09 射撃訓練

 異世界生活四日目。


 俺は傭兵ギルド所有の演習場に来ていた。演習場は街の外ではあるが傭兵ギルドのそばにあるため危険は少ない。


 この演習場は主に魔道士達が魔法の練習に使っている。そのため今も俺の近くで魔道士達が様々な魔法を放っていた。正直見ているだけでもすごい。


 魔法のランクには、下級、中級、上級魔法が存在する。下級魔法なら拳銃と大して威力は変わらない。だが中級になると一発の魔法が手榴弾クラスの威力になる。


 この演習場では中級ランクの魔道士が三名ほど魔法を練習していた。軍の演習さながらの勢いで目の前で魔法が吹き荒れている。


「やっぱり魔法はすごいわね! 私も使えたらいいのに」


 パンネがうらやましがっている。ちなみにこの演習場の場所はパンネに教えてもらった。パンネは傭兵ではないが以前からこの演習場は使っていたらしい。


 そのパンネは今日も元気にマシンガンをぶっ放していた。


 ミニミ軽機関銃。俺が昨日買った八九式小銃よりも強力な銃だ。


「私は銃火器も好きなんだけどね。これで威力がもっとあったらなぁ……」


 地球でならマシンガンも十分な威力があるのだが。


 まあそばでは手榴弾クラスの魔法を撃ちまくる魔道士がいるのだ。銃火器の威力不足は否めない。


 ただし、銃に魔力を込められない前提なら、だ。


「さてと、じゃあ俺も始めるか」


 銃を撃つのは三日ぶり。だがユニークスキルはちゃんと発動してくれてるようだ。


 まずは拳銃を構えて魔力を流す。その銃を遠くの岩に向けているとそばにいる魔道士が話しかけてきた。


「そんな小さな銃で何を真剣に狙っているのかしら」


 振り向くとそこにはピンク色の髪をした少女が立っている。


 年は俺より若いか。髪型はウェーブのかかったショートヘアだ。その髪の上に小さな帽子がアクセサリーのように乗っている。


 ミニハットって奴だな。ピンク色のウェーブヘアと相まってちょっと可愛い。


「マシンガンならともかく拳銃なんて子供のおもちゃですわよ。ここは傭兵ギルドの演習場。お遊戯なら射撃場でやるのがお似合いですわ」


 なんかめっちゃ馬鹿にされた。


 ちなみにこの世界にはちゃんと銃を撃つための射撃場も存在する。ただし遊技場扱いだが。だから拳銃を撃つだけなら普通はそこを使えばいい。


 だがな……俺のは威力が違うんだよ。


 ミニハット少女の相手をするのも面倒なので俺は黙って引き金を引いた。ベレッタから放たれた銃弾が遠くの岩へと着弾し……そのまま岩を貫通する。


 ついでにでかい風穴も開けていた。


「なっ……なんですの今のは」


 ミニハット少女が気持ちいいくらいに驚いた顔をしている。


「ふ、ふんっ。あなた……何か能力を持ってはいるようですわね」


 ミニハットは一度見ただけで俺の能力に気付いたようだ。普通なら拳銃で岩に穴は開かないからな。気付くのは当然か。


「ですが所詮は初級魔法クラス……くらいですわ。私の魔法の方がすごいですわよ」


 なんかアホなことを言い出した。俺はどうでも良かったのだがミニハットは対抗するように魔法を放つ。


「砕け散りなさい。フレイムバースト!」


 ミニハットが呪文を唱えると小さな火球が遠くにある岩へと向かう。そして着弾すると大きな爆発をおこしてその岩を派手に吹き飛ばした。


「見たかしら? あなた珍しい能力は持ってるようだけど、珍しいだけで決して強い能力ではありませんわね」


 何か勝ち誇ったような顔でこっちを見ている。


 俺は初めから勝負する気もないのだが。そもそも貫通力では俺の拳銃の方が上だしな。


 だが俺としてもしゃくぜんとしない気持ちはある。


 なので次は拳銃ではなく八九式小銃を構えた。元々今日の主目的はこいつを撃つことだしな。


 八九式はアサルトライフル。ライフルなので当然一発の威力も拳銃より高い。その上フルオートで撃てば毎秒十発以上の速度で弾丸がばらまかれるのだ。


 これを使いこなせれば傭兵として十分戦えるだろう。


 装弾数が三十発しかないからフルオートだと二~三秒で撃ち尽くしてしまうという弱点はあるが。


 ともかくまずは検証だ。


 俺はさっき撃った岩よりも遠くの岩を狙い小銃に魔力を込めた。まずは単射で威力を見る。


 打ち出された弾丸は見事に岩へと直撃。岩を粉々に吹き飛ばした。弾はそのまま直進して演習場の奥にある小さな森へと入っていく。


 森の木が2、3本吹き飛ぶのが遠目に見えた。


「なっ……」


 ミニハットが再びいい顔をして驚いている。


 岩を吹き飛ばした威力だけならミニハットの魔法と大差はないだろう。それより遠くの木が吹き飛んだ方に驚いたようだ。


「ぐぬぬ……」


 ミニハットがいい顔でくやしがっている。顔を見る分にはもう俺の力は伝わったようだ。だがそれとは関係なく俺にはまだ試すことがある。


 フルオートだ。


 単発でも威力が高いのは分かったがやはり連射してこその自動小銃。そういうわけで次は森を狙おうと思う。


 ちょっと不安になったのでパンネに確認はとるか。


「なあパンネ。あの遠くにある森も演習場に入ってるんだよな? 今から吹き飛ばそうと思うんだけど」


「あ、うん。大丈夫よ。敷地に入ってるかは分かんないけど外もどうせ未開領域だし」


 未開領域だからいいという理屈は謎だが。まあ問題はないのだろう。


 俺は再び銃を構え銃身に魔力を流す。そしてセレクターをフルオートにセットした。そのまま引き金を引き絞り――


 俺は意識を失った。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 気が付くと俺はベッドの上にいた。場所は傭兵ギルドだ。


 俺は演習場で倒れたらしい。理由は魔力切れ。


「ふんっ。自分の力量もわきまえずに倒れるなんて愚かな男ですわね」


 ベッドの横にはパンネだけでなくなぜかミニハット少女もいた。どうやら俺を運ぶのを手伝ってくれたらしい。


「なんか迷惑かけちゃったみたいだな。すまない」


「べ、別にあなたの為にやったわけじゃありませんわ。わたくしの、エレーニア・ベルペの誇りとして、目の前で倒れた人間をほっておくなどできなかったというだけですわ」


 このエレーニアという少女、意外といい奴なのかも知れない。


「まあこれに懲りたら分相応に自重することですわね」


 話し方がいちいち偉そうな気はするが。だが言っていることは的を得ている。


 八九式は俺には合わないように感じた。単純に俺の魔力が足りなかったというのもあるが。


 八九式の装弾数は三十発だが俺は十五発を撃った辺りで魔力が切れたようだ。八九式は使うにしてももっと強くなってからの方がいいかもしれない。


 元々俺は二丁拳銃で戦う方が好きだしな。


 ベレッタの方はいい感じだった。弾の種類が違うからかこっちなら十六発撃ち尽くしてもいけそうに感じる。威力は落ちるがそれでもサケマグロ程度となら十分戦えるしな。


 やっぱりこれで行くのがいいだろう。


「それにしてもあの威力、凄まじいものがありましたわね」


 ミニハット少女、エレーニアがつぶやいていた。


 パンネに聞くと俺は森の半分くらいを吹き飛ばしていたらしい。まあ森を吹き飛ばすというのは少し大げさで、実際には中の木を十数本飛ばしていただけのようだが。


 だがこのエレーニアという少女をびびらすには十分だったようだ。


「あなたの名前、聞かせてもらってもいいかしら?」


「俺は捧 薙阿津だ。よろしくエレーニアさん」


 名前を聞くとエレーニアは満足そうにうなづいた。


「ではわたくしはこれで失礼しますわ。捧 薙阿津、あなたの名前は覚えておきますわよ」


 なんか捨て台詞のようなものを残して去っていった。



 その後は迷惑をかけたギルドにお詫びを言って異人会へと帰る。帰った後俺が倒れたことを知った綾ちゃんに心配されたりしたが。


 安静にした方がいいとのことなので四日目はそのまま綾ちゃんと部屋で過ごした。

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