第15話
そんな事があったのが、昨日の話。
俺はそのままシエラの部屋で落ち着かない1晩を過ごし、今日を迎えた。
当然病院に任せてきた姉さんの事が気がかりでならなかったが、医療に関する知識などまるで無い俺にはどうする事も出来なかった。
そして今、シエラと春を何とか諌めて事なきを得た俺は、シエラと春の険悪なムードに挟まれたまま無事学校まで到着した。
昇降口でシエラと別れ、俺は春と2人で2年D組まで向かう。
「それでナオくん? シエラちゃんの事は、ちゃんとした説明が聞けるのよね?」
春が俺の隣を歩きながら、もの凄い険相で尋ねてくる。
「だ、だから昨日シエラが駅の爆発に巻き込まれた所を偶然俺が助けて、そしたらシエラがイギリス式恩返しの為に今度は俺を助けるとか言うから、一緒にいただけだって。ホントそれだけ。さっきもそう言ったろ?」
俺は気まずさ全開で言う。とりあえず、春にはそういう説明で通しておいた。
無論、春に真実を言う事など出来ない。
言っても信じてもらえないだろうし、下手をすれば春に危険が及ぶ可能性もある。
俺は、嘘を貫くしかなかった。
「ふ~ん……」
春はじっとりとした目で俺を見る。
疑ってる。明らかに疑ってるよ、この目は。
「……まあいいわ。今はそういう事にしといてあげる。それより良かったわよ。ナオくんに大事がなくて」
「? 大事って?」
「そりゃ昨日の爆破テロよ。シエラちゃんを助けたってことは、現場にいたんでしょ? ニュースじゃ駅の構内にいた50人以上が死亡、100人以上が怪我をしたって言ってたわ。……ホント……酷いわよね……」
春が哀しそうに俯く。
……そうか、昨日の爆発で、そんなに犠牲者が……。
俺も眉をひそめ、悔しさを噛み締める。
そう、確かに俺は無事だった。
しかし、俺を狙ったテロの巻き添えになり、亡くなった人達が大勢いるのだ。これは、許されることじゃない。
だがそれも春に打ち明けることもままならず、
「ああ……俺はなんともなかったよ。この通りピンピンしてるさ」
作ったような笑顔で、そう言うしかなかった。
「ふん、当たり前よ。怪我で包帯だらけになったナオくんなんて、見たくないわ」
春は気丈にそう言いながら、プイっと顔を背ける。
そうこう話している内に、俺達のクラスである2年D組に到着した。
クラスの中には正樹もおり、トレードマークであるベースボールキャップはすぐに俺達の方を向く。
「よお、お2人さん。朝から一緒に登校とは、仲のよろしいことで」
「全然よくないわよ。最悪よ最悪、ナオくんったら――――」
春は不機嫌そうに言い掛けたが――――ある物を見た途端、声を失った。
「?」
俺は不思議に思い、春の視線の先を見る。
すると、クラスの左前方の席で1人の女子が席に座って顔を抑え、声を出して泣いていた。
泣いている女子を慰めようと、他のクラスメイト達数人が席を囲っている。
「あれは……」
俺は状況がよく掴めなかったが、春は何も言わず、泣いている女子の席まで真っ直ぐに歩いて行く。
春はすぐに泣いている子の肩に手を置き、声を掛ける。
すると泣いている子も春に気付き、まるで子供が母親にすがるかのように、わあわあと泣きながら春に抱き付いた。
「……何があったんだ?」
俺は正樹に尋ねる。
正樹は神妙な面持ちで、俺に説明した。
「……あの子、昨日の爆破テロで親父さんを亡くしたらしい。しかもその親父さんは爆発した電車に乗っていたせいで、ご遺体がほとんど残ってなかったとか……」
「――――ッ!」
その言葉を聞いた俺は言葉を失い、泣き止む事の無い女子を見た正樹はベースボールキャップのつばを掴み、深く被る。
――――これが、テロの現実なのか。
なんの罪もない人達が、テロを起こす者達のつまらぬ理由の為に、なんの理由もなく命を落とす。
彼女も、彼女の父親も、昨日までは平和に暮らしていたはずだ。
それなのに、彼女の父親も、そして家族を失った彼女も、皆テロの犠牲者になってしまった。
テロに巻き込まれて死ぬなんて、人の死に方じゃない。
絶対に許されてはならない。
俺はテロを起こしたあのベティーナという魔術師に激しい怒りと憎悪を覚えながら、爪が皮膚に食い込むほど強く拳を握り締めるのだった。
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