はすごい部類の能力らしい。それでサケマグロが寄ってきたのだとすれば、まあ……少しは納得してもいいかも知れない。結局勝てたしな。
そしてそんなイレギュラーさえなければサケマグロの森は特に危険な場所でもないということだ。
そうして俺達は順調に森の奥へと進み、基地局を設置するのに都合のいい場所を見繕った。
「じゃあパンネさん。基地局のユニットを出してもらえるかしら」
「うん、ちょっと待ってね。これ大きいし重いからちょっと大変」
しばらくごそごそした後パンネのアイテムボックスから基地局のユニットが出てくる。大きさは縦横一メートルくらいか。
これでもかなり頑張って小型化したそうで、科学技術が足りない分は魔法技術で補ってなんとかこの大きさにまとめたとのこと。だが持ち運びに便利とはとても言えない。
パンネのアイテムボックスがなければ相当苦労するところだろう。実際森の中などに基地局を設置するときは、ニムルス以外の異人会にパンネが呼ばれて行くこともあるという話だった。
ユニットを取り出した後はエレーニアの仕事だ。パンネは手伝いたがっていたようだがエレーニアに拒否されていた。なんとなくパンネは不器用そうだからな。
それ以前に素人が触っても危ないだけだろう。だから俺も手伝ったりはせずかわりに周囲を警戒していた。
そして特に何かが起きることもなく基地局の設置は終了する。傭兵として初めての仕事だったが思いのほかスムーズに終わったな。
などと思ってしまったのが悪かったようだ。
俺は五感全てに訴えかけてくるような違和感に襲われた。まるで世界そのものが壊れるような寒気のする感覚。だが俺がこの違和感を感じるのはこれが初めてではなかった。
この違和感の正体――それは。
「召喚の前兆現象ですわ。近くに誰かが召喚されてきますわよ!」
そう、この違和感は、俺が召喚される直前に感じたものと酷似していた。だが今感じているこの感覚は、あの時感じたものよりはるかに強い。
「一体……何が召喚されてくるっていうの」
いや、召喚されてくるのは日本人だと思うが。正確には日本にいる誰かなので外国人観光客が飛ばされてくるかも知れない。どちらにせよ飛ばされてくるのはあくまでただの人間なのだ。救助に行く必要があるだろう。
だが結果として俺達がその召喚者を助けに行く必要はなかった。召喚場所を示す光が俺達の目の前に現れたからだ。
そしてまばゆい光と共に召喚は始まり、被召喚者が俺達の前に姿を現した。
被召喚者は、俺と同じ歳の少女だった。ストレートの長い黒髪が日本人特有の美しさを醸し出している。その顔も同様に美しく、エレーニアが小声で綺麗とつぶやくのが聞こえた。
そして少女の目には強い意志が宿っており、その少女の口元は、こんな異常事態であるにも関わらず薄く微笑んでいるようにすら見える。
だがそんなことより、俺は彼女の装備に目を向けずにはいられなかった。そう、その少女は――
――対異世界装備が、完全だった。
「やぁ薙阿津。楽しい異世界生活を満喫しているかい? いや、君の異世界生活がどれだけ充実していようと私には怒りしか沸かないのだがな。……何か弁明はあるか?」
「ねぇよっ!」
俺は即答した。
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